第28話 蜥蜴の尻尾切り
後宮――
「
ガシャーン! パリーン!
けたたましい音を立てて、高級な
「フーッ、フーッ」
目の前に物がなくなると、今度は立ち上がって飾り棚を目指し、そこに飾っている
「怒りをお鎮めください、劉
激しく息巻いていた劉賢妃は、
「
「劉
「……琴沙……」
二人で涙を流しながら慰め合っていたその後ろから、珍しく正装している
「ハハハッ! ざまぁねぇなぁ」
楽しくて仕方がないといわんばかりに笑う軒虎を、劉賢妃は涙で目を真っ赤に充血させ、鬼の形相で睨み上げた。
「軒虎……! お前……っ、何をしに来たの!?」
劉賢妃の顔は化粧が剥がれ落ち、髪型は崩れてボサボサで、まるで
「何って、決まってんだろ? アンタのその醜い顔を見に来たのさ」
「もうここはアンタの居場所じゃないのよ! さっさと
唾を散らしながら喚いた劉賢妃に、軒虎は片眉を上げて、呆れた表情を見せた。
「なぁに言ってんだ? 俺はまだアンタの養子だぜ?」
「……なに? 何を言って、」
「あら、みっともない。謹慎中といっても、こなた達は陛下の女……常に身綺麗にしておかないと。ね?」
劉賢妃の言葉を遮って軒虎の影から現れたのは殷貴妃だった。いつもながら若々しく、化粧も薄くほどこしてあるだけで、大きな翡翠の瞳が宝石代わりとなって華やかだ。その品良く可憐な顔をぼうっと見つめて、劉賢妃は首を傾けた。
「殷……お姉様……?」
「なぁに?」
「ど、どうしてここに……?」
「それはねぇ」
殷貴妃がパンパンと手を叩くと、鎧を身にまとった
衛士たちは腰に
「こなたは陛下の命を受け、王妃殺害未遂の主犯、劉賢妃を捕らえに来たのよ」
「なっ……!」
「流石に陛下も、今回ばかりは看過することはできなかったみたいね」
フフッ、と笑って、殷貴妃は扇子を広げて口元を隠した。
「ああ……本当に悲しいわ……
わざとらしく泣いてみせる殷貴妃を、軒虎は冷めた目で一瞥し、冷笑を浮かべて劉賢妃を見下ろした。
「ま。そう言うことだ。俺は母親の悪事を告発したってことで、陛下から恩情を与えられた。望みを一つだけ叶えてくれるそうだが、その為にはアンタを拘束しなくちゃならなくてな。……どのみち、
「シェン……フー……! お、ねぇ……さ、まぁ……っ!!」
「あらやだ。そんな恐ろしい形相で、こなたを見ないでちょうだいな。この捕物劇を考えたのは、こなたではなくこの子――軒虎なのだから」
「なっ!?」
「こなたを恨むのはお門違いだわ」
「し、軒虎……なぜ……」
「あ? 何故もクソもあるかよ。もともとアンタは捨て駒だったんだ。……気づいてたんだろ? あと、今回の件に俺まで巻き込まれたらたまんねーからな。悪いが、蜥蜴の尻尾切りってやつだ」
軒虎がパッと手を振ると、衛士たちは一斉に劉賢妃を捕らえにかかった。
劉賢妃は、なんとか逃れようと両手をばたつかせながら軒虎を睨む。
「軒虎!!」
しかし、所詮は非力な女。屈強な男の腕力にかなうはずもなく、後ろ手を組まされ、荒縄で締め上げられる。
やめて、放して、と暴れる往生際の悪い劉賢妃を、軒虎は路傍の石を見るように眺めた。そして――
「いままで
軒虎がくるりと背を向けると同時に、劉賢妃は荷物のように抱え上げられる。
「軒虎ーー!!」
怒りと悔しさのままに軒虎の名を叫ぶも、軒虎はぴくりとも動かない。
劉賢妃はうろうろと視線を彷徨わせて、涙でぼやける視界に殷貴妃の姿を捉えた。叫びすぎてひりつく喉をあえがせながら、
「おっ、お姉様……! おねえさまぁっ! 助けてっ。助けてくださいませぇっ!」
と言って、ひたすら助けを乞うが、殷貴妃はにこにこと微笑むばかりで手を貸そうとはしない。
――本当にこれで終わるのだ。
そう思った瞬間、とてつもない恐怖感と震えが、劉賢妃を襲った。
「――! ――!!」
まともな言葉さえ吐けなくなってしまった劉賢妃は、衛士たちの迅速な働きによって、軒虎と殷貴妃の前から消え去った。そしてその場に残り、劉賢妃の軌跡を見つめていた琴沙に、殷貴妃がほっそりとした手を差し出した。
「琴沙。長い間、ご苦労だったわね。
光を失った琴沙の両目が、『琴汐』の名前を聞いたことで、再び光を取り戻す。
(……あまりにも長い間、
――だが、まあ、大丈夫だろう。
「お前の双子の妹の琴汐が待っているわ。安心なさい。瑞祥宮に戻ってくれば、全て
そう
「やっぱり、
と、吐き捨てるように呟いたのだった。
この日から数日後、劉賢妃は絞首刑に処された。そして亡くなった劉氏の養子――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます