異常現象

エリー.ファー

里中悟の聖域

 里中悟の聖域について。


 発見までの経緯。

 里中悟の聖域は、平成七年十一月十九日に、東京都豊島区薄木町の薄木銀座商店街の仲通りにあるパチンコ店であるアルテスイート薄木店の二階で発見された異常現象である。

 平成七年十一月十九日に、パチンコ店を利用する客から店員に、ピアノの音がうるさくて台の音が聴こえないことがあるので何とかしてほしい、との苦情が出た。しかし、店員にはピアノの音が聴こえないことから、当初はその苦情を悪質なクレームとして処理する予定だったが同様の苦情が同日に複数出たため対応を開始した。

 現在は使われていない二階にグランドピアノがあることを突き止めて向かうとそこでは男がピアノを弾いていた。

 店員は男に話しかけたものの、男からの反応は一切なかった。ただし、男の胸にネームプレートがあり、そこで男の名前が里中悟であることが発覚した。


 異常現象の詳細。

 里中悟の聖域が起こす異常現象は、視認した人間に里中悟と思しき存在の演奏を聴かせ続けることである。この時、耳を塞ぐなどの対策は一切の意味を持たず、また演奏の音量は上限なく上がっていくことが分かっている。

 唯一の対策は、里中悟を視認できる場所に移動すること、つまり聖域に移動することであり、これにより音量を下げることができる。ただし、決して無音の状態にすることはできない。

 また、里中悟の演奏を止めるために近づこうとすると、里中悟やピアノの影などの死角から警備員が大量に現れ、遠ざけてくるため不可能である。ちなみに、里中悟の射殺やピアノの破壊、大音量を流すなどして演奏の妨害なども試みたが一切の効果はなく、演奏は今も続いている。

 影響を受けた人間はアルテスイート薄木店を利用していた客が六名と店員が二名の計八名である。客はアルテスイート薄木店のトイレが二階にあることから、間違って里中悟の聖域が発生している部屋に入ってしまい、巻き込まれることとなった。店員は発見までの経緯に書かれている通りである。




「聴く意味もない。呪わなければ聴いてもらえぬ演奏なのだろう」

音楽評論家

久田誠之助

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異常現象 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ