第5話 動物と会話する?

S級パーティ”レッドストーム”がアルトザルミアと言う街に差し掛かったとき、


「ずいぶんのどかな街だね」隣に座っていたマルガレーテが外を見ながら言った。

草原地帯の彼方、教会の尖塔を中心にした街並みが見えてきたのです。


街に入ると、多くの店があって、人だかりがしています。

大きな木の並木があって、教会の前には大きな噴水があって。

「なかなか賑わってるのね」

「以前行った街と比べると雲泥の差だなぁ」

「それじゃギルド事務所に行ってみよう」


街の中心部にレンガ造りのこじんまりとしたギルド事務所がありました。

ここも多くの冒険者とパーティで、なかなか混雑していますが・・・

「レッドストームのみなさんですね。帝都からわざわざおつかれさまです」

「いえいえ。あのミヤスミレの依頼で来たのですが」

「はいはい、ここのパーティでは手に負えないので帝都のギルドに依頼したのです」

事務所を見る限り、かなり冒険者が多いように見えるのですけど・・・

「いくつかのパーティが行っているのですけど、ほぼ何も得ず帰ってくるんです」

「たまに戦死者も出る始末。なかなか魔物の数が多くて・・・」


「で、その場所はどのあたりですか?」

「ここから馬車で2時間ほど行ったところにある森の中なのです。

 西へ進む街道の途中に大きなケヤキがあって石碑があります。そこを右に折れて

 しばらく進むと森が見えてきます。そこまでは草原地帯を抜けて行きますね。

 では、お気をつけて」


街を抜けて街道を進む一行。

馬車は商人たちがアルトザルミアへ向かっています。

「結構賑わってるんですね」

「ああ、事務所で聞いたらこのあたりの農産物はここへ集められて、

 帝都へ向けて出荷されるんだそうだぞ。だから人が集まるんだとか」


しばらく進むと大きな木が見えてきて、小さい石碑が有りました。

【道行く旅人に神のご加護を】とあります。旅人の安全祈願のものでしょうか。


街道をそれて草原地帯を進むと、前方左手で何かやっているようです。

帝国騎士師団の旗が見えます。おそらく演習でもしているんでしょうか

そう言えば石碑の隣に【帝国軍演習場は→】と書いてあったし。


「一隊!前へ!」

「突撃!!!」

と号令をかけている女性騎士隊長がいました。凛とした佇まいがカッコいい!

数名の幕僚に囲まれている女性がいました。あれはエミーリア大佐では?


こっちへ手を振っている!やっぱりそうだ。

「大佐殿ではありませんか」大佐は今日も上機嫌のご様子。

「おお!フェリーチェか、貴様今日は何様なのだ?」

「ギルドのお仕事です」

「そうか!精一杯励むのだ!それがS級騎士の務めだ!頑張って来い!」

「はっ!ありがとうございます大佐殿」と敬礼してその場から離れまして。


「あの人?フェリーチェが言っていた人?」

「そう、エミーリア大佐よ。カッコいいでしょ」

「まじカッケーな。一度お話ししてみたいもんだわ」


帝国軍が演習をしている場所を離れて、しばらく進むと

目的地の森が見えてきます。かなり鬱蒼とした場所のようですね。


「じゃあここで、とりあえず馬車を止めておこう」

アルベルトは大きな木に馬をつないで荷下ろしを始めました。


「俺とラインハルトは偵察に行ってくるから、お前たちはここで野営の準備を頼む」

そういってアルベルトと二人は森の中へ入って行ったのです。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


鬱蒼とした森の中のけもの道を進む二人。

「どうだラインハルト、何か感じるか?」

「何者かの視線を感じはしますけどね、さほど強いものではないようですが」


森の中を進んでいくと、やがて小川を越えて、湿地帯を進むと

薄紫色の花をつけた草丈60cmくらいの美しい花が咲いているのを見つけて。

「これかなぁ・・・身をつけて・・・あ、これか?」

ラインハルトが身に着けている魔術のうち "透視魔術” を使うと見ているものの

名前やらいろいろなものが目の前に辞書の様に見えるんだって。すごいですよね。


「ミヤスミレ:草丈60から80cmほど湿地帯に自生する多年草。

       紫色の小さな花をつける。花は一日で枯れ、その花が実になる」

「じゃあ、枯れているものを見つければよいのだな」

「そう言うことですね。これとか」

「お!早いな見つけるの!」


その実を見つけた、その時。


ガルルルルルルルルゥゥゥ・・・・・と複数の唸り声が聞こえてきたのです。


「なんか声が聞こえない?」とマルガレーテが言うけど、女子は野営の準備中だし。




「おい!あれを見ろ!」アルベルトが指さす先を見ると、20頭ほどのゲルベロスが

二人を威嚇するように近づいてくるのが見えました。

「これはマズいぞ、いったん引き上げよう」

「そうですね」


ゲルベロスの目をジッと見ながら後退していく二人。

でも、その後ゲルベロスの群れが襲ってくることは無かったのです。


「あのゲルベロスたちが採集に来ていた人たちを襲ってたってことですよね」

「そう言うことになるな」

「と言うことだと、あのミヤスミレの群生地を守っているのかもですね

 だとすると、実を持ち帰るのは難しくないですか?」

「そうだなぁ・・・どうする?ラインハルト」

「見た限り、ボスのようなやつが先頭に居ませんでした?あれと会話が出来れば

 何とかなりそうですけど」

「動物と会話か・・・出来る奴いたか?うちのパーティに」

「いないと思いますね・・・あ!マルガレーテができるかも」


女子が野営の準備をしているところへ戻って来た二人が

「動物と会話できないか?誰か」

顔を見合わせる三人の女子。「わたし、やってみましょうか?」

「マルガレーテ、お前出来るのか?」

「完全ではないですが、そんなことを魔術学校で教わった気がします、

 ラインハルトも出来るんじゃない?」

「あーそれな、それって選択科目だったじゃん、俺さ、それ選ばなかったんよね」

「じゃあダメか・・・まぁとりま、やってみますよ」


日が落ちてきたので

「きょうはこれまでだな。また明日朝の食事が終ったら全員で森へ入る。いいな」


たき火で焼いたイノシシ肉と付け合わせの野菜、パンとスープ。

「今日はマルガレーテとローザが食事を作ってくれましたよ」

「うん!美味い!イノシシ肉はいつ食べても美味いなぁ」


空は満天の星空、

「きれいねぇ・・・こんなにお星さまがみえるなんて」

「月も美しい・・・」

と夜空をみながら寝に入ったのでした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「よーし!みんな起きろ!準備始めろよ!」

アルベルトの号令一下、寝袋から這い出して着替え、顔洗って出発準備。

「みんなとりあえず、食事だよ!」

朝は簡単な食事をして身支度整え、森に向かっていざ出陣。


けもの道を進むと、小川があって湿地帯。

そこにミヤスミレが群生しています。


すると・・・


ガルルルルルルルルル・・・・

グガァァァァァァ・・・・


「おい、昨日と違うのが居ねぇか?」

「ちょっと毛色の変わったヤツっすよね、灰色っぽいの」

「ああそうだ、ヤツが親玉なのか?」

「そのようですねぇ。マルガレーテ、ちょっとやってみてくれないか?」


マルガレーテがいつも持っている白と青の杖をその”親玉”へ向けて、

なにか詠唱していると・・・


「おい!人間たち!」と親玉みたいなやつが喋りだした・・・

「あれっ?喋ったぞ!」「マジか!」

「聞いているのか?野蛮な人間ども」


その親玉みたいなのが喋っている間、他のゲルベロスたちはじっとして動かない。


「お前たちがここまでやってきて、この神聖な土地を荒らしていっている」


「このミヤスミレと、その周辺の土地はわたしたちの守り神なのだ」

「だから誰にも渡さん!!」


親玉が喋り終わると、黙って聞いていたほかのゲルベロスたちが、

じりじりとこっちへ向かってくるのです。

「マズい・・・あいつらを怒らせたのか?」


「マルガレーテ、俺たちの話を聞いてと伝えられないか」

「解りました、話してみます」

マルガレーテが杖をその親玉に向けて、また詠唱し始める。


「お前たちの言い分は聞き飽きた。欲望しかない人間どもに分け与えるものは

 何もないのだ!帰れ!」

「いいえ、私たちは、あなたたちと争うことはしません。

 ミヤスミレの花と実を少し分けて欲しいだけなのです」

「ダメだ。お前たちはそれを自分たちの欲だけに使おうとしている。

 この花と実はわれわれにとって神聖なものだ。それを知った人間どもが

 何人もここへ来て、この場所を荒らしまわったのだ。それが許せない!

 だからお前たち人間に分け与えるようなものは何もない!帰るのだ!」


「これはダメだなぁ・・・あきらめて帰ろうか」

「親分がそう言っている以上、無理だよなぁ」


するとマルガレーテが前へ出て

「私たちはただ単に欲しいと言っているわけではありません。

 この土地を保護して、あなた方の領分を犯すようなことは絶対しません。

 ほんの少しで良いのです。ミヤスミレの花を分けてもらえませんか?」

「この付近の土地を帝国保護領としてもらう様に働きかけます。

 ぜひ、ほんの少しだけで良いですから分けてください。お願いします」



ややしばらくすると、親玉と思われるひときわ大きいゲルベロスがこう言った。

「解った、お前が言う様にこの土地を守ってくれると約束するなら、

 花と実を分け与えよう。その代わり約束を破ったら、お前たちの街を破壊する

 そして住民たちを殺す。それでいいか?」

マルガレーテはパーティメンバーに振り向いて、うなずく。

「それでよいです。私たちはあなた方の土地を守ります」


「では、ミヤスミレの花と実を持っていくがよい」

花と実がついた茎と10本ばかり刈り取る間中、ゲルベロスたちはジッと見ていた。


「じゃあこれだけもらって行きます」

「ああ、では約束を守るように!」というとゲルベロスたちは森の奥へ帰っていった

10本ばかりの束を抱えて、マルガレーテとローザがフェリーチェに守られて戻って来た。


「これだけあれば」

「でもマルガレーテ、あの約束どうするの?」

「あの師団長閣下へ頼んでみようかとおもってるの。フェリーチェもいっしょにね」

「難しいとは思うけど、聞いてみよう」


ラインハルトが御者となって馬車でアルトザルミアの街へ戻る途中。

「ラインハルト、あそこに帝国軍宿営してるでしょ?あそこ行ってみよ」

「お、解った」


宿営地の入り口で衛兵に止められた一行。

「何者だ!ここは貴様たちが来るような場所ではない!帰りなさい!」

「師団長閣下にお目にかかりたいのです」

「閣下はお忙しいのだ、帰れ!」


と衛兵たちともめているところへ、従兵と共にエミーリア大佐がやって来た。

「なにを揉めておるのだ。お!貴様はフェリーチェではないか?何故ここへ?」

「閣下に折り入ってお話ししたいことが有りまして」

「どういうことだ?」

あの森であったことをかいつまんで話すと。

「そういうことか、なるほど話は分かった。

 では皇帝陛下にお会いするときに、申し上げておく。それでよいか?」「はい」

「もう時間も遅い、我々の宿営地で泊まって行ってはどうだ?」

「良いのですか?」「ジョナサン師の教え子なら、わたしとは師弟の様なものだ」


宿営地での夜。

「こちらの方々はS級パーティレッドストームの方々だ、私のお客様だ。

 くれぐれも粗相のない様に」と従兵たちに告げると・・・

「そなたたち、どうする?食事は?」

「まだですが」

「では私といっしょではどうだ?」

「よろしいのですか?」

「もちろんだ」

「では、お言葉に甘えて」


さすが帝国軍第一騎士師団ともなると食事の質がまるで違うんですよねぇ・・・

皇帝陛下を直接お守りする人たちだし、何かあった時にはいち早く出動する訳から

それなりに待遇である事は当然ですけれど。

「そなたは酒はどうだ?」アルベルトは何か緊張してるのか

「は、ああ、は、っはい、少しですが・・・」

あのギルドの宝と言われたアルベルトがこうも緊張してるとか、笑っちゃいますが。

だけどさ、師団長閣下の前でウソはいけませんねぇ・・・彼は大酒飲みですから!


「あの、ちょっと聞きたいのですが?」

「おお!なんだ?どんなことでも聞くがよい」

「大佐殿は独身ですか?」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!貴様!何と言った!!」

大佐殿はその場に立ち上がり、ラインハルトの方へ歩み寄ると・・・


チャキンと音がしまして・・・


スッと剣を抜く音が


「あ!いや!申し訳ありません!今の質問は取り消しです!!!」

「うむ、解ればよろしい・・・確かに私は独身だ。許嫁がいるわけでもないし

 さりとて、結婚はまだと思っているし、貴様ならどうするのだ?」

なんだか、雲行きが怪しそうなので・・・

「私たちは、そろそろ・・・お暇かと・・・」

「そ、そそうか。。。ではエリザベス、この方々をお連れしなさい」

「はっ!」


と言うことで帝国軍の宿営地で泊まることになったのでした。


第5話 完




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