第11話 怪しい雰囲気

「じゃぁ、僕はこれで帰るよ」

「もう、行ってしまうんですか。もう少し、私が眠るまで傍に居てくれない?」

「どうしたんだ。今夜の司は変だよ」

「知って居て?私、謁見の時、足が震えていたの」

「うん。知ってたよ。でも、誰にも気付かれて居ないよ」

「それなら、良いんだけど」

「これから、もっと大変になるんだよ。その度に僕に頼るのかい?」

「もう、いいです。勝手に自分の部屋に戻れば~」

「わかったよ。そんなに口を尖らせないで。皇女様の貴賓が失せてしまうよ」

「意地悪!」


 司はすねた素振り見せてベッドに潜り込んだ。

 幾ら高い志を抱いて居たとしても、やっと、18歳に成ったばかりである。

 誰かに、何かに頼らざらるを得ないのであろう。


 新も又、そう云う所は心得ていた様である。

 そ~っと、司の横に体を忍ばせた。


「ありがとう。・・・こうして居ると娑婆世界での事を思い出しますね」

「うん。爺さんは元気にしてるだろうか?」

「今頃は、五右衛門風呂で鼻唄を歌って居るんでなくて」


「うっ!」

「どうしたの?」

「何でも無いよ」

「又、股間が腫れたのですか?」

「どう仕様もないやつだ」

「私に任せて。蓼の葉っぱは?」

「もうかじったから大丈夫だよ」

「なら~」


 司は新の股間に手を滑らせた。

 どう云う訳か、途端に新は眠りに着いた。


「まぁ、もう~」



 キラリの部屋では大騒ぎ。

「サド、どうしましょう?」

「えっ、私に言われましても」

「ダメ、ダメです。こんなのは」

「キラリ様、何処へ~」

「決っているでしょ。宮様の寝所へ」

「ふぅ~。なら、キラリ様にお任せします。私はこう云う事は苦手で~」


 どうやら、キラリは司の寝室に忍び込み、寝ずの番をするつもりのようだ。

 新を叩き起こせばそれで済むのだが、眠りに着いた新を刺激すのは避けるに越したことは無いと考えているのだろう。

 キラリも新の不思議な能力を認め始めて居るのかもしれない。


 

 朝が来て、司の方が先に目覚めた。

「新、起きて」

「ん~ん。まだ、いいだろう」


 新は眠気眼(ねむけまなこ)を擦りながら体を起こした。

 司は小声で、

「ほらっ、キラリが~」

「ほんとだ」


 キラリはベッドの脇で膝を抱えながら眠って居た。

 二人とも凡その見当が付いたみたいだ。

 司は手振りで新に退室を促した。


 それこそ、抜き足差し脚の体(てい)で、新はベッドから離れ、寝室を出て行った。


『ガッタン』


と扉が閉まる音でキラリが目を覚ました。


 キラリは辺りを覗っている。

「宮様、新は?」

「何を言って居るの。ここにはあなたと私だけですよ」

「え~。そんな筈は~」

「キラリこそここで何をして居るの?」


 キラリは自分が眠って居る間に新が部屋を出たと気付いたが、あからさまに口に出せないでいる。

 遠まわしで司を諫める他無いようだ。


「宮様、殿方と云うモノは魔物に急変する事が有るのですよ」

「???」

「もう、じれったい。どう云えばいいのやら~」


 司は笑って、

「さぁ、どう聞けば良いのでしょう」


 司に髪やパジャマの乱れが無いのを確認したキラリは、

「差し出がましい事ですが、宮様のお部屋には監視カメラを備え付けて置きました。宮様の身の安全を考えてのことです。その事を弁えておいでで下さい」

「分かりました。気苦労を掛けますね。

 所で、キラリの部屋はどうですの?叔母さまから、耳障りな事を聞かされて居ましたけど~」

 

『ギクッ!』


「そのような奥様のお戯(たわむ)れを真に受けないで下さい」


 キラリは思い図った。

『案外、宮様はその辺のことをご承知なのかも知れない。と云う事は、私の老婆心だったのかも~。いやいや、用心に越したことは無い』


「どうかしました?」

「えっ、私ですか」

「ええ、心ここに非ずと見えますけど」

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