ポイたま
あおい三角
夕飯はガチャポン
「ダメダメダメ、私に言ってもダメだって!」
モエピはトコトコと近づいてくる彼に気づいた途端、まるで煩わしいハエでも追い払うかのように、両手をバタバタと振ってみせました。
「まだ何も言ってないだろ!」
彼は声を荒げました。その声には、わずかに焦りが混じっているようでした。
「どうせ名前を付けろって言いに来たんでしょ。お月様にお願いしてたもんね」
モエピの口元に、不適な笑みが浮かびます。
「えっ」
彼の背筋が凍りました。
(待てよ、この話をしに来たわけじゃない!どうしてバレてるんだ……?よりによって、一番知られたくないヤツに……)
冷や汗がにじむ彼をよそに、モエピは淡々と続けます。
「私はペットを飼わないの。だから名前を付けてあげられないわけ。イヌはイヌ。分かった?」
彼女は軽やかに踵を返し、「じゃあね」とだけ言い残して去っていきました。
彼は引きつった表情のまま、心の中で嘆きます。
(ネコだって……!)
しゃべるネコはもう、モエピに近づいた本当の理由なんて、すっかり頭から抜け落ちていました。
(クッソ。オレはどうして名前なんか欲しがったんだ。オレは気高い野良猫だ!自由なんだ!)
しゃべるネコは心の中で噛み締めました。
「おーい、モエピ!オレは自由だ、旅に出る!」
しゃべるネコは去っていくモエピに向かって叫びました。
すると、すぐさまモエピが振り返り、答えます。
「あんた、猫まんまのフレーバー買いに行くために、私のところに来たんじゃなかったのー?」
「あ」
しゃべるネコは、自分が何をしに来たのかを思い出し、同時に全部見透かされていたことにバツが悪くなりました。
「ハハハ」
しゃべるネコは苦笑いしながら、モエピに駆け寄ります。
モエピは肩をすくめながら、
「あんたってバカなうえに現金なやつよね。私がお金を持ってると思い出したら、ノコノコとついて来る」
と呆れたように言いました。
「ハハハ」
しゃべるネコは笑って誤魔化しつつ、内心フレーバーのことしか頭にありませんでした。しかし、思いがけない誘惑が待ち構えていました。
「あ、ガチャポンだ」
駄菓子屋の前でモエピがガチャポンを見つけ、目を輝かせています。
「待てこらー!そのお金使ったら、猫まんまのフレーバー買えなくなるだろ!」
しゃべるネコは急いで止めに入ろうとしますが、モエピはお金をガチャポンに投入してしまいます。
「邪魔しないで。今日が私の最後かも知れないんだから」
ガチャガチャ、ガチャガチャ、コトン。
カプセルが一つ、転がり出てきました。
(オレ、こいつキライ)
しゃべるネコは黙っていましたが、心の中でそう毒づきました。
しゃべるネコは今夜の晩ごはんを諦めて、トボトボと帰り始めました。
「あげるよ」
それを見かねたのか、モエピは声をかけましたが、しゃべるネコは振り向きもせず、心底怒ったまま歩き続けました。
その時、バコッ!
さっきのカプセルが勢いよくしゃべるネコのお尻に当たりました。
「イッテーッ!!」
振り返ると、モエピが何かを投げた時のフォームのまま立っています。
しゃべるネコは怒りを通り越して、少し涙ぐんでしまいました。
モエピは無言のまま、カプセルを顎でクイクイッと指し示します。カプセルは落ちた拍子で開いていて、中には「特上!本マグロフレーバー」と書かれた猫まんまのパックが入っていました。
しゃべるネコは字は読めなかったものの、マグロの絵柄を見て何のフレーバーかを理解し、思わず涙をこぼしました。しゃべるネコの大好物のフレーバーでした。
「さ、帰るよー」
モエピは用事が済んだとばかりに帰り始めます。
「あい」
しゃべるネコは素直に従い、二人は同じ方向へ進み、途中でそれぞれのおうちに帰って行きました。
ポイたま あおい三角 @aoisankaku
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