ブラウニー
……くふぅ。いやー、参ったわー。変な声だって漏れますわー。
一言発する度に胸にグサグサきますわー。
正直お二人で頑張ってー、私巻き込まないでーと思わないでもなかったのだけど吉井さんがだいぶこじせてるので当人二人じゃ、まとまるものもまとまらなさなそうだったんだもん、仕方ないよね。
仕方ないよね、っとか言っとかないと、私の気持ちが収まらないよね。
ちゃんとしてるキチンとした人にはちゃんと報われて欲しいと思うんだもん、私も頑張っちゃうよー。
……とはいえ、シンデレラの魔法使いも大変ですわー。
あんまり面倒かけるなやシンデレラ?
「ざまぁ」
「やめて。落ち込む」
まあ、とは言ってみたものの。伝わってない訳じゃないんだよね。伝わった上で一歩引いてるんだよね、アレ。ややこしい。
私がいなかったら素直になってたんだろうか、あの人は。私とあの人の差なんて如何ほどかと、思うのだけど。
や、久野君の中では天と地とぐらいはありそうだけど。……うーん、自虐的。
ダメダメ。らしくない。
普段の私がどうかは知らないけど、らしくないと言っておかないと泣きそうだ。
オーケーオーケー、私強い子だし?こんなの超平気だし!
平気だしって言いわけできないぐらいには本気だったけどなぁー、ってグルグルしてらー!?
落ち着け私。まあ、いいや。
まあ、いいやって一言入れなきゃいけないぐらいには危ういけど、まあいいや。
久野君と吉井さんの話ではぐらかそう。
「でもほら。この間一緒に飲みに行ったじゃない?少しは距離が縮まったんじゃん」
「いや、溝が広がってた……」
マジで!?私超チャンス!?インターセプト決めちゃう?決めれちゃう?
…落ち着け私。素数でも数えとけ。3,2,1。
その後久野君の話を聞いてみたのの、よくもないけど悪くもなさそうだし。ホント、私に話してないだけで揉んでたんじゃないかと疑いたくなるな。
って、おい、マジ帰るのっ!?あと一つボディブローをどうやって躱したかの検証だけやっててよ!
ついでにドサクサに紛れて一発殴りたいの!
「あ、吉井さーん」
「あ、佐藤さん?どうしたの」
「久野君からおっぱい揉まれたって話ホントですか?」
「……HOW MATCH?」
よく分からない返答が返ってきた。いくら出したら揉めるの?久野君お金握らせたのかな?
「冗談です。むしろ信ぴょう性が増したのでハウマッチはやめましょう」
「そんな事されてないってば!?なんでそんな話になってるの?」
あ、戻ってきた。
「この間から久野君との様子がおかしいからですよ?私が帰った後に何かありました?」
「ないない。久野君をアパートに置いて普通に帰ってきたわ。
あ、マンガ面白かったよ、ありがとう。一晩で読んじゃった」
ん?ってことは、あの後帰ってずっと読んでたんだ?
「じゃ、今は全部久野君のトコなんですね。わかりました。結構ロマンチックだったでしょ?」
「んー私には結構辛口だったかな」
「あれ、もしかしてライバルの子に感情移入して読んじゃいました?彼女も魅力的でしたけど。7話目、衝撃的でしたしね」
「そうだね。面白かったけど、正直主人公の子は私には眩しすぎたかな?」
「分かりましたー。そこらへん参考にして、次のマンガ選びますね。期待しててくださいね。それじゃー。私これから、久野君たちと飲みに行くんで」
「……うん、また来週」
「そういえば、好みな話ってしっかり者が甘やかされる話だったよな?」
唐揚げの話はさもなかったかのように話題を変えられたけど、私の方がダメージでかい話題だったので素直にのっかった。
「そうだよ?」
「神様学校の落ちこぼれってそんな話じゃないよな?」
「そうだね」
「なんであの時出てきたのかなあー、ってちょっと気になって」
「ああ、好きだったからだよ、単純に」
「好みじゃないのに?」
「好みじゃないのに。だからさ、きっと本当に好きなんだ」
「好みじゃないのに?」
「好みじゃないからだよ」
「ふーん、そういうもんか」
だから頑張れよ粗忽モノと、私は声に出さずにエールを送るんだけども届いたら困るなとひそかに思った。
結局その後皆して久野君関係なくどんちゃん騒いでお開きとなった。
「なあ、久野。佐藤のこと送ってやれ」
「え、なんで僕が」
「いいから。お前ら仲いいだろ?」
ナイス、先輩。そのサムズアップが鬱陶しいけど今だけ感謝はするよ。
「じゃ、お願いしてイイかな、久野君?」
「……ま、いっか」
そうして二人してガタゴト電車に揺られてく。……ん、あれだ、意外と話さないもんだな。もっと気やすいもんだと思ったけど、意外とホントに二人っきりになると話すことってないもんだな。
……居心地は悪くても嫌ではないんだけど。もっと話したいんだけどな。
酔ってるせいもあるかな。
そこそこ込み合った深夜の電車がガタゴトと進んでく。お酒で火照った体に冷房気持ちいい。とはいえ、外よりマシだが夏の湿度だけでなく人の湿気を含んだ車内はそれなりに不快感があった。
ガタン。電車が大きく揺れた時、隣りのサラリーマンが私に寄りかかってきた。
それを久野君が身体を割り込ませて止める。それがなんだか理不尽だと分かりながらもイラっときた。そういうのは、今の私には要らないんだよなぁ。
そんな感情のまま、久野君は結局ホントにうちのマンション前まで送り届けてくれた。
「ありがとー久野君。折角だし寄ってく?」
「うん、そういうのいいから」
「でもほら、読んでないマンガまだいっぱいあるし、読んでかない?紅茶ぐらい出すよ?」
「今度学校で貸してくれればいいよ。じゃ、帰ったらちゃんとドアのカギ閉めなよ?」
そういって帰って行った。そうそう。それでいいんだ。しょっぱいしょっぱい。
酔ってたハズなんだけどなぁ。私相当可愛いハズなんだけどなぁ。ようやく私は機嫌を直した。むしろ大層ごきげんだった。
ただいま相当デリケートな私は大層丁重に扱って貰わないと困っちゃうよー?
え、ホントにノってきちゃってた時はどうしてたんだって?…………ペロリさ?
結局久野君は、私に唐揚げをよこせと言ってきた。とんだクズ野郎だ。なんだこのクズ男、とは思ったものの(言いもした)、違った。私が好きな久野君はそういうクズ男だった。好きな人のためになりふり構わない、そういう男。
その優しさをせめて私にも微量位はとは思わないでもないのだけど、好きな人のためになりふり構わない所も好きだったなーなんて、あーあー、こんちくしょう。
こんな尽くして私いい女。私超イイ女。私超々善い女!途端に都合が良さそうになったな!?
誰かこんな私にアガペーください。
うそでした。久野君、せめてアガペーで良いんで私にくださいの間違いでした。
やっぱアガペーもいらね。でもご飯ぐらい奢って。
「さて、吉井さん。なぜ私が吉井さんの家の前で腕組んで立ってるのでしょーか?」
ファーストクエスチョンです。
「えーと、私が逃げ出さずにちゃんと久野君と会うのか見届けるため、とか?」
ちゃんと答えてくれた。可愛いな吉井さん。
「その答えもいいですね吉井さん。想定してませんでしたが部分点を差し上げます」
5点ぐらいでしょうか?100点満点なので赤点です。チミチミ、留年でもしてみるかい?
そもそも吉井さんが会いに行かないとか私は微塵も疑ってもませんでしたよ。あ、台風だったら別だよ?今日快晴だしなぁ。お暑いね。
「失礼しますが今日のコーデはどのような?」
「え、これだけど?」
Tシャツ、ジーンズ。
「この、バカ娘!」
「え、私年下に罵倒された!?」
「どんな教育されてきたんじゃい!」
「え、私年下に罵倒された!?」
あ、お母さんいたんだ。一瞬素に戻ってお母さんに謝った後理由を説明し納得して頂いた後、続けた。
「熟年カップルかい?初デートじゃないんかい?あまつさえ花火大会なんじゃぞ?浴衣以外ありえるかい!」「そう言われても、私浴衣なんて持ってないよ。可愛いキメ服も……ほら、私が持ってても仕方ないし」
「そんな仕方をあった事にする女が私です。はい、浴衣です」
「ふぇ!?いや、でも着付けなんて「私マスターしてますので任せて☆」でき…」
「じゃ、さっそく合わせましょう。……言いましたよね?全力でって」
「……うん」
『吉井さん、私、久野君の事好きなんですよ』
『え、……あ、そうなんだ。いや、そうかなとは思ってけど』
『吉井さん、久野君とデートしてください』
『あれ、私聞き間違えたかな?私と久野君がデートするって言われた気がしたんだけど?』
『シンクロ率100%ですね』
『よく分からないけど寸分違わなかったって事でいいのかな?
うん、え、なんで?意味分からないよ?佐藤さんがすればいいじゃない?』
『私がするのもいいんですけど。ほら、久野君、吉井さんに気があるっぽいんですよね?』
『……気のせいでしょ?私よりも佐藤さんの方が可愛いし』
『そうですね。だからデートしてください。デートして振られてください。
久野君から、ああ、やっぱ佐藤さんの方が可愛かったわーって思われてください』
『……ちょっと待って。さすがにその客観的に見たら気のない相手から振られるっていう屈辱的な状況を許容は……』
『してください。私、イヤなんですよ。後に憂いを残すのって。略して後顧の憂いを残すのって。
久野君は後ろ髪が惹かれる心配がなくなって、私は寝取られるかもって心配がなくなります。ウィンウィンです』
『いや、それってやっぱり一方的に私だけ損してるんじゃ?』
『大丈夫ですって。強いて言えば貴重な乙女の休日の半日が潰れるってだけで』
『やっぱり私が一方的に損してるんじゃ!?』
『してませんよ』
全力でダメだったら、ああ、なら仕方ないかってスッパリ諦めもつくじゃないですか。
『ウィンウィンです。誰も損はしません』
傷つきは、しますけど。ううん、傷ついてだってしてません。磨いてるんです。
貴重な乙女の半日を使って、対価に等価で貴重な体験をするんです。
『……わかった』
『はい。ありがとうございます、吉井さん』
私はにっこりとほほ笑んだのだった。
「さて、着付け終わりましたよ吉井さん」
「ありがとう、佐藤さん」
「胸のあたりとか緩くありませんか?」
「浴衣だよ!?」
あと私もそこそこあるし、とその後ぼそぼそ言っている。
うん、ちょっとずつ図々しくなってきてるのはいい傾向だね。
「あ、ちなみに今日は電車でお願いします」
「え、でも車の方がすぐ……」
「浴衣で運転とか崩れますよ?それに花火大会ですから駐車スペースないですよ?」
「いやでも」
「はぁ……いいですか、吉井さん。車なんて所詮カボチャみたいなもんです」
「意味が分からないよ、佐藤さん」
こういうとき、久野君とだと楽なんだけどなぁ。ツゥ、カァ。
「言い訳に使うの、もう止しましょうよ?」
「……言い訳になんてしてないよ?」
「まあ、でもほら、どのみち車使おうにも用事あるみたいですよ。ね、お母さん?」
「そうね、おばあちゃんの所にお米貰いに行ってくるから車貸せないわよ?」
「まだ初夏だよお母さん!?」
「お赤飯炊いて待ってますね、吉井さん?」
「ちょっと待って、今晩泊まる気佐藤さん!?って、違う!赤飯ってなに!?」
私の炊くお赤飯はちょっとなかなか美味しいよー?
いやー、吉井さんにも似合う浴衣で良かった。
正直自分が着る用に4月に買った浴衣だったから、似合ったのは偶然だったんだよね。……ま、今後私が袖を通すかは怪しいところだけど、浴衣はこれで浮かばれたかな。
あと吉井さんのお母さんとやけに仲良くなった。今度実家のお米あげるよと言われた。一人暮らしなので地味にありがたい。
「はい、じゃあ後は頑張ってくださいね。多分、あと20分後ぐらいに久野君くると思うんで」
まあ、約束した待ち合わせ時間は1時間45分後なんだけどね?あんまり吉井さんが急かすもんだからさー。
「え、行っちゃうの?」
「行くに決まってます。それではアディおーすです」
(それとも何、替わってくれるの?)とか言いたい気持ちを抑えてその場を立ち去る。
言っちゃったら替わってくれちゃいそうだった。それは困る。
その場を離れた私は5分ぐらいブラブラした後、また戻ってきて近場の草むらに潜りこむ。あ、ショウリョウバッタだ。
いや、私こそ、貴重な休日の半日使って何してるんだ?とはいえこのまま後日に話だけを聞く気にもなれなかったので隠れて吉井さんを観察した。
吉井さん、うずくまってた。
え、あ?へ?何してるの?下手したら餌付きだしそうな様子だった。
大丈夫かなーっと、今更心配になったが何かに気づいた吉井さん、近所の屋台に駆け込み、小銭をパーン、置いて手の甲の塩を舐めて小さいグラスを煽るとカンッとカウンターとグラスがかち合う音が響いた。
歓声が、あがった。
沸き立つオーディエンスが見守る中、悠々と佐藤さんはライムをモグモグしてるのだった。うん、モグモグしてる吉井さん、可愛い。
声を掛けてくるオッサンが5人ほどお酒で倒れて運ばれていく中、十何個目かのライムをモグモグしている。ようやく落ち着いたのか、また、待ち合わせ場所に戻っていった。
うん、何を飲んでるのかここからはよく分からなかったんだけど……あれ、酒だよな?
なにあのALC高濃度の上気して潤目の可愛い生き物に成長した御姿。あれか。あれが超獣か。むしろ超魔生物か!悪魔可愛い!アクドルか!理解した!QED!
今度メフィスト歌いにカラオケ行こうぜ吉井さん!久野君抜きでな!
……ああ、もう!どっちかポジション代わってー。久野君でも吉井さんでもどっちでもいいからその席私と代わってー!
……はて、何が起きたのだろう?結構いい感じだったと思うんだけどな?
なんで、急に険悪な雰囲気になってるのかな?なんでそんな雰囲気を久野、お前が出してくるんかな!?
どんだけキっツイ思いして今日セッティングしたと思ってんだ自己中男!?
ふざけんなこんにゃろ!?いっそ飛び出してやろうか!?
ああ、会話が聞こえないのがもどかしい。なんで私盗聴器買ってなかったんだー浴衣買ったからだったー。金ねー。米ありがてー。
しゃーねー、もうちょっと近づいてみっか。
「バイツァ・ダストかよ!?」
……そう叫びたい気持ちは私は分かったけど。微妙だな。二人とも?時は戻っても何も問題を片づけてくれてないよ?あれじゃないかな?むしろ私だったらワンフォーオールっていうね!助けてるの私だけだし。
とはいえ二人とも頑張れやー。
… …はい、うずくまっている誰かを見守るのは本日2度目の佐藤です。
鋭い右だったけど、大丈夫かな吉井さん。
あ、久野君の心配はしてないよ?調子に乗った報いだと思う。でも、結構深酒してた吉井さんを一人にさせるのは心配だった。仕方がないので助け舟を出してやるか。
クライマックスは近そうだ。そしてこの辺りでデバガメは終わりにした方が良さそうだ。
話だけ聞くのも嫌だが、正直二人のハッピーエンドを目のあたりにするのも辛すぎる。
そんなの目の当りにしたらA級に泣きそうだ。
「堪え性ないなぁ?そんなんだとモテないよ?……やるだけやったんじゃないの?」
「やったよ?やったから……うん、後は待つだけだ」
「よろしい」
久野君は、肚が据わったようだ。まあ、でも大丈夫だろう。きっと整理がついてないだけだろうし。もしくは……私への気遣いが足を引っ張っているのだろう。
でも、きっと大丈夫だと思う。きっとうまくいく。
「きっとね、吉井さんは恐いんだと思うの」
「恐い?」
「そう。自分の気持ちとか久野君とか。久野君はそういうの分からない?」
似た感性してるから、だいたい伝わってるんじゃないかなと思うんだけど。
「……」
「男の子だもんね。言えないっか?でも私は恐いよ。まんじゅう恐い」
そして私は、何より誰より久野君が恐い。
「好きだよ、久野君」
困った顔した久野君は
「ごめん、吉井さん以外に誰にも応える気はないよ」
「そっか」
塩対応が過ぎる。とはいえ一番私が欲しい答えをもらえた。ラストクエッションが100点満点だよ、久野君。彼女のミスを挽回だね!
「ねえ、久野君、キスしない?7話目みたいなやつ」
「しない。聞いてきた時点でもう成功すると思うなよ?」
避けるの上手そうだもんね。師匠としても鼻が高いと思いながらも教えなきゃ良かったと悔やんでるトコだよ。
…ああ、そっか?私が一番チキンだったなぁ。
あー、もう酒飲みてー。なんで私こんなシラフで頑張ってるのさ。欲しいのはカフェインじゃねー、アルコールなんじゃー。
さて。
そんなわけで今私の目の前にはコンビニで買ったテキーラが瓶であります。
これを飲めば私もより可愛い生き物になれるのではなかろうかと
小さなグラスに少しそそぎ、口に含んでみた。
余りに暴力的な気体の奔流に噴き出した。波紋かなにかか!?
口から噴き出した拍子に一部が鼻の方に入った。益々牙を剥かれてのたうち回った。
その後気持ち悪くなった私は嘔吐を何度か繰り返したあと、寝たか何かした。意識混濁だった。
私の失恋のヤケ酒はだいたい100ccと10分弱で終了した。コスパ良すぎる。
夜明け前に目が覚ます。枕元が濡れていた。今もまだ気持ち悪くて頭がガンガンする。テキーラこえーよー。
もうね、私最悪だった。今回私超頑張ったと思うだけどな。
もうね、こんだけ最悪だったから次はどうやったってもっといい恋になるんだと信じられるよ。
だから、ね、アトもう少しだけ最悪だーって愚痴らせて。
この恋の余韻にひたらせて。まだそれぐらいの余韻は神様だって許容してくれると思うんだ。
私は案外強くはないんだから。強くはない、って言える程には今の私は弱ってるのさ。
大事だね。おおごとさ。秘め事だもの。こっち観んな。
酔恋 dede @dede2
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