第8話 冒険者ギルド

 霊体状態のレイチェルの魔法は、すべて大幅に強化されている。

 そのお陰で、中級魔術師の魔法にも下級魔法で打ち勝つ事が出来る。


 そして、強い魔力を込めて打ち放った巨大な火球は、盾で防ぐ事は出来ず、一瞬で前衛二人を燃え盛る火炎が包み込み込んだ。

 リーガルは燃え盛る二人に、 攻撃魔法である “ウォータースプラッシュ” の魔法を使う。


 「駄目だ…… どうして? 炎が消えない! テレシア! 二人にヒールを!」

 「もう…… 手遅れです。 炎に包まれて間も無く、二人はヒールを受け付けなくなりました……」


 「そんな……」


 レイチェルは嘆き悲しむ二人の様子を眺めながら、無警戒に近づいて行く。

 リーガルの魔法も大した事がないと分かったので、魔法を放つ素振りを見せた瞬間にストーンバレットで打ち抜いてやろうと思っていた。


 二人の目の前までレイチェルが辿り着くと、リーガルは腰が抜け、尻餅をついたままの状態で後退りを始めた。

 テレシアはじっとしていて、レイチェルの方を睨みつけていた。


 テレシアが何か企んでいると考えたレイチェルは、何も出来るはずも無いと判断して不用意に近づいて見せた。


 テレシアは不用意に近づいてきたレイチェルに、両腕を突き出し “ホーリーグレイブ” の魔法を唱えた!


 この魔法は、ターンアンデッドの上位の魔法のであり、清浄の光を放つ十字架によって不浄の者を安らかな眠りへと誘う。


 しかし、この手の魔法はレイチェルには全く効果が無く、レイチェルはテレシアの体を素通りして、リーガルに杖の先を向けた。


 「や…… やめてくれ! 僕はまだっ! 死にたくない!」


 その言葉を聞いたレイチェルは、笑みを浮かべながらストーンバレットの魔法で彼の頭を打ち抜いた。

 

 レイチェルは再びテレシアの前に立ち、少し浮き上がりって彼女を見下ろす。

 テレシアは、レイチェルを見上げながら言葉をぶつける。


 「どうして! こんなひどい事が出来るんですか!」

 「ひどい事? 戦う覚悟もなくてこんな場所にいるの?」


 「違います! だって…… ラウディーはあなたに優しかったでしょ……」


 涙を流し訴えかけて来るテレシアを見て、レイチェルはまた無邪気に笑い始め、か細い声でテレシアに話しかける。


 「私にはテレシアの声は聞こえない。 だって、持たざる者だから。 もう見えないし、気にしない。 一応、少しだけ目に入ったから、ちょっとだけ相手してあげるね」


 そう言った後、レイチェルはフィアースクリームの魔法を使い、テレシアに恐怖を植え付けた。

 フィアースクリームの恐ろしい叫び声を聞いたテレシアは、一瞬にして髪が真っ白に染まり、あまりのショックでその場で気絶し倒れてしまった。


 レイチェルは発言通り、テレシアに全く興味が無くなったので、それ以上何もせずに再び第四階層へと向かった。



 レイチェルがゆっくりと、モンスターを倒しながら第四階層へ向かっている頃、第一階層へ入ったばかりの冒険者チームが、テレシア達を見つけた。


 冒険者達は三人の遺体を運び、息のあるテレシアから何があったのかを求めた。

 しかし、テレシアは何らかの状態異常に陥っている様子だったので、そのまま冒険者ギルドへと連れていく。


 診断の結果、強烈なフィアー恐怖状態であると判明し、信仰系魔法によって、治療が行われた。


 フィアー恐怖状態から立ち直ったテレシアは、自分が冒険者ギルドに帰って来た事に気が付く。

 そして、近くにいたギルドマスターに迫りながら、何があったのかを告げる。


 「テレシア、落ち着きなさい。 チームメンバーの三人を失って錯乱しているのもわかるが、それだとよく分からない。 一から順に話してくれるか?」

 「ええ、そうですね…… もう一度初めから説明します」


 テレシアは順を追って、何があったのかと丁寧な口調で語り始めた。

 そして、ダンジョンの第四階層で亡霊となったレイチェルと出会い、彼女を弔う為にチームでレイチェルが亡くなった現場へと向かった事、第一階層での戦闘も詳細に説明した。


 「にわかには信じられんな。 だが、テレシアが嘘をついているとも思えん。 レイチェルと言う少女は確かに存在して、この街中で野垂れ死んでいる。 それは間違いないんだな?」

 「はい、彼女の名前を知っている人はまずいないとは思いますが……」


 「名前を知らない……? まさか、あの…… わかった。 テレシア、お前はもう休め。 そのレイチェルと言う女の子の事は少し心当たりが出来た。 こっちで調べておく」


 テレシアは他の冒険者に肩を貸してもらい、ヨロヨロと世話になっている宿へと送り届けられた。


 テレシアの話しを聞いたギルドマスターのミルフォードは、ギルドの冒険者達に三つの指令を出した。

 

 一つは、ある男の情報を集める事。

 その男とは、ほんの少し前までこの街でホームレスをしていた男。

 名前はレイモンド・エディ・ドリスコル。

 竜殺しの異名を持つ凄腕の冒険者だった男。


 二つ目は、この街の冒険者ギルドに所属している最上級冒険者のリーランドを連れて来る事。

 彼は、大賢者の通り名を持ち、幅広く冒険者達に知られている。


 三つ目。

 ダンジョン内での情報の収集と、注意喚起。


 ミルフォードは考える。

 テレシアの話しを聞く限り、優秀な冒険者チームであったサウザンドバーズは、たった一人の少女に、あまりにも一方的にやられた。

 

 そして、レイチェルと言う少女は、最近亡くなってダンジョンに亡霊として現れたと言う。

 

 どう考えても辻褄が合わない。

 最近生まれたばかりのアンデッドがそれ程の力を持っているわけはない。

 正確な戦闘能力が分からないので、特定は出来ないが、必ずイレギュラーな何かが関わっているのだとミルフォードは判断した。


 

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