第9話 残酷な鬼ごっこ
レイチェルは無邪気な笑顔を振りまき、再び第四階層へと戻ってきた。
今度は正面から堂々と、隠れる様子もなく、入り口から一番近いテントの方へと歩いて行く。
テントの近くには冒険者が数人立ち話をしていて、レイチェルに気が付き声を掛けてきた。
「おや? 亡霊の嬢ちゃんじゃないか。 ラウディー達と一緒に行ったんじゃないのか?」
「……鬼ごっこ」
「んー? 鬼ごっこ? もしかしてサウザンドバーズの奴等と鬼ごっこしてるのか? いや、そんなわけねえよな?」
「鬼ごっこしたい」
「鬼ごっこしたいのか…… ところで、一緒に行ったラウディー達はどうした?」
話しかけてきた冒険者は作った笑みを浮かべている。
そして、レイチェルに対し警戒心を抱いた。
冒険者の男はレイチェルに感づかれない様、そっと武器に手を掛けた。
レイチェルは冒険者達が警戒している事に気が付いていた。
むしろ、警戒して貰わなければ面白くないとさえ思っている。
何故なら、レイチェルはここでやりたい事が二つ出来たからだ。
一つは、サウザンドバーズを倒して得た能力を試したい。
二つ目は先程言った通り、鬼ごっこをする事。
当然ながら、レイチェルが鬼である。
なぜ鬼ごっこがしたいのかと言えば、物乞いをしていた頃、街がまだ暖かい時期に、孤児達が楽しそうに追いかけっこをしたり、鬼ごっこをして遊んだりしていたのを見て、一度やってみたいと思っていたからだ。
何故、第四階層に滞在している冒険者相手にそれをしようと思ったのか?
それは、レイチェルにとってここの冒険者達が相手なら、真正面から戦っても勝てると確信を持てたから。
レイチェルは、サウザンドバーズがこの辺りの冒険者の中で、トップクラスの実力を持ったチームだと言っていた事を覚えている。
そのチームを相手に、レイチェルは致命的なダメ―ジを負う事はなく、攻撃魔法は過剰な程よく通った。
更に、サウザンドバーズを倒した事で、レイチェルは強くなり、新たな能力まで得ている。
その能力とは。
“中級武器生成” “中級物理抵抗” “上位魔法ダメージ軽減” “中級詠唱者” “敏捷性向上” 更に攻撃魔法の “サンダーアロー” “ファイアーインフェルノ” “ウォータースプラッシュ” “ゲノムスプラッシュ” “ダークインフェルノフレイム” “アースウォール” と支援魔法の “ミスティックエンハンス” などの魔法を使えるようになっていた。
レイチェルは両腕を広げ、手に持った二つの杖でアースウォールの魔法を使い、この階層にいる冒険者全てを土の壁の中へ閉じ込めた。
そして、壁を乗り越えたり破壊出来ない様、土の壁全てをダークインフェルノフレイムの黒炎で覆う。
「……何ぼーっとしてるの? 早く逃げて。 みんなにも知らせて。 今から鬼ごっこだって伝えて。 10数えたら一人ずつ殺す。 ラウディー達みたいに」
レイチェルの魔法を見て、そして屈託の無い笑みを浮かべるレイチェルに恐怖し、冒険者達は全力でその場から立ち去り、緊急事態を知らせる笛の音が鳴り響いた。
しかし、レイチェルの思惑通りにはいかず、冒険者達は集結して再びレイチェルの前に現れた。
レイチェルはゆっくりと10からカウントダウンを始めている。
冒険者達に囲まれても、レイチェルはカウントダウンを止める事なく続け、怯む様子もない。
冒険者達はレイチェルに向けて、対亡霊用の魔法を使って攻撃を始めた!
あらゆる攻撃魔法がレイチェルに直撃する!
しかし、舞い上がった土煙の中からは、まだレイチェルのカウントダウンの声が聞こえる。
冒険者達は、更に強力な攻撃魔法を使ってレイチェルに向けて放つが、カウントダウンは止まらない。
そして、レイチェルのカウントが3になった時。
すでにその場から逃げ出している冒険者達もいたが、残っていた冒険者達も散り散りになって逃走を始めた。
レイチェルのカウントが0を告げ、満面の笑みを浮かべて逃走した冒険者達を追い立てる。
冒険者は30名程いたが、レイチェルはその全てを追い詰めるのに二時間程費やした。
鬼ごっこを十分堪能したレイチェルは、残った最後の一人を壁ぎわへと追い詰める。
最後の冒険者はレイチェルに対し、対話を試みる。
「俺、この中じゃけっこう強い方なんだけどな。 もう、お終いか。
なあ、お嬢ちゃんはなんでこんな酷い事するんだ?」
「酷い事?」
「ああ、酷い事だ。 俺達は何の罪もないただの冒険者だった。 それなのに、どうしてこんな事を…… 弱い物虐めは楽しかったかよ?」
「すっごい楽しかった! でも、酷い事ってなぁに?」
「わからねえか? もし逆の立場だったら、こんな事されて嫌だとは思わねえのかい?」
「別に思わない。 私は “持たざる者” だったから」
「 “持たざる者” ってなんだ?」
「知らないの? 何の力も持たざる者。 人生の選択肢を持たざる者。 人権を持たざる者。 私もそうだった。 だから、道端の石ころとおんなじだった。 あなた達は私から見て持たざる者だから、気まぐれに遊んでみただけ」
「なんだよ、それ…… 俺たちゃ石ころ同然だから
「ええ……? そうだけど?」
「本当にわかってねえのか…… 罪悪感を感じてる素振りすらねえ。 全く、見た目は可愛らしい嬢ちゃんだが、心はまるっきり化物だなぁ!」
「そう? そうじゃあ、あなただけ見逃してあげようか?」
「この期に及んで…… 俺一人助けてやるだと? 仲間を
冒険者の男は戦士であり、レイチェルに向かって持っている槍を突き出した。
しかし、なんの魔法効果もない物理攻撃は霊体であるレイチェルをすり抜け、虚空を突く。
「ふーん。 怒ってるんだ。 私しーらない!」
レイチェルはクスクスと笑いながら、冒険者の男に背を向け、第五階層を目指して歩み始めた。
冒険者の男はその場で膝をつき、
そして、そのまま動けなくなってしまった。
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