第5話 持たざる者はその命さえ奪われる

 シャードスライムを倒し終えたレイチェルは、残された道を進み続ける。

 鼻はないが匂いをなんとなく感じ取れる不思議な感覚を楽しみつつ進んでいくと、突然血の匂いを嗅ぎつけた。


 匂いからは色々と情報を得る事が出来る。

 大量の血を流しているわけではなく真新しい傷と言うには少し妙な感じだった。

 古い血の匂いというわけでもないので、もしかしたら治療して匂いが変になっているのかとレイチェルは予想する。


 周囲を見回しても気配は無いが、 “内なる魂の感知能力” によって通路の奥で身を潜めている魂を感知する事が出来た。

 

 隠れてこちらの様子を見ている姿がチラリと見えた。

 あれはこの階層のモンスターでは無く、人間なのだとレイチェルは確信する!

 それを確認したレイチェルは走り始める!

 今の自分の力が、冒険者相手にどこまで通用するのか早く試してみたいと思ったからだ。


 そして、角を曲がり追いつくと、冒険者達は揃って武器を構えた。

 冒険者の男が話しかけて来る。


 「俺達は冒険者だ。 あんたは何者なんだ?」


 まさか話しかけられるとは思ってもいなかったレイチェルは少し考える。

 この男は何故私に話しかけたのだろうか?

 

 男はレイチェルの様子を見て、もう一度声を掛けて来た。


  「言葉が分かるなら、俺達と協力しねえか? 事情はわからねえが、その体だと何かと不便だろう?」


 私を人間だと認識している?

 それはそれで不安だと思いつつ、レイチェルは冷静に冒険者達を観察する。


 顔色はそれ程よくない。

 重症と言う程ではないが傷を負っている。

 ダンジョン内の温度は分からないが、汗をかいている。

 そして、私から視線を決して外さない。

 魔法使いっぽい男だけは疲れているのか、視線がバラつき、自分達の後方を気にしている様子だ。


 レイチェルは結論的に、この男達が警戒している事から、レイチェルは人間だと見られていないのだと悟った。

 そして、この男達は満身創痍とまではいかないまでも、疲労していてダンジョンから帰還する途中なのだと判断する。

 

 そもそも、話しかけられて驚いたから観察し、思考を凝らしてみたが、そんな事はどうでも良いのだと思い出す。


 そんな事よりも、この男達は運がない。

 つまり、 “持たざる者” である!

 それを確信したレイチェルはえつに入り、歯を鳴らして笑う表現をする。


 そして、覚えたばかりの咆哮と共に、フィアースクリームの魔法を使って開戦の幕開けを告げた。

 

 真っ先に動いたのは僧侶の男であり、アンデッドに対して絶大な効果を発揮する “ターンアンデッド” の魔法を唱えた。


 レイチェルの周囲を穏やかで白い、浄化の光が包み込む。

 しかし、レイチェルには全く効果がなかった。


 その様子を見た魔法使いの男は発狂し、火球の魔法をレイチェルに放つ。

 本来スケルトンの様なアンデッドモンスターは炎の魔法に弱いのだが、鋼鉄の様なスケルトンと化したレイチェルは魔法に対する防御力も高く、下級の魔法ではそれ程のダメージは与えられない。


 そして、戦士の男が動き出す。

 戦士の男はレイチェルに飛びつき「逃げろ!」と叫び声をあげた。

 その言葉に反応した魔法使いと僧侶の男は、レイチェルに背を向けて走りだす。


 しかし、レイチェルは逃走を許さない。

 ダークフレイムの魔法を使って逃げ道を塞ぎ、圧倒的な力で戦士の男を捩じ伏せた。


 レイチェルが再び咆哮のスキルを使うと、三人の顔が絶望の色に染まる。


 まずは、自分の体を掴んでいる戦士の男の頭を、レイチェルは粉砕拳で叩き潰し、残った二人はフィアースクリームの魔法で恐怖を与えて動けなくした。


 “持たざる者” 私は全てを奪い尽くす。

 そう語り掛ける様に、レイチェルは粗末な剣を握り、二人を殴り殺した。


 人間を手に掛けた事で、本当に自分は “持たざる者” ではないのだと確信したレイチェルは、何度も咆哮のスキルを使い、吠えた!

 

 そしてレイチェルの体に変化が起きる。

 この戦いで得られた能力。


 “戦斧術せんぷじゅつ” “下級魔法詠唱者” “信仰者” “下級武具熟達者” “拳で語る者” そして、攻撃スキル “ボーンクラッシュ” 攻撃魔法の “ファイアーボール” “ウォーターボール” “ストーンバレット” 信仰系魔法の “ヒール” “ターンアンデッド” “アーマーブレッシング” の能力を得た。


 更に、スケルトンである体と霊体で、体を切り替えられる様になった。


 霊体の体では、物理的干渉は出来なくなるが、魔法効果が強くなるなどのメリットがある。

 それ以外にも、見た目がスケルトンでは無くなり、スケルトンになる前の少女だった姿を少し成長させたような見た目となっていた。

 しかも、霊体の状態だと言葉を話せる事も発覚する。


 しかし、レイチェルは生前の自分の姿を見ると、弱気になってしまうので、基本的にスケルトンの体でいようと思いいたる。 


 気を取り直し、レイチェルはすぐ近くにあった第四階層への階段を下った。


 第四階層。

 ここには魔獣系のモンスターが生息している為、魔獣の素材を狙う冒険者達の稼ぎ場となっている。

 出て来るモンスターは、一角兎、サンダーウルフ、バイコーン、トロールである。


 魔獣達は賢く、一筋縄ではいかない。

 冒険者達が自分達を狙っている事にも気が付いており、時には徒党を組んで戦う事すらある。


 レイチェルが第四階層に足を踏み入れると、そこは広々とした草原になっており、吹き抜ける強い風が吹いている。

 今までと違って、壁の無い階層に驚く彼女だが、多くの人の気配を感じ取り、警戒しながら前へと進んでいく。


 背丈の高い草が生えているお陰で身を隠せているが、うかつに動けば見つかってすぐに冒険者達に囲まれてしまうだろう。

 なので、不本意だが、レイチェルは物理攻撃を受け付けない霊体の姿へと変わり、この階層では隠密行動を心掛け、次の階層を目指した。


 

 

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