第5話

「あ、海。また夜に泣いたのか?」


「だってー…」


「今日お見合いだろ?そのれた目を治さないとな」


「そうだね」


空は冷蔵庫から冷たい保冷剤を取り出しに行ってくれた。


「はい、どうぞ」


「ありがと」




タオルに巻いた保冷剤を目に当てながら空と他愛もない話をしていると、おじさんに呼ばれた。


「海。12時に家を出るから、もうそろそろ支度したくを始めなさい」


「はーい」




自分の部屋に入り、お母さんの形見の着物を手に取る。


気を緩めると涙が出てきそうで、なんとかこらえながら、気を引き締めて着物をつけていく。


スムーズに着替え終わると、次は髪型をアレンジしていった。




「よし!完成!」


「あ、海。支度の準備ができたか」


「はい!」


「じゃ、出発だ」




お母さんの形見の草履ぞうりを履き、霞天さんたちのほうを振り返る。


「では、いってきます!」


「いってらっしゃいませ」


「いってらっしゃい」


何気なく晴たちの顔を見ると、なぜか複雑な表情をしている。


悲しそうな。


苦しそうな。


不安そうな。


疑問に思いながらも、


そんな顔になぜか胸が痛んだ。


「み、海」


「あ、はい」


「行くよ」


「はい」


無意識にジッと宇宙たちを見ていたことに気づき、慌てて我に返る。


もう一度、いってきます、と言って花宮組の屋敷へ向かった。


その途中、なぜか3人のあの表情が頭から離れなかった。




車は、迫力のある大きな屋敷の前で停車した。


「海。着いたよ」


「ここ、ですか」


「そうだ」


「すごく立派なお屋敷ですね」


「そうだな」


車から降り、門の前に行くと、自動で門が開き始めた。


うわ、すご。


お金持ちの家じゃん。




大きな屋敷の玄関に着くと、そこで2人の男性が私たちの到着を待ってくれていた。


「お久しぶりですね、泉さん」


「お久しぶりです、白桜さくらさん。こちら、私の娘の海です」


「どうも、こんにちは」


「こんにちは。海ちゃんは聖雲と会うのは、一応初めてだよね?」


一応?


「はい」


「じゃあ、中に入ってお互い自己紹介し合うといい」


花宮 聖雲の第一印象は、イケメン。


そう思った。




「じゃ、聖雲から自己紹介しなさい」


「はい。僕は花宮組の若頭であります、聖雲と申します。歳は17です。今日はよろしくお願いいたします」


「私は青葉組の海と申します。歳はあなたと同じ17です。こちらこそよろしくお願いいたします」


「それじゃ、お見合いを始めるとするかな」


始まってなかったんだ···…。




テーブルの上には、たくさんの豪華な食べ物が並んでいて、より一層緊張が高まった。


「さ、お料理を食べながらじっくりとお話しましょう」


「は、はい」


「海ちゃん。何か質問とかあるかな?」


「質問、ですか…。あ、先程、聖雲さんと会うのは、一応、初めて、とおっしゃいましたが、どういうことですか?」


「ああ。それは、2人が5歳の時に会ったことがあるからだよ」


「そうなんですか」


「その頃から2人のお見合いは決まっていたかな」


そんな時から……。


あ、だからお母さん、お見合いのこと書いてたんだ。


「他に何か質問ある?」


「えっと、ないです」


「そうか」


「聖雲くんは私たちに何か質問ある?」


「僕は、海さんに好きな人がいるかどうか知りたいです」


「す、好きな人ですか?」


「はい」


「えっと私は、好きな人はいません」


「そうですか。それはよかったです」


その言葉に、なぜか胸が苦しくなった。


「もし、好きな人がいたらどうしようと思っていたので、安心しました」


また、私の胸が苦しくなる。


結婚はしないつもりでいるけど、


…この人を、傷つけたくない…。


聖雲さんの優しい、柔らかい笑顔に、そう思った。




その後も色々と話し合い、お見合いは3時頃に終了した。


「今日は来てくれてありがとう。また話し合おう」


「そうだな」


「う、海さん。今日はありがとうございました。海さんのこと、たくさん知れてよかったです。また会いましょう」


「は、はい。こちらこそありがとうございました。私も聖雲さんのこと、たくさん知れてよかったです。またお会いしましょう」


「それじゃ、また今度」


「また今度」


最後にお辞儀をして、お屋敷を後にした。




車に乗り、家に帰っている途中、おじさんが聞いてきた。


「聖雲くんはどうだった?」


「空みたいな人ですね」


「え?」


「空と性格が似てるな、と思いました」


「確かに空と似ているかもな。…他には?」


「んー、イケメンでしたね」


「あはは。私もそう思うよ」


「聖雲さん、いい人そうでよかったです」


「そうだな」




家に着くと、辺りは暗くなり始めていた。


「海。夕食までに着替えておくんだよ」


「はーい」


自分の部屋に入ろうとすると、向こうの方でおじさんの声が聞こえてきた。


「3人とも、話がある。来なさい」


「は、はい」


どうしたんだろう…。


何かあったのかな?


気になる…。


そう思いながらも、楽な服に着替えるために部屋に入ることにした。

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