第5話 動物型怪人の謎
僕の能力は五つに分けられる。
一つ。耐性貫通。文字通り、相手の特性を無視し、ダメージを与えることができる。
二つ。雷。僕の体に発電器官が形成され、アスファルトを焼き砕く程の威力を誇る雷を放出できる。
三つ。再生能力。腕が千切れようが、内臓をぶちまけようが、時間と共に再生できる。死ににくいという強みはあるが、気力と激痛が伴うため、あまり乱用できない。
四つ。武器の顕現。思い描いた武器を一つだけ生み出すことができる。
そして最後の一つ。これは条件が整わないと使えないため、普段はないものとして扱っている。
無論、ヒーローの強さはスペックだけで決まるようなものではない。
経験、知識、技量、胆力。
どんなタイプのヒーローであれ、本人の素養によって数値上のスペックを凌駕する強さを発揮する。
が。その逆のパターンも勿論あるわけで。
「きゃあああっ!?」
「っと」
まともに斬撃を受け、吹っ飛ばされた平良さんの体を受け止める。
流石は魔法少女というべきか。
コンクリートを豆腐のように裁断する一撃を食らっても、服が一切裂けていない。
どんな仕組みなんだろうか、と疑問に思いつつ、爪の連撃から彼女を庇う。
「ふはははは!さっきの大口はどうした!?
その足手纏いを庇うばかりで、一撃も入ってな…」
「ってぇなこの野郎!!」
「ぐぉっ!?」
肩に突き刺さった腕を掴み、槍を叩きつける。
突撃槍は本来、馬上で構え、すれ違い様に相手を突き刺すための武器である。
が。僕の場合は少し違う。
僕が生み出した槍は刺突よりも、重量による打撃に特化している。
無論、必殺技は刺突だ。
だが、威力を出すために助走距離を確保しなければならない関係上、距離を突き離す手段が必要だった。
殴られたことで爪が折れ、よろめく狼。
十分な距離が確保できた。
確信した僕は槍の鋒を向け、全身に雷を纏う。
「遺言があるなら言っとけよ」
「ほざ…」
狼の怒鳴り声が終わるより先、取り巻く景色が線へと変わる。
遅れて、一瞬だけ手に重い感触が伝う。
ざ、ざざっ、ざ。砂利を削る音が最後に響き、槍の鋒が空で止まった。
「け、ぇ、え…?」
腹に大穴が空いたことに気づいたのだろう。
狼は自覚と共に顔を歪め、喉奥から断末魔を絞り出した。
「ぇえ、え、げぇええええっ!?!?」
いつものように爆発が巻き起こり、砂利が飛び散る。
毎度思うが、どうして倒すと爆散するのだろうか。
隠滅のためか?それとも、そういう生態なのか?「爆散するせいで死体が残らないからよくわからない」と学者として働くヒーローも匙を投げていたっけか。
そんなことを思いつつ、肩に突き刺さった爪を引き抜き、肉を再生させる。
「あだっ!?!?」
瞬間。傷口に無理やりスイカ一玉捩じ込まれたかのような激痛が走る。
ああ、これ神経やられてたな。
そんなことを思いつつ、僕は変身を解き、へたり込んだ平良さんへと歩み寄る。
「お疲れー。怪我ない?」
「……大丈夫です…。出雲さんは…?」
「大丈夫。治ったから」
「あ、あの…、それ、大丈夫とは言わないと思うんですけど…」
再生能力を持たない人が怪我するよりはマシだろう。
そんなことを思いつつ、変身を解いた平良さんへと手を差し伸べる。
魔法少女は耐久力がおかしいだけで、痛覚は普通に機能していると聞いたことがある。
痛みにやられて立ち上がれなくなることもあるらしいが、その心配は杞憂だったらしい。
彼女は申し訳なさそうに僕の手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
「すみません、足手纏いで…」
「実力不足は仕方ないよ。ここから強くなってくれたら、それでいいから。
せんぱーい!終わりましたー!!」
「おーう!」
僕が声を張り上げると、隠れていた先輩と姫様が顔を出す。
信じられないと言わんばかりに目を開き、まじまじとこちらを見つめている姫様を前に、僕は天を仰いだ。
これ、強さを見込まれて案内されるパターンだ。長丁場になるな、これは。
そんなことを思いつつ、僕は先輩たちへと歩み寄った。
「怪我はないですか?」
「え、ええ…。あなた方は…?」
よかった。言葉は通じるらしい。
それが魔法か何かによるものかは知らないが。
前は言語が違ったから、翻訳担当が来るまで突入を待ったこともあったっけか。
そんなことを思いつつ、僕は言葉を返した。
「ボランティアです」
「おいこら」
脳天に手刀が落とされた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……結局、こうなるのかぁ」
「予想してたことだろ」
眼前に聳えるモヤを前に、ガックリと肩を落とす。
最後の最後まで期待したが、この姫様は自分の無力をきちんと理解してるタイプだった。
頼むから吹っ切れてくれ。力が足りないって言うなら、装備を適当に見繕うから。
そんなことを思いつつ、モヤの中へと進む姫様の後に続く。
「我が国は現在、世界を渡るマフィア、『ヨコードリノファミリー』に占拠されています。
その狙いは…、王家に代々伝わる『伝説のおやつのレシピ』。
これを食べたものは、天下無双の力を得る…という伝承が残されています」
「んで、そのレシピを悪用されないよう、逃げてきたと」
「はい…」
「伝説の何やら」を狙って悪党が国を落とすのは、よく聞く話だ。
毎度思うが、そんな物騒なもん持ち逃げするくらいなら自分で使ってしまえばいいのに。
そう指摘しようにも、やむにやまれぬ事情がある場合がほとんどだからもどかしい。
材料が人間だったりするのかな、などと思っていると。
虹色のモヤに包まれた景色が一転した。
「ようこそ、おやつの国『ティスリーパ』へ」
一面に広がるは、多種多様なお菓子。
ケーキやプリンといった代表的な洋菓子から、大福や煎餅といった和菓子まで、幅広いジャンルのお菓子があたりを埋め尽くしている。
現実離れしているが、どこか既視感あふれる世界がそこにあった。
「わぁああ…!すごいですね、先輩!!
見渡す限りお菓子がいっぱいですよ!!」
「おやつの国っていうくらいだからね」
「わぁあ…、わぁああ…!」
「感動しすぎて語彙力無くなってんな…」
「歴が長いと感動が薄れる」なんて野暮なことは言わない。
こういうお菓子モチーフの異世界は割と多いのだ。
初々しい彼女の反応に苦笑を向けながらも、僕たちは姫様の案内に従い、街へと降りる。
「ああ…。あの美しかったティスリーパが、こんなにも荒れて…」
元がお菓子があちこちに散らばる国だったせいか、一望しただけではわからなかったが、よくよく見ると破壊の跡が残っている。
散乱するチョコのかけら。食い荒らされたお菓子の家たち。そして、姿を見せない民間人。
嫌な予感がする。それも果てしなく。
人間を使った儀式とかされてたら嫌だなぁ、などと思いつつ、僕たちは歩みを進めた。
「おかしいです…。民たちはどこへ行ったのでしょう…?」
「連れ去られたか、避難してるかのどっちかじゃないか?どこに…かはわかんねーけど」
先輩が可能性を挙げた、その瞬間。
僕たちの眼前に何かが降り立った。
「『全員殺されている』という可能性は考えないのだな」
降り立ったのは、猪の怪人。
鎧を纏い、人のように立つソレを前に、姫様が顔を大きく歪めた。
「ブルル・ヨコードリノ…!」
「…なるほど。グルルはしくじったのか。
が、わざわざ戻るとは都合がいい。大人しく伝説のおやつのレシピを渡せ。
そうすれば、王族だけは生かしてやるぞ」
「民は…、民はどうしたのですか…!?」
「くっくっくっ…。もう理解しているのだろう…?」
「………っ!!」
名前が鳴き声なのか、こいつら。
ビーバーだったら何になるんだ?「ア゛ァアアア!!・ヨコードリノ」か?
いや、あの動画は合成らしいから、もっと可愛らしい名前になるのだろうか。
そんなことを考えていると、先輩が前へと出た。
「何人かは殺してるかもだが、全部じゃねーだろ」
「………ほう?」
「人質、生贄、奴隷、魔力、エトセトラ。
人の用途なんざ死ぬほどあるだろうが。
アンタらみたいなタイプは、食い潰すまでは殺すなんて真似しないだろ」
姫様の顔がみるみるうちに青ざめる。
先輩、もうちょっとオブラートに包んでください。
そんな文句を吐くより先、ブタがくっ、くっ、と喉を鳴らした。
「随分とこちらの手口を理解しているようだな」
「嫌でも理解せざるを得なかったんでな。
お前みたいな、焼いても食えねぇ奴らのことはよ」
言って、ブレスレットの液晶に指を乗せる。
瞬間。彼女の体を爆炎が覆った。
「星火燎原」
炎の中に見えるシルエットが、みるみるうちに歪なものへと変貌する。
特に目を引くのは、無骨な装甲に覆われ、元の二倍ほどに大きくなった両腕。
先輩は身を覆う炎をその拳で払い、眼前の敵を睨め付けた。
「チャーシューになる前に自分語りは済ませとけよ」
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