第3話 三連休の過ごし方

「三連休でよかったー…」


三連休。それは全人類に許された至福の時。

人類に「土日祝」という文字列が嫌いなやつなんて居ない。

真ん中に全人類滅亡の危機が来るとわかっているのなら尚更だ。

何故世界は月曜日を休みにしないのか。

決まって日曜日に世界の危機が出勤するのだから、月曜くらいは休んでもバチは当たらないだろうに。

人類は働き者だなぁ、と誰に向けるでもない呆れを胸に秘め、破壊の痕が消えた街並みを歩く。


瓦礫の山と化していた街並みがどうして一晩寝ただけで修復しているのか。

誰しもが疑問に思うだろう。

なんてことはない。ヒーローたちが後始末に奔走しているだけのことである。


事件が終わった後、決まって街は壊滅状態。アスファルトは捲れ、民家は燃え、ビルは崩れ、惨憺たる光景が広がる。

まともに対応していては、復興に10年はかかる。

被害がただの一回きりならまだいいのだが、相手は週一でやってくる災害。

当然、従来の復興作業では追いつかない。


この被害の責任は何処にあるのか。

襲来した悪党?合っているが、間違っている。とっくに死んでいるもの、ないし滅んでるものに責任もクソもない。

対策しなかった国?それもあるが、年がら年中何かしら批判を向けられてるのだ。ほぼノーダメージである。


もうお分かりだろう。死に物狂いで人類を守ったヒーローにも、「街を守れなかった責任」という名の悪魔が襲いかかるのである。


精一杯やった。それは誰しもがわかっている。

が。それでも言わずにはいられないのが人間というもの。

たとえ全身の骨が砕けるような大怪我をしていようが、街の一角が更地になっていれば即座に責め立てる。


「ヒーローは基本的にボランティア集団なのだから、無視すればいい話だ」と論ずる評論家もいるにはいた。

が、しかし。ヒーローはマイナスの声を大きく受け止める人種の集まりであった。

結果。誰が言い出すわけでもなく、戦闘後に動けるヒーローたちが後始末をするようになったのだ。


今回のはまだ後始末が楽な部類だった。

やったことといえば、雑兵をばら撒いて、巨大化して暴れ回っただけ。

瞬間移動能力を持つヒーローが人気のない採掘場跡…通称「最終決戦場」に運んでくれたおかげで、闇の女神を名乗る不審者が爆散した時の被害もほとんどなかった。


願わくば、この程度の被害で済む敵ばかりであって欲しいものだが。

…いや、そもそも来んな。滅べ。ニキビが爆発して滅べ。どうせ派手に爆発して死ぬんだから、何処が爆心地でもいいだろ。

そんなことを思いつつ、街を練り歩いていると。


「うわぁぁあああっ!?お、俺の焼きそばパンが、もずくまみれに!?」

「サンドイッチの具がもずくに…。絶望的に合わないんだけど…」

「ぶっ!?お、お茶がもずくの汁に!?」

「もーずくっくっくっくっ!!

世界の主食はもずくだ!!人類よ!!

もずくを食え!!もずくを食べるのだ!!」


なんかトンチキなのが暴れている現場が見えた。


週1回じゃないんかい、と突っ込みたくなる光景だろう。

残念ながら、それとは別に月1回はこういった手合いが出没する。

その原因はそろって、日曜に爆散した怪物の最後っ屁。

先日見たばかりの『こんにちは!ボク闇のオーラ!』と主張するモヤがもずく怪人の周りに漂っているあたり、そこらのスーパーで売ってたもずくにでもくっついて生まれたのだろう。

最後っ屁それでいいのか?考え直せ、もずくだぞ?お前の印象「最後もずくに取り憑いたアホ」になるぞ?本当にそれでいいのか?

同情を向けるわけではないが、そう思わずにはいられない。

僕は呆れを振り払うように、バカみたいな笑い声を上げるもずく目掛け槍を構えた。


「お前に主食が務まるかァ!!」

「ぐばぁ!?!?」


こういうのは先手必勝。

被害が出る前に叩き潰さなければ、大惨事が確定する。

少し前には「正月だ!ボロネーゼだ!ボロネーゼを食え!」などと宣い、町中をボロネーゼまみれにした変態もいたのだ。

町中がもずくに沈む前に倒す。

僕は怪人が突き刺さった槍を空に構え、思いっきり投げ飛ばした。


「あの世で家庭科の授業受けて、こい!!」

「も、もずく酢は…ッ!食事の最初にィ…、食うんじゃ、ないぞーーーーーッ!!」


ためになる断末魔を残し、天空で爆散するもずく怪人。

なんで最後っ屁から生まれる怪人は、こうもトンチキなやつばっかなんだろうか。

次は残らないタイプがいいな、と思いつつ、僕はもずくに騒いでいた人々に目を向ける。

焼きそばやサンドイッチの具代わりに挟まっていたものから、ペットボトルの茶に至るまで、全てのもずくが消える。

後始末しなくていいのは楽だ。日曜に来るのも毎回こうなら非常に助かるのだが。

人々が感謝を述べるより前にその場を去り、メッセージアプリを開く。


『最後っ屁処理完了』


開くグループは、「ヒーロー連盟」。

過疎地域の学校くらいの人数しかいないグループだが、メッセージを投下した途端、魚が食いついたように次から次へと文字が浮かんだ。


『おつかれー』

『おっつー』

『どんなのでした?』

『食べ物系?筋トレ系?スポーツ系?』

『食べ物に500円』

『筋トレに100円』

『スポーツに1000』

『毎度ギャグに振り切ってるわけじゃないだろ』

『今んとこ3ヶ月連続ギャグ全振りだし、そろそろ普通のじゃない?』


『もずく』と端的に答え、メッセージアプリを閉じる。

目的は果たした。これ以上街を出歩く理由もない。

早く帰って、積みゲーを消化しなければ。

三連休じゃなきゃ大惨事だったろうなぁ、と思いつつ、帰路に着いた。


その日の晩、食卓にもずくが並んだ。

これがあるから嫌なんだ。倒されたからって我が家の食卓を汚染するな。

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