夜、小雨、シナリオライターより。
孤独に寄り添うような暗闇と、モニターから漏れ出す光が混ざり合う25時の作業場。青年はすっかり飲み慣れた味のジンの入ったコップを傾け、喉を潤すとノートパソコンに書いた原稿をじっと見つめ考え込むようにゆっくりと息を吐く。
凍りそうなほど冷たい窓の外からは、しとしとと雨音が聴こえている。
「んぅ、どうしてもこのセリフだけがしっくりこないな…」最後の手直し中に見つけた小さな違和感、傷ついた主人公が再び立ち上がらんとするシーンのセリフ。それが、どこか気に食わない。何か伏線を無視しているわけでも、今までのキャラ設定から外れているわけでもないのだが、どこか無理やり言わされている感が拭えないのだ。
主人公の言動を描くためには、まず自分がその主人公の立場に立ったことを想像する。敵国の騎士たち数千人と死闘を繰り広げたがそれでも進軍を止めるには力及ばず王や民を殺され、火の海の中でゆっくりと崩壊していく城の中、無力感にあえぎ泣き崩れる女騎士。その立場に立って、考える。
圧倒的な強さをもってして、数多くの敵を蹂躙できる実力があった上で敵の進軍を許してしまい、結果として自らが忠誠を誓った国を失った女騎士は、そもそも本当に立ち上がることが可能なのだろうか。先ほどから浮かんでいた違和感は、無理にハッピーエンドにしようとしている故のものなのではないのだろうか。
物語だからといってすべてが思い通りになるとは限らない。しばらく考えて気づいた結論は、彼女はここで立ち上がることができないということだ。そして、この話は「再び勇気を取り戻した女騎士が敵を掃討し、結果として国を救う」という展開から少しずれ、「戦争に一度負け、深い悲しみに明け暮れた女騎士が他の自国の残った騎士達を率いて再び国を救わんと戦い、勝利の栄光を手にする」というストーリーに変わった。
最初に決めた物事の通りにいかないときは、少し方向性を転換してみるのもありなのだ。そうすることでやみくもに突き進むよりもいい結果が得られることもある。
私はこの日、そんなことに気づいた。
雨音が少し強まり、大きな会場に響き渡るやわらかな拍手のように聞こえた。
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