ダーティーピンクの女王

 夜を知らないこのクラブに着いたら、まずはいつものカクテルをお願いするの。甘くて暴力的な、ピンクのカクテル。それを持ちながら彼を探す。ハンサムでお金持ちの、大好きなアタシのダーリンを。

 

 途中で他の男の子も誘惑するの、可愛くてウブな若い男の子をね。そして可愛らしい女の子とダンスする。腰に手を回して、まるで淫らな行為のように激しくダンスするのよ。


 酔っ払ってきちゃうくらいになると、ダンスフロアの近く。テーブルのそば。いつもの場所にダーリンを見つけるの。アタシはカウンターで強いバーボンをもらってから、彼の元へ行く。


 そして、甘い、2人だけの時間が始まるのよ。周りの人の目が釘付けになるくらい素敵なダンスをして、誰が誰だかわかんなくなっちゃうくらいお酒を飲み、楽しくなってクラブのみんなにチューして回る。


 すっかり酔いつぶれてフラフラになったアタシを他の人に盗られないように、ダーリンが抱きかかえて車に運んでくれる。


 そして、気がつくと蕩けるような快楽の中。耐えきれず失神するように、私は眠りにつくの。







 そして、クソみたいな朝。だりい。私の愛するだーりんはもう仕事に出かけてて、私はコーヒーを1杯飲んでからタバコを1本。

 2本、3本、4本……、そしてだーりんの家を出る。


 鍵はポストにそっと入れて、ばかみたいな昼の太陽に照らされて駅まで歩く。昼間なんて嫌いだ。夜の女王が1人、太陽にケンカを売るように歩く。手にはギラギラの金のバッグ、顔にはピンクの可愛いサングラス。


 駅にタッチしたSuicaの残金は19,200円と表示されてる。毎日電車で移動するけど、私のSuicaの残金が16,000円を下回る事、そして自分でチャージする事は数ヶ月間一度も無い。


 昼間の電車も嫌いだ。過去の自分を思い出すから。この灰色の風景を見てると、目が腐って落っこちちゃいそう。

 

 満員電車から少し人が減ったくらいの電車内には、社会に首輪を付けられた顔のしょげたワンちゃん達と、楽園をまだ知らない女のコと男のコ達が乗ってる。そしてその中に、社会の首輪の焼ききれた跡が目立つ、ピンクのサングラスのオネエが1人。


 これ以上は本当に目が腐りそうだから、私はそっと目を閉じた。目を、閉じた……。







 目が覚めると終点だった。このままここに乗ってるわけにも行かないから、名前も聞きなれない駅で降りる。


「はぁー、あっつい。誰か迎えにきてくんないかなー」とりあえず適当なカフェにでも入って、クラブの男の子達の中で空いてる子に迎えに来てもらおうかしらね。


「おまたせー、いやー暑いね」彼は大学生の風知ふうちくん。今日は講義が休みで暇だったそう。


「暑い中ありがとー、風知くん」見つめながらそう言うと、風知くんは顔を赤らめて目を逸らす。


「あの、なんか頼みますか…?」風知くんは自分のウブでカワイイ反応を誤魔化すようにそう言った。


「じゃあ、このいちごパフェが食べたいわ。お願いしてもいいかしら?」


「もちろんですよ、女王様」


 それから雑談に花が咲き2時間ほどカフェにいると、徐々に人づてに聞いた他のクラブのメンバーも続々と集まり始める。住宅街の隅にぽつんとあるカフェが、あっという間に見覚えのあるメンバー達で騒がしくなる。きっとこのパーティはクラブの開店まで続くはずだわ。


「みんなー!ありがとっ!愛してるわ~!」


「「「「「foooooooo!」」」」」


 なんの面白みも無い昼の街の一角は、この夜の女王の魔力に動かされた。またしても昼とのケンカに勝ったのはこのアタシだったようね。

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