火だるま

 対岸の火事を望む私がいる。いわゆる妬みだ。

目の前でいちゃついてるこいつらが憎くてたまらない。モテないことへの物とはまた違う劣等感が募る。


 遊園地にいるピエロの気分、カップルに風船を渡すためだけの存在。笑いもののピエロに恋をする客なんていない、彼はいつも蚊帳の外だ。


 ピエロは面白く塗った顔の下で恨みのこもった真っ暗な目で彼ら、彼女らをみる。


 そして、恨みの念を込めた風船を渡すのだ。この風船が彼らを苦しめるように、奴らを忘れないように、奴らに忘れられないように。


 そしてピエロは、対岸に広がる大きな火事を望む。


 燃えよ、絶えよ、貴様ら。手の届かぬ対岸で。


 燃えた先で、俺達は灰と火の粉でボロボロに朽ちたお前を仲間として迎えよう。


 冬の暖炉や子犬の温もりよりも、もっと暖かく、もっと熱く、


 もっと厚く、顔に塗るのさ、ピエロの化粧を。


 顔に塗られた、ピエロの化粧。そして―



 「対岸の火事を望む私がいる。」


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