第25話 閑話─進撃の魔女達



 アリスティアはダイニングにいた。


 その周りには母親のキャサリンやデイジーや侍女達、公爵家の使用人達がズラリ。


 皆がある場所を見守る中。


 いきなり魔女リタが床から現れた。

 ニョニョニョニョニョと。


 続いてロキとマヤもニョニョニョニョニョと。


 ダイニングにワッっと歓声が上がる。



 そう。

 婆さん達はこんな風にいきなりニョニョニョニョと、ダイニングの床からやって来たのだ。


 公爵家の皆は腰を抜かす程に驚いた。



 アリスティアが学園に復学する為に公爵家に戻ったその日に婆さん達はこうしてやって来たのだ。


 アリスティアが自宅に戻る事をリタ達に告げた時、彼女達は何も言わなかった。

 それが少し寂しくてショックを受けた。


 アリスティアは頑張って彼女達の世話をして、それなりに仲良くしていたから、ひき止められるのではと思っていたのだから。


 世話と言っても食事の世話をするだけなのだが。



 妖精は風呂には入らない。

 何故なら妖精だからなのだと言う。


 なので風呂は小屋には無かった。

 リタに木の箱を作って貰い、そこに釜戸で沸かした湯を運び入れると言う作業をしていたのだ。


 腕力が付く筈である。



 流石に畑仕事をするとドレスが汚れる事から、彼女達も洗濯は自分でしていた。

 川で洗って木の枝に掛けると言う。


 自宅からロープを持って来たアリスティアは、木と木の間にロープを掛けた。

 最近ではリタ達もそれに干している。

   


 因みにこの木は普通の木。

 自分の役割を立派に果たしている。


 道案内の木だけが煩いのである。


 レイモンドに対しては最早ファン。

 特に白馬に乗った皇子様が好みであった。



 そもそも自分の事は自分でする事が彼女達のポリシーなので、婆さん達の世話をすると言っても主に料理を作っているだけで。


 何千年も生きている妖精であるリタ。

 そしてロキにマヤ。


 生で野菜を食べて来た彼女達にとって、火を通した料理は革命的だったらしい。

 それに味が付いている事も。


 そんな彼女達がアリスティアの下手な料理を美味しい美味しいと言って食べてくれていたのが嬉しかった。


 自分が必要とされている事がとても。



 そんな事から、もう少し寂しそうにしてくれると思っていたのだが。


 わたくしはあまり必要ではなかったのだわ。


 妖精は人には関心を持たない存在だから仕方が無いと、アリスティアは寂しく自宅に戻った。

 週末には魔女の森に来る事を約束して。



 しかし婆さん達は。

 アリスティアが邸に帰った時に持たされていた、シェフの料理に心を持っていかれていた。


 その料理が食べたくて。

 リタは、このグレーゼ邸のダイニングと魔女の森の小屋に通じるを作った。


 アリスティアの邸には、常に美味しい料理を作るシェフがいるのだからと。



 魔女の森のアリスティアが使っていた部屋と、ロキやマヤのそれぞれの国の魔女の森に繋がっている道である。


 それは妖精である自分達だけが通れる道。



「 アリスティアがお世話になりまして誠に有り難うございます 」

「 リタ様がアリスティアを導いて下さった事で、娘が前を向く事が出来ました 」

 ハロルドとキャサリンが敬意を称して丁寧に頭を下げた。


 魔女には身分制度はない。

 それはたとえ皇帝であっても対等である。


 しかし婆さん達は何処吹く風。

 妖精は人には興味が無いので。


 アリスティア以外は。



 リタ達が食べた料理の皿が山盛りに積まれている。

 婆さん達は大食いだ。


 美味い美味いと言いながらガツガツ食べてくれるので、シェフは腕に縒りをかけて料理を作っていて。


 翌日の朝食と昼食まで持たせている。



 婆さん達は食べ終わるとさっさと帰って行くのだ。


 皿を片付けているメイド達は可愛い可愛いと言って、婆さん達がダイニングに現れるのを楽しみにしていると言う。


 ニョニョニョニョと出てくる瞬間が面白いと言って。



 そうしてグレーゼ公爵家のダイニングで、シェフの料理に舌鼓を打った婆さん達はダイニングの床に姿を消した。


 ニョニョニョニョニョと。




 何千年も魔女の森で生きている妖精達。

 瞼は垂れ下がりその隙間にあるのは魔女の証の赤い瞳。

 大きな鼻は垂れ下がっている。


 絵本通りの魔女である。


 しかしリタ達は妖精だ。

 絵本通りの魔女に変身しているだけで。

 それは魔女が恐れられた存在だから都合が良いと言って。


 彼女達の本当の姿は誰にも分からないのだ。



「 妖精ってすげーな 」

「 まさか我が家に魔女の森のリタが来るとはな」

「 それもタルコット帝国の魔女とレストン帝国の魔女付きだぜ? 」

 ハロルドとオスカーが興味深そうに、ガツガツと料理を食べている婆さん達を見ている。


 オスカーやハロルドが変身をしてくれと、お願いしてもまるで無視。


 この邸には料理を食べに来ているだけらしい。



 世界には三大帝国がある。

 この三ヶ国には各々魔女がいる。


 タルコット帝国のロキ。

 レストン帝国のマヤ。

 エルドア帝国のリタ。


 彼女達は何千年も魔女の森でひっそりと暮らしていた妖精。



 彼女達は。

 エルドア帝国のグレーゼ公爵邸のに進撃していた。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る