その名はオリビエ(3)

 オリビエさんって言うんだ……

 わあ、なんか立ち居振る舞いも上品と思ったらいいところの人なんだ……

 

 ……むむっ! 今、私の中の何かがピカッとひらめいちゃった!


 私はオリビエさんをじっと見ると、先ほどひらめいた事を思い切って言ってみた。


「あの……本当に有難うございました。助かりました! と、ところでオリビエさん、い、今お1人ですか?」


 私の言葉にオリビエさんは目を軽く見開くと、首を縦に振った。


「ああ、俺も先週この街に着いたばかりなんだ。これからクエストを探したり、仲間を見つけないと……と思ってた所に、丁度君たちと出くわしたんだよ」


「じゃあ、私たちとパーティ組みませんか!」


「……え?」


 キョトンとしているオリビエさんの顔を穴の開くほどじっと見ていると、いきなり後頭部をペチンと叩かれた。


「い、痛ったぁ! なによメリル!」


「……おい、アテネ。このスカポンタン。お前の乏しい脳みその中に『学習』と言う言葉は無いのか?」


「そのくらいあるよ! ちゃんとローグのご両親から言葉は教えてもらったんだからね!」


「じゃあ、さっきみたいな目にあって、ものの10分もしないうちにそれか? ああ、すまなかった。お前に足りないのは言葉じゃなく記憶だな。脳内に高性能の消しゴムがあるんだな、それはそれは」


「謝ったならいいよ、許してあげる。だってさ、この人は信用できると思うよ。私たちを利用しようとするなら、助けないじゃん。お金を盗ろうとするならあの後、こっそりあの人たちを追いかけて袋を奪うなりやっつけちゃえばいいんだからさ」


 オリビエさんは困ったように微笑むと、私の目を見て言った。


「アテネ・ローグさん、そんな光栄な申し出有難う。ただ、それは俺を信用する根拠としては弱くないかな。まず、もし俺が弱かったら? それなら1対2ではお金を奪えない。それよりも君たちを助けたふりして仲間になった後、クエストだって嘘ついて奴隷商人に売りさばく事もありうるだろう?」


「へえ!? そんな……事しない……ですよね?」


「もちろん。と言っても俺の心の中までは分からないだろ? メリル・ランガーバーグさんが心配してるのはそこだと思うよ。君もこれから冒険者になるのなら、疑う事も必要だ。今後、君たちのランクが上がってくると、君たちの力を利用しようとする奴らはどんどん出てくる。ギルドもそこまでは見抜くことは出来ない。自分の身は自分で守らないといけない。だろ?」


 うう……そうだけどさ。

 でも、この人は……絶対信用できる。

 そう確信してる。

 ……根拠はないけどさ。


 と、考えながらしょんぼりしていると、先ほどの受付のお姉さんが私たちのところに歩み寄ってきた。


「お二人さんお二人さん、オリビエとパーティー組むのかな? じゃあパーティー登録しちゃおうかな」


「えっ? お姉さん、オリビエさん知ってるんですか!」


 私がビックリしながら言うと、受付のお姉さんは事も無げに言った。


「うん。そこのオリビエ・デュラムと私は幼馴染。だから彼はわざわざこの街まで来たんだよ」


「え……」


「さっきは合わせてくれてありがとな、リッテ。お陰で奴らを追い払えた」

 

「どういたしまして。代わりに今度、ジャイアントボアーの焼肉奢ってね」


「この前みたいに5人前とか食うなよ」


 苦笑いしながら話すオリビエさんを見ていると……あれ? なんだろ?

 なんか……あれ? 胸の奥が……ま、いいや。


「あ、じゃあ……オリビエさん、信用出来るんじゃないですか!」


「うんうん、オリビエは剣の腕も立つし、冒険者ランクもお二人より高いEランクだから、バッチリだよ。いいマッチングしちゃった! リッテいい仕事!」


 私はオリビエさんの前に立つと、深々と頭を下げて言った。


「オリビエ・デュラム様、あらためてお願い致します。私、アテネ・ローグとメリル・ランガーバーグとパーティーを組んで下さい! 私達、まだ何も提供できません。見返りはありません。でも、いつかあなたに見たことの無い景色を見せると約束します! だから……お願いします!」


 ああ、心臓がバクバクする。

 目をつぶって返事を待っていると、隣に誰かが来た感じがした。

 そして、すぐに声が聞こえてきた。


「私からもお願いします。コイツを助けて上げて下さい。あなたに相応しい報酬はお支払い出来ません。なので虫のいい話なのは百も承知。でもコイツにはあなたみたいな人が必要です」


 メリル……


「いいじゃん、オリビエ。このお二人さんを導いてあげなよ。そうすればあなたの……」


「リッテ、喋りすぎだ。焼肉奢るのやめるぞ」


「はへえ!? ご、ゴメン!」


 オリビエさんは私とメリルを見ると、深々と頭を下げた。

 

「……過大な評価痛み入る。ただ、俺も何者でもない未熟者。それで良ければぜひ」


「……は、はい、喜んで! 宜しくお願いします!」


 わあ……やった、やったあ!!

 

「きゃあ、やった! 仲間が増えちゃった! オリビエさん、末永く歩んで行きましょうね」


「プロポーズか、スカタン。オリビエ殿、宜しくお願いします」


「オリビエでいいよ。あと敬語は無しにしよう。君達のパーティーに入れてもらうんだからね。こちらこそ今後ともよろしく」


「あ、じゃあ……オリビエ、今後ともよろしく!」


「はいはい! これにてマッチング完了! さてと皆様方、じゃあまたパーティー登録しなおしてもらってもいいかな? 後、3人になったからリーダーも登録してね」


「へ? リーダー?」


「ですです。ギルドの決まりで3人以上のパーティーはリーダーを決めなくちゃなの。と、言っても手続き上、各種届出の代表者としての存在だから、何をする訳でも無いけどね。まあ、たま〜にギルドの各種イベントに出てもらう事はあるけど」


「え? じゃあ誰にしよう。やっぱりオリビエ……」


「アテネだろう。私を誘ったのはお前だし、冒険に行こうと誘ったのもお前だ」


「俺もそれがいいと思う。アテネちゃんは何と言うか……人を動かす不思議な何かがあるしな」


 へえ!?

 そ、そうかな……えへへ。


「じゃ、じゃあ……やっちゃおうかな……リーダー」


「じゃあ決まりね。はいはい、じゃあこちらの申請書に名前を書いて提出してね。後、リッテお姉さんからの忠告だよ。手持ちの財産はギルドの銀行に預けて置くことをオススメするよ! 引き出すのに一回毎銅貨1枚頂くけど、責任持って管理するので」


「そ、そうですね。さっきみたいな事あったら怖いし……じゃあお願いします」


「はいはい、じゃあギルドが責任持って……って、はへえ!? これ……なに!」


「ぬ? どうしたんですか……って、お……お前」


 リッテさんとメリルが啞然とした表情で絶句していた。

 え? なになに。


「どうしたんだ、二人とも」


 そう言って私の革袋を見たオリビエが少しポカンとした後、可笑しそうに笑い出した。


「これは……予想外だった。悪いなアテネちゃん、さっきの言葉取り消すよ。あの『アイツらをギルドに突き出す事は出来ない』って奴。……まさか、革袋と硬貨に……名前を書いてたとは」


 えっ、えっ。

 なんでみんなそんな反応を?

 普通名前書くんじゃ……ないんだ!?


 私はカッと顔が赤くなるのを感じた。

 

 なんか……凄くお馬鹿な子みたい。

 

 なにはともあれ、新たな仲間が出来て3人体制になった私達。

 この夜はお祝いに3人でお肉を食べたけど、翌日のお腹を見てメリルと共に絶望に浸ったのはまた別のお話……

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