BREAK
第5話
「亜蘭君、誕生日おめでとう」
「おめでとうございます」
「Happy birthday, Alain!」
撮影の合間を縫って、亜蘭の誕生日祝い兼ミーティングと称して、洒落たバーを借り切った飲み会が設けられた。
片やこの日の話題の中心にいる亜蘭と、片やなるべく目立たないようにしている舞花とで、なかなか思うようにならなかったのだが、ようやく亜蘭が舞花をつかまえて言った。
「ねえ、舞花君。お願いがあるんだけど」
そう話す表情は真面目なようでもあり、不真面目なようでもあり、まっすぐに舞花を見つめる目が、否とは言わせない雰囲気を漂わせていた。
「わたしに?」
舞花は思わず見返して訊ねた。
「明日は撮影がないだろ。だから君に宿題を課す」
「?」
声には出さず、舞花の瞳が問う。
「課題を預けてあるから、帰る時に彼から受け取って──」
さりげなく亜蘭はカウンターの中にいるバーテンダーを示し、
「感想を聞かせて欲しい」
お願いというには有無を言わせぬ雰囲気を漂わせて、言った。
「はい……」
いったい何なのだろうと思いながら、舞花は承諾した。
* * *
「遠慮はいらない。思ったまま言って欲しい」
演技をこなした後の隙間時間に、亜蘭は舞花に訊ねた。
舞花への宿題とは、亜蘭が出演した作品への感想だった。
「正直に言います。わたし、渡されたブルーレイ、初めて観ました」
そう言って舞花は少しだけ言葉を止めた。
「こんなふうに同じ俳優さんの出てる作品を続けて観たことがなかったから、それで気づいたことがありました」
小首をかしげて続けて、と亜蘭が促す。
「どんな役柄を演じてても、その俳優さんの個性……、人格? が前面に出てる場合と、そうでない場合があるんだって。ん~、例えばですけど、月城舞花が〇〇の役をやった、というのと、〇〇の役を月城舞花がやった、っていう違い……かな。岩渡さんって、どの役もそれぞれ、作品ごとに雰囲気も人格も全然違ってて──同じ顔なのに違う人みたいで、そこには登場人物がいるだけで、岩渡亜蘭という存在は全然なくて、凄く、ああ、なんて言ったらいいのかしら。とにかく、良かったです」
うまく言葉にできないもどかしさを覚えながら、舞花は答えた。
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