SCENE 3

第5話

 ドラマの撮影が進む中で、舞花は徐々にメディアでクローズアップされるようになってきた。演技力がすごい、眉僅かの動きで感情を伝える、期待の新星などなど。


 実際、カットの声の掛かった後でも、舞花は役どころの意識をそのままに、制止しようとする共演者に抗おうとしたりしていた。


 テレビでの放送が回を重ねるごとに、視聴率はぐんぐん上がっていった。ウェブ上では、各種公式サイトはもちろん、個人運営の感想サイトなどがこぞって番組を取り上げた。


 亜蘭の方には言うまでもなく、舞花の所属するプロダクションにも当然のように取材の申し込みが殺到した。


 社長はそれでも、これで最後になるのだという契約をひた隠し、なんとか上手く取材を断り続け、月城舞花という存在にミステリアスなイメージを維持することに尽力した。


 亜蘭と舞花との間で交わされたキスシーンについての内容は、他の誰にも知らされることはなかった。ただ、スタッフや関係者に、二人の間に何かがあったのかもしれない、という思いを抱かせるには充分な変化が演技に反映されていた。


 実のところ、脚本だけみれば単純な、不良少女の更生物語だ。しかし、その裏側に恋愛要素を盛り込むかどうかは、監督から亜蘭に密かに打診されていた。


 星夜が少女に恋する物語、はたまた、歳の差カップルが誕生する物語、それとも恋愛とは違う個人と個人との信頼関係を築く物語、それらのどういう物語になるのかは、亜蘭が好きに解釈していい。そういうディレクションだった。


 亜蘭がどういう解釈をしたのか、公式にはまだ明らかにされてはいないのだが、少なくともあかりに対する感情は、更生させるという使命感の枠から大きく抜け出ていることは感じ取れた。


 その思いは、当然と言えば当然のように受け取る側のあかりとしての演技にも如実に反映されるわけで、結局それは視聴者ごと物語の世界に巻き込むことになった。


「じゃあ、次行こうか~」

 監督の声は誰の耳にも上機嫌に響いた。いよいよ、クライマックス・シーンの撮影だ。

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