SCENE 2

第3話

 屋上から飛び降りようとしたり、車道に飛び出したり、あかりは自殺願望をちらつかせながら日々を過ごす。ことあるごとにあかりの前に現れては、救世主のように手を差し伸べる星夜。

 

 初めは半分本気、半分成り行きで自殺しようとしていたあかりは、次第に星夜がどこまで真剣なのかを試すようになる。


 遮断機をくぐり抜け、迫りくる電車の前に身を置こうとしたあかりは、まかり間違って本当に生命をなくしてもそれはそれで構わないと思っていた。


 強く腕を引かれ、勢い余って星夜に抱きとめられ、二人ともに路上を二度ほど転がり止まる。


『うぜえんだよ!』

 星夜に阻止されてついに正面切ってあかりは言葉の刃を突きつける。


 硬い表情のままゆっくりと身体を起こし、あかりの手を取って立ち上がらせる星夜。


『なあ。死ぬなとは言わないよ。でもさ、死ぬなら他の誰かに迷惑をかけないやり方しろよ』

 ──他の……、誰かに……、迷惑を……

 予想に反した星夜の言葉に、あかりは彼の顔を見上げ、じっと見つめる。


『電車を止めたらどれだけの弊害があるか考えたことあるか? 山で遭難したら、捜索費用は誰が払うんだ? お前が自分から車道に飛び出して行って死んでも、轢いたドライバーは人を殺した負い目を一生背負う事になる』

『じゃあ、誰にも迷惑をかけない死に方教えてよ!』

 ぐさりと心を突かれた衝撃を感じながらも、キッと鋭い視線を向けて、あかりは言い放つ。


『それは……、駄目だ教えない』

『ほら! そんなの知らないくせに』

『いいや、その手には乗らない。教えない。俺は、何度でもお前を止める』


「はい、カ~~ット‼」

 監督の声がシーンの区切りを伝えた。表情を見る限りは満足そうだ。


「オッケー。休憩しよう」

 監督の言葉にようやく、張り詰めていた舞花の表情が緩んだ。


「舞花ちゃん、良かったわよ~。ああ、もう本当に死ぬ気なんじゃないかってドキドキしちゃったわよ。大丈夫?」

 いくら撮影用の危機的シーンと分かっていても本気で心配したらしく、吉崎が駆け寄ってきて、舞花の身体に怪我がないかをたずねた。


「大丈夫です。岩渡さんが、……」

「吉崎さん、ちょっと舞花さんお借りします。演技の相談があるんで」

 色々な場面で亜蘭が自分の身を挺して、極力舞花の身体が備品や地面に触れないようにしてくれていたことを話そうとしたのを、彼自身が故意に遮ったようにも思えた。


「あ、はい……、ええ、よろしくお願いします」

 場所を変える二人の背中に、吉崎のきょとんとした視線がいつまでも投げかけられていた。

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