【児童小説版】第1話 人魚の赤ちゃん

 とおい、とおい、うみこう。

 

 ふかい、ふかい、うみそこ


 ふるい、ふるい、おおきなおにわ


 そのまんなかに、太陽たいようむ、キラキラ光る場所ばしょがありました。


 ピンククジラのくにです。


 このくにおおさまは、それはそれは、おおきなピンクいろのクジラなのです。


 なにもない平和へいわが、いく日もつづいたものですから、クジラさんは、毎日まいにち毎日まいにちねむっておりました。


 こうしてクジラさんは、とってもながあいだ一度いちどきずにねむっていたのです。


 キラキラやさしい太陽たいようさん、ポカポカあたたかいうみ。クジラさんはスヤスヤと気持きもさそうにゆめのなかです。


 クジラさんのからだはと〜ってもおおきくて、ちいさなフジツボのおうちいろとりどりのサンゴのテーブル、ユラユラゆれるワカメのもりがあって、たくさんのおさかなさんたちが、幸せそうにらしておりました。


 ケヤリのはながクジラさんを、コショコショッと、くすぐってもきません。


 フリソデエビがクジラさんを、グイッと、つねってもきません。


 モンハナシャコがクジラさんを、コンコンと、たたいてみても、スヤスヤねむって、きることはありませんでした。




 ある満月まんげつよるのことでした。


 クジラについたサンゴが、いっせいにたまごをはじめたのです。


 はじめは、ポンと、ひとつ。


 まんまるで、しろ可愛かわいいサンゴのたまごは、おつきさまのひかりをあびて、ピンクいろまります。


 ふたつ、みっつ、ポン、ポンと、次々つぎつぎまれてゆきます。


 こうして、たくさんまれたサンゴのたまごたちは、ふわふわ、ゆらゆら、おつきさまのひかりさそわれて、クジラをはなれて旅立たびだちます。


 キラキラと、ピンクいろにかがやくうみみずは、とおく、とおく、どこまでもサンゴのたまごをはこんできます。


 そのうしろ見守みまもるように、やさしいアオウミガメさんが、パタパタといかけてきました。


 いつかどこかで、立派りっぱなサンゴになるといいですね。


 あれれ?


 ひとつだけ、とりのこされたサンゴのたまごがありますよ?


 ふわふわ、ゆらゆら、ったり、たり。


 どうやら迷子まいごになってしまったようです。


 ニシキテグリのおさかなさんがツンツン! あぶない! べられちゃうよ!?


 ツンツン、ツンツン、つつかれているうちに、コロン、クジラの背中せなかあなのなかにはいってしまいました。


 しばらくして、クジラさんがムズムズとしはじめました。


 きゅうにクジラさんがムズムズしはじめたものですから、クジラさんにんでていたものたちは、おおあわてです。


 ゴゴゴ、とおおきな地震じしん


「ハックション!」


 と、クジラさんはおおきなクシャミをしました。


 迷子まいごのサンゴのたまごはビュン、とんでゆき、仲間なかまのところにもどることができました。


 これで、ほっと一安心ひとあんしん


 しかし、クジラさんはそんなことはりません。


 クジラさんは、ふわあ、とおおきなあくびをして、ぶるん、とおおきなバブルリングをつくすと、またスヤスヤとねむってしまいました。


 ふわり、ゆらり、バブルリングはかたちえて、だんだんとちいさく、ちいさくなってゆきます。


 ちいさなあわだまになってしまったバブルリングは、ピンク色のシャコガイのふわふわの布団ふとんうえにふわり、つつまれます。


 シャコガイにりそそぐおつきさまのひかりは、あわだま虹色にじいろひかりあたえました。


 虹色にじいろのあわだまはピンクのシャコガイによって、大事だいじに、大事だいじそだてられました。


 やがて、あわだまはパチン、とはじけてしまいました。


「きゅん、きゅん」


 おやおや? なんおとでしょう?


 ると、そこにはとても可愛かわいらしい、あかちゃんがおりました。


「きゅん、きゅん」


 どうやら、あかちゃんのごえのようですね。


 しかし、よくると、あかちゃんはあしがありません。あしのかわりに、おさかなさんのようなシッポがえております。


 そうです。そのあかちゃんは、人魚にんぎょあかちゃんだったのです。


「きゅん、きゅん」


 それにしても、なんと可愛かわいごえなのでしょう。


 ピンクゴールドのかみ


 角度かくどによっていろわるキンピカのウロコ。


 そして、クリクリとながいまつおくにかくれんぼしているおめめの色は、ななつのうみあお。このうみのどんなものにもない特別とくべついろをしています。


 そう、人魚にんぎょあかちゃんは、とっても可愛かわいらしいのです。


 あかちゃんのごえがあまりに可愛かわいいものだから、ねむっていたクジラさんはまたまたきてしまいました。


「おや、これは可愛かわいらしい人魚にんぎょあかちゃん」


 おおきなおおきなクジラさんは、ちいさなちいさな人魚にんぎょあかちゃんに、名前なまえをつけてあげることにしました。


 クジラさんがつけるあかちゃんの名前なまえになって、おさかなさんたちがあつまってきます。


 カニさんや、えびさん、タコさん、イカさんもつられてあつまってきました。


「きゅん、きゅん」

 

 人魚にんぎょあかちゃんはきます。


 可愛かわいらしいごえに、みんなわらいます。


「きみの名前なまえはアリア。これからは、そうぶことにしよう」


 クジラさんはにこり、満足まんぞくそうにわらうと、みんなもつられて笑います。


 するとどうでしょう。さきほどまできゅんきゅんといていたアリアちゃんは、にこにこ、きゃっきゃとわらはじめたじゃありませんか。


 そうするとみんなもまた、つられてわらいます。


 誰も知らない、うみそこのピンククジラのくには、今日きょう平和へいわなのでした。


 





──────────────

※バブルリング…アワでできた輪っか


【挿絵】

人魚姫

https://kakuyomu.jp/users/dark-unknown/news/16818093086242771297


ピンククジラの王さま

https://kakuyomu.jp/users/dark-unknown/news/16818093086365016988


【写真】

ケヤリ・フリソデエビ・モンハナシャコ・ニシキテグリ(マンダリンフィッシュ)

https://kakuyomu.jp/users/dark-unknown/news/16818093086210620335

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る