第5話
すると大澤先輩の彼女の本宮先輩が防音室の前を通り過ぎた。
「あ、本宮先輩」
俺が呟くとスクッと立ち上がり防音室の扉を開ける。
「しおり」
今までとは打って変わり優しい声を出す大澤先輩。
「あ、和政」
俺が立ち上がり本宮先輩に頭を下げると、本宮先輩も微笑んで手を振ってくれる。
今日も綺麗だ……!
本宮先輩は大澤先輩が兼部してる調理部の部長。
俺も大澤先輩を追いかけて調理部に兼部しているおかげで、本宮先輩には優しくしてもらってる。
「ライブ、来月だっけ?」
本宮先輩の言葉に俺は「はいっ!!」と、元気良く答えた。
「大澤先輩の指導の下、頑張っています!」
本宮先輩はまた優しく微笑む。
「お疲れ様」
きれいだー……。
正直、本宮先輩のことは大澤先輩の彼女さん、くらいにしか認識していなかった。
しかし何か色々あって先輩の可愛らしい一面を見てしまったりして、ぶっちゃけた話、大澤先輩に対してと同じくらい憧れてきている。
あ、もちろんこの感情は憧れ、な訳であり。
アイドルを好きみたいな感覚に近いのだが、大澤先輩には口が裂けても言えない。
「そのライブ、私はいけないの?」
「あー……、うん。
何か俺らが出るってバレて、お客さんが埋まってもこいつらの為にはならないから、ギャラスタはチケット裁くのダメなんだってさ」
「そっか、残念。
結奈も行きたがってたのに」
その先輩の寂しそうな横顔に俺の心はトキメく。
「あの、本宮先輩っ!」
俺が呼びかけると先輩は首を傾げ俺を見る。
首を傾げるのはどうやら本宮先輩の癖らしい。なんて美しい癖なんだ。
俺は鞄に入れっぱなしのチケットを二枚、本宮先輩に渡した。
「これ、良かったらどうぞ!」
驚き喜ぶ本宮先輩。
「え?良いのかな?」
俺はコクコクと頷く。
「勿論です!本宮先輩には日頃お世話になってますし!」
財布を出そうとした先輩をとめる。
「プレゼントです!」
「え、でも……」
すると大澤先輩が本宮先輩の手を触れる。
「伍樹がそう言ってるんだから貰っちゃいな」
本宮先輩は「ありがとう」と、チケットを鞄にしまい、また俺に手を振ってくれた。
「練習、頑張ってね」
俺がその姿に見とれる様に大澤先輩も見とれていた。
「あれは俺に言ったんだからね」
低い声で言われた。
「分かってますよ」
ドラムセットに戻ると大澤先輩にお金を渡される。
「これ、詩織の分」
「いやいや!あれはプレゼントです!」
「今月のお小遣いキツいんでしょ?」
以前チラッと言ったことを覚えてくれていたなんて!
「それに」
喜びに浸ってると先輩が椅子に座り言った。
「プレゼントなんて許すわけないだろ」
そして俺に低い声で言った。
「キャラメルがぎりぎり」
「あ、そうゆうことですか」
俺が準備をすると大澤先輩が電子メトロノームをセットしながら言った。
「詩織に変な真似したらいくら伍樹でも容赦しないから」
そして俺の目を見て「このリズムで叩いてね」と、指定テンポの二倍早いメトロノームを静かに置いた。
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