第2話
体育館には私と疾風と竜が残る。
「ごめんね、私が椅子の数、間違えたから……」
一列目から間違えたせいで、全部の列を直さなくてはいけなくなった。
「桜も義旭もひどいな……」
竜はそう言いながら椅子を片付けていく。
「自分達の恋人が最優先ってわけか」
そう言いながらも竜は笑っていた。
「ま、あいつらが自分の仕事しかしないのは今に始まったことじゃないか」
そして私のことを見る。
「梨沙だけだよなー。俺を労ってくれるのは」
……この仕事は正直、全部私の責任だけどね。
竜と私は高一の時から付き合ってる。
桜も入れた三人でそれなりに楽しくやってきた。
いつだって完璧な竜と桜に比べて、私は凡人だったけど、それでも私はこの三年間、仲良く楽しく生徒会をやってきた。
「にしても桜は本当に素早く的確に仕事するなぁ」
竜が紅白幕を見て言う。
「文句言いながらも、仕事はちゃんとやるもんね」
私は椅子をしまいながら竜に言った。
「梨沙と違って?」
竜の言葉に疾風が少し笑う。
「……はやて?何が可笑しいの?」
私が聞いたら慌てて首を振る。
そして何を思ったか鞄を持つ。
「俺、帰ります。椅子、大体片付いたし。
明日頑張ってください!」
パタパタと出ていく疾風。
竜は頭をかいて少し笑った。
「気、遣ったのかな?」
「……気、遣うって?」
そしたら竜が最後の椅子を片付けた。
「俺達、いま二人っきりでしょ?」
校庭では卒業式前日にも関わらず、サッカー部と野球部が練習していた。
その声がすごく、遠く聞こえる。
竜が椅子に座って息をついた。
「疲れたー」
そう言いながら私の手を掴み、強引に椅子に座らせる。
「少し休もっか」
そんなに強く手を握られたら座らざるをえない。
「明日、答辞読むんでしょ?」
「そう、そう」
鞄から綺麗な白い封筒を出す。
「緊張するな」
ちっとも緊張してないくせに、わざと嫌みったらしく私に言ってくる。
「体育祭の梨沙みたく、噛んだらどーしよ」
「……悪かったね、カミカミで」
竜は本当にすごい男だ。
学校の成績は三年間、常に一番。
全国模試では30位以内。
弱かったハンド部も、竜がキャプテンになったらベスト8入っちゃった。
イケメン決定戦は三年連続入賞したし、多分、明日は何枚も賞状もらうだろうね。
何回も思ったよ?何で竜は私なのかなって。
何なら言われたこともある。
梨沙ちゃんと竜くんってつりあわないよー、って。
桜とかがよく庇ってくれたけど、誰よりも自覚してる。
それでも好きだから、三年間付き合ってきた。
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