第三十七話 永久からの手紙

私のことを言えないような簡潔にまとまった文を見て周りの女房たちはキャーキャーと湧く。

なんということだろう。これから右大臣家を潰しにかかるぞというときに、永久からの手紙だ。それにこれ…もしかしてデートなんじゃ…。

いやいや、きっと何か外せない用事があるんだろう。私は自分が勝手に期待してがっかりしないようにそう言い聞かせる。


「御息所様に…。」


「御息所様には私が伝えますので私に聞きなさい。」


さすが、御息所を熟知している秋葉は私の恋愛事情を彼女に聞かせないようにしようとしているんだ。

確かに、あの世話焼きだけど恋愛に疎すぎる御息所ならおしゃれとは真逆に行くアドバイスをしてきそうだ。


「毒の君の夫はどんな方なんですか?」


女房の一人に聞かれて、永久のことを想像してみる。


「夫は…優しいですけどあんまり私の気持ちをわかっていなくて…多分今回の誘いも事務的ななにかだと思います。」


「まぁ…。毒の君は旦那様を愛しておられるのに?」


「えっ!?」


「もしかして隠しておられるつもりでした?そんなに口角が上がっているのに。」


言われて初めて自分がニヤニヤしているのに気付く。

永久に誘われただけでこんなに笑顔になるって私かなり重症なのかな…。

秋葉がそろそろ仕事に戻るよう伝えると私たちは各自の仕事場に戻る。それにしても、永久は本当にどうして急にこんな手紙を送ってきたんだろう。よくわからないながらも返事を書かないといけない。

筆を持つと空いている日を書いていく。と言っても、秋葉が調整してくれるだろうからいつでもと書くだけなんだけど。


「夕顔様がうつつを抜かすということは私の仕事が倍増するということなんですけど…まだ一緒に出かけるのは先なんだから手を動かしてください。」


目の前から厳しい命令が飛んできてすぐに返歌を書いていく。御息所の女房は殆どが未婚者だから、本当に女子校に似ている。女子校で彼氏ができてから浮かれ過ぎたらハブられる原因になるから気をつけないと。



日にちは案外早くに決まって、私は御息所の屋敷前で待つことになってるんだけど…。


「毒の君ったら容姿については何も言わなかったからわからないのよね。」


「ならお顔はそんなに…ってことかしら。」


「確かに、性格いいとか最終手段ですものね。」


後ろの見過ごしにとっても失礼な会話が聞こえてくる。

自慢じゃないけど、永久はかなりかっこいいほうだと思う。それに永久からはいい香りがする。皆さんは永久に抱きしめられたことがないから知らないだろうけど。


「…夕顔、待ったか?」


「あ…いま来たところ。」


すごい…。本当にこんな事言う日が来るなんてちっとも考えていなかった。


「ねぇ…毒の君の旦那様滅茶苦茶かっこよくない?」


「そうね…それに体も結構鍛えてらっしゃるし…。」


「アレは食べ頃ねぇ…。」


普段男と接することがない女房たちから良からぬ会話が聞こえてくるしここは牽制しておいたほうが良いか。


「永久、早く行こ!」


いつもより元気そうに言うと私は永久の腕に抱きつく。

そういえば会ってすぐくらいのときも永久の腕に抱きついたっけ…。あのときはかなり嫌がられたけど…。


「…あぁ、行くぞ。」


永久はちょっとだけ頬を染めながらぶっきらぼうに言うと、そのまま一緒に歩いてくれる。

後ろからは声にならない悲鳴が聞こえた気がする。きっとこれで私の夫に手を出そうとはしないだろう。

私は牛車に乗ると永久から腕を離す。

だって、永久は恥ずかしがってるだけで、私のことを好きではないんだから…。

永久は腕を数秒見るとぷいっとそっぽを向いてしまう。だけど、その後また私の目を見てくれる。


「夕顔、ちょっと遅いけど…誕生日のお祝いをしたい。」


「誕生日って…私の?」


「他にいないだろ。」


永久が…私のために?


「あんまり…夕顔がはしゃいでるとこ見たこと無いから…今日は市場に行こうと思ってな。」


平安時代の市場なんてなかなか行けるところじゃないから思わず胸が高鳴ってしまう。

永久によると、東市と西市の二つがあってどちらも日用品とか食品を売っているらしい。

農民から貴族まで幅広い層が買いに来るらしいから、かなりの人に見られるんだろうなぁ…。

そう思うとちょっと恥ずかしい気もするけどまぁ良いか。

そんなしょうもないことを考えていると牛車が止まる。どうやら市場についたらしい。

永久は先に降りて私のことを待っててくれていた。


「じゃあ、行くぞ。」


永久がそう言うと私たちは人混みの中に入っていった。


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体調不良のため数日間更新が止まると思います

ご理解の程誠によろしくお願いします

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