第二十八話 女の子だってドキドキする

夜、結局抱き枕にされて一緒に布団に入っている。

一緒に寝ることを拒もうとはしたんだけど、あんなキュルキュルした瞳でやっぱり俺のこと嫌いなのかとか聞かれたら断れるわけ無いだろう…。

…スー…スー。

永久の寝息が心地よく響き渡る。私は永久の方を見てみた。永久の寝顔は…驚くほどに綺麗で思わず触ってみたくなる。そんな欲求を何とか抑えつけてちょっとだけ近付くと永久の甘い香りが鼻をくすぐる。それに永久って結構鍛えてるから体が…。

駄目だ。今私ただの変態だと思う。

でもさぁ…考えてもみてよ。目の前で寝ているのは私の好きな人なんだよ。

よく男の子が女の子の寝顔でドキドキするシーンが漫画とかであるけど女の子だって一緒なんだからね。結局は私しか知らない好きな人の姿ってのにキュンときてるんだから…。

永久が寝返りを打ってしまって私は背中を見ることしか出来なくなった。


「永久…好き。」


いつかこの言葉を面と向かって堂々と言える日が来るんだろうか。

私は布団に潜るようにして入ると目を瞑って眠ろうとする。


「……!」


大好きな彼が目を見開いて顔を真っ赤にしてることなんてもちろん気付かずに。



「おはよう…って永久?どうしたの?」


何でだろう。いつもは寝ぼけてまだ布団にしがみついているはずの永久がいない。


「右近、永久は?」


「永久様ならあちらに…。」


右近が指す方向を見ると永久がボーっとしながら庭を見ている。


「永久、おはよう。」


「っゆっ夕顔…そのっ…おはっ…。」


「ごめん、ちゃんと喋ってもらって良い?」


「…おはよう…。…昨日のは夢だったのかよ…。」


「えっ、なんて?」


「あーぁ、おはようって言っただけだよ!」


なぜだか大きな声で言って不貞腐れてるけどその顔は心無しか赤く染まっている。なにかいいことがあったのだろうか。


「永久…。」


「姫様!何ボケっとしてるんですか!」


永久に何があったのか聞こうとすると即行で邪魔が入る。でもいつも怖い右近が今日は一段と怖い顔をしているからきっと何かあったに違いない。右近に怒られそうなことは…いっぱいありすぎてどれかわからないや。


「今日は私何をやらかしたの?」


「はい?珍しく今日は特に何もやらかしていませんよ。そうじゃなくて年末なんだから色々とやることがあるんですよ!」


「やることって…そばを食べること…?」


「そばが食べたいなら作りますから今はそんな馬鹿みたいな事言ってる暇ありませんよ。」


この時代には年越しそばの習慣がないらしい。でも年末って年越しそば抜いたら何も残らないんじゃないの?


「まずは大祓をしましょう。」


「大祓?」


「大祓って紙で作った人形に自分の穢れを移して川に流す行事だろ?」


聞き馴染みのない言葉に私がきょとんとしていると代わりに永久が答えてくれる。


「それって重要なの?」


「何言ってるんですか!?日頃の行いがよろしく無い姫様には大切極まりない行事ですよ!わかったらさっさと準備をする!…よろしければ永久様もご一緒にどうですか?」


「永久はしないでしょ。」


「いやっ、俺もする。」


永久がいつになく張り切っているのにちょっとびっくりする。それに、張り切ってる永久がかなり可愛い…。


「…姫様…今絶対に気持ち悪いこと考えてたでしょ。」


ちょっと、永久を可愛いと思うことを気持ち悪いことにしないでほしいんだけど。


「別に何も考えてないわよ。それで最初に何するの?」


「そうですね…まずは人形を作りましょうか。」


そう言うと右近は紙と刃物を持ってくる。

なるほど、これを人形の形に切るわけだ。やっと要領を得て二人と一緒に人形を作る。こういうときに性格が出るというのは本当なのだろう。

几帳面な右近は端まで丁寧に作っている。永久は一見適当に見えるけど、意外と左右対称とかを意識している。私はといえば…。


「姫様の人形って形は合ってるのに何かガサツですよね。」


「端っことか大雑把にしてないか?」


ひどい言われようである。確かに点数を取れるようにって思って、要所要所を抑えとけば良いだろってスタンスで今までやって来たけどさ…。

そんなに言われたら夕顔ちゃん泣きたくなっちゃうよ。

三人三様の人形ができたら私たちは人形を持って自分の体を隅々まで撫でる。特に今痛いところとかを撫でると良いらしい。

あんまりそういうのは信じていないけど、たまにはこういう日本人らしい文化をするのも大切な気もする。

最後に三回息を吹きかけると完成で、これで自分の穢れが完全に人形に移ったらしい。


「じゃあ川に流しに行きましょう。」


右近はノリノリで出発する。

私もついて行こうとすると急に永久に腕を掴まれた。


「何?」


「…手、寒いだろ。」


そうぶっきらぼうに言うと彼は昨日のように手を絡ませて繋いでくれる。暖かくしてくれるのは嬉しいけど、これはかなり恥ずかしいんだけど…。

でも不思議なもので、今私は自分の夫を世間に自慢できるって嬉しくも思っている。私はぎゅっと握り返すと一緒に右近の後を歩く。幸いにも右近はルンルンで後ろを振り返ることをしない。

でも何でこんなに優しいんだろう。いや、今まであんまり意識してなかっただけで永久はいつも優しかったなぁ…。


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ご愛読ありがとうございます!

ここまで呼んでくれた人いるのかな…?


今回は少し聞き馴染みがないかもしれない”大祓”について解説したいと思います。

大祓とは、平安時代から続く年末の伝統行事で、現代では茅の輪くぐりが有名ですが、昔は人形を流すのが主流だったそうです。

年に二回行われて、罪や穢れを落とすのが目的だそうです。

みなさんも今年の大晦日にやってみてはいかがでしょう?


時々こんな豆知識(?)も入れますので楽しんでいただけると嬉しいです!


引き続き頑張りますので、応援やフォロー、☆をお待ちしております!

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