第二十一話 鏡のからくり
「キャッ!」
「どうした!?」
「ごめん…鏡があったから。」
ここに来て久しぶりに鏡を見た気がする。五十日以上も見ていないと、久しぶりに鮮明に映る姿に驚いてしまった。それに体をじっくり見るのは初めてだけど…これはなかなかにかわいいなぁ…。
もともと自分の容姿に特別劣等感を抱いていたわけではないけど、こうもかわいいと昔の自分に戻りたいとは思わなくなってしまう。
というかそんなことはどうでも良い。当たり前のように置かれていて気付かなかったけど、そこにはかなり大きな鏡があった。
この時代に鏡があったのは知っていたけど、こうも大きいのは初めて見る。
「この鏡はいつ頃からあったのですか?」
御息所に聞くと懐かしそうに鏡を撫でて言う。
「これも東宮に献上されたものだ。うちにもあっただろう、大陸から渡されたものが。」
ということは同時期。つまり東宮の死一週間前に渡されたものだ。
もしかして…、私は今まで偶然献上された壺に呪詛符を入れたと思っていたけど…。
もし、献上されたものまで考え尽くされていたら?
それにこの鏡、何か違和感がある…。
私は何かがガッチリと合わさりそうな予感がして心拍数が上がってくる。
だけどどうして鏡を送った?鏡に何の意味が…?それにあの壺もそうだ。ただ単にきれいな壺という印象しかなかったけど、あれにもなにか意味が込められているのか?
「これは…。」
御息所の言葉に私は振り返る。御息所はじっと石の箱を見つめている。
「もともとなかったものなのですか?」
永久が怪訝そうに聞くと御息所は首を振る。
「何度か見ていたのだが、そのたびにいつか見せると言ってはぐらかされてきたんだ。」
おそらく、それを隠していたものが焼けてあらわになったんだろう。
御息所は恐る恐る石箱を開けようとする。
「…!」
でも石箱は押しても引いても開かない。代わりに永久がやっても開かないということは火事の時に開かなくなってしまったのだろうか?
それともからくりで開くようになっているのか?
さっきまでの何か繋がりそうな感覚とは全く違う、こんがらがっていく感覚がまとわりつく。
とにかく今わかっていることは東宮が御息所になにか見せたくないものがあったということだ。それが何なのかはわからないけど、多分”月隠れ”は自分たちにとって不利になるものを発見したから燃やしたんだろう。証拠が何も残らないように。
他に残っているものは…。後は陶器類か…。
「夕顔、これも東宮が同時期に献上されたものだが…。」
御息所が一つの香炉を指差す。そういえばこの前匂いを使って味を誤魔化していたと言った。もしそうならこれが?
私はじっくりと香炉を見る。
日本のつくりとは違うからこれも大陸からの贈り物だろう。
綺麗な表面の四方に透明なガラスが付いている。きっと光を浴びたらきれいに輝くんだろう。
ガラス?私はそっとガラスを覗き込む。いや、これはガラスなんかじゃない。もし、ここにちょっと細工をしておけば、火事なんて簡単に起こせるかもしれない…。いや、でもそこまでどうやって…。
私はハッとして鏡を見る。
鏡と香炉が同時に渡された理由。鏡と香炉の配置。どうして夕方にこの事件が起きたのか。そしてそんな事ができるのは一人しかいないことが一気につながっていく。
「御息所様、永久。事件のからくりが分かりましたよ。」
私はそっと微笑みながら二人に伝えた。
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