第十九話 信じられない悪習

「火事だ!」


「前東宮様のところからよ!!」


周りがざわついていて、しかも混雑しているからなかなか進めない。

私と秋葉は御息所みやすんどころの命令で消火作業を手伝いに行くことにした。というより自分から行くと言って聞かない御息所を二人で落ち着かせたと言ったほうが正しいのだけど…。


「秋葉様…。これは一体?」


「やっぱり…いつになってもここは変わらないのですね…。」


消火活動を進めている中に参加すると思っていたのに、実際に行ってみればみんな見ているだけで誰一人として水をかけていない。多分そのせいでこんな大規模な火事になっているんだと思う。


「どうしてですか?近くに池があるのに…。」


「昔御息所様もおっしゃいましたよ…。ただ宮中、特に東宮様の住居ともなれば神聖なところとされて汚れた池の水をかけることは許されないんです。頑張って井戸から水を汲みに行くんです。」


「そんな馬鹿な…。」


「ついでに言えばたとえ誰かを助けるためでも、許可なく庶民が宮中に入ったら罰を受けます。」


もはや呆れて声が出ない。秋葉もバカバカしいと思っているらしく、二人で池から水を汲みに行く。

時々悪習というのがあるけど、ここまで行くと清々しささえある。


「何をしているんだ。さっさと池から水を汲め!」


どこかで聞いたことのある声なのだけどなんでいるんだろう。私と秋葉は顔を合わせて同時にため息を付く。


「御息所様。危険だからお屋敷にとあれほど…。」


「過去の私の住居が燃えているんだ。今は違うくても心はまだここの女主人なんだ。」


こう言ったらこの人はきっと貫き通す。それが良いところでもあり悪いところでもあるんだけど…。

でもしょうがない。来てしまったからには手伝ってもらおう。


「じゃあ御息所様は周りの人の避難と池から水を汲む呼びかけをお願いします。」


「任せろ。秋葉と夕顔はひたすら水で火を消せ。取り敢えず広がることだけは食い止めろ。」


「「はい!!!」」


でも火を止めると言ったってこの人数では限界がある、と思ったら六条邸女房が全員集合しているではないか。


「言ってくれないなんて水臭いわ!」


「私たちにもなにか手伝わせてくれても良いじゃない。」


全員青春している感じのキラキラした姿で、何だか下手なヒーロー物を見ている気分だ。ただ数が増えれば消火作業も速くなる。

私たちはかつて無いほどの団結力を見せて消火作業と決着を付けた。御息所の呪わんばかりの剣幕に、逃げ惑っていた人たちも消火作業を手伝ってくれたことが一番の理由だろう。


「みんなよくやった。明日は褒美を期待していてくれ。」


人一倍頑張って、姫なのに声がかれてしまっている御息所に言われてしまっては萎縮いしゅくしてしまう。

取り敢えずボヤ騒ぎはこれで解決…というわけにはいかなそうだ。

夕方に、誰も使っていないはずの旧東宮の部屋から発火した。これで事件性がないと言えるほうがどうかしている。

御息所もそう思っているらしく、帰るとすぐに呼び出された。


「この火事、お前はどう見る?」


「…。」


正直、まだ確証はしていないけどこの前の東宮殺害事件と同じ犯人のような気がする。つまり裏で操っているのは"月隠れ"。


「…旧東宮様のお部屋が狙われた時点で決めるのは早いかもしれませんが、私は先日の事件と同一犯だと思います。」


「…なぜだ?」


「誰もいない部屋ということで人為的に行われたことは確定しているわけですが…。やはり一番の理由は身分ですかね。」


「…なるほど。確かに東宮の生死に関われるほどの身分は限られてくるな。」


「だからこそ面倒ですね…。こちらが言っても有力な証拠を掴まない限り罪に問われることはありませんし、何なら証拠を掴んでも不可能かもしれません。」


証拠があっても身分的に高い方が結局は発言権を得る。だとしたら圧倒的な証拠を掴んで相手がなにか言う前に大多数をこちらの味方にする。それ以外無い。


「よし。明日からまた宮中へ行って調べてこい。」


「はい!?」


いくらなんでも二回目は嫌なんですけど。だけど御息所はまるで聞こうとせずに早速紹介状を書いてくれている。

ここまでしているのに出来ないなんて言い辛いじゃないか。

すると私の顔がよほど嫌そうだったのだろう。御息所が困ったように笑いかけてくる。


「そんな嫌そうにするな。私も時々見に行くから。」


あっ、多分これほぼ毎日来るやつだ。でもそっちの方がかえって良いのかもしれない。御息所は私への気遣いと言うより好奇心で目を輝かせている。確かに知り合いがいたら気楽だけど…。

ふと頭に永久がよぎる。

どうして急にあいつが出てきたのかわからないけど、確かにあいつがいたら気楽な気が…、いや今のアイツに会うのは危険だと本能が叫んでいる。


「分かりました。でも何が見つかるかもわかりませんし、何も見つけれない可能性もありますよ。」


「そんなの十分わかっている。でも気になるではないか。往来の激しい夕暮れ時にどうやって火を付けたのか。」


結局そこなんだなぁと思いながらも、私は次の事件解決のためによく寝ることにした。


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十九話ご愛読いただきありがとうございます!


いやいや、流石にこんな事無いと思ったそこのあなた!

こちらもそう思っていたのですが調べてみると案外出てきますね…。


皆さんは近くで火事が起きたときには”おはしも”を徹底して、消防署にすぐに連絡しましょう!


引き続き頑張っていきますので、応援やフォロー、☆お待ちしております♪

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