第十話 呪詛
仕事場に戻ると私は男たちの手紙を見ていた。
みんな歯の浮くような甘い文句を並べているけれど私が持っているということは残念
ながら
ただちょっと気になることがある。
光源氏の手紙が無いことだ。いつ手紙を出していつから通うようになったのか、そう
いう具体的なことが御息所に関しては書いていない。
考えられることは二つ、一つ目はまだ届いていないこと。もう一つは御息所がちゃん
とした返歌を返したということだ。
もし返歌を返したなら厄介なことが待っている。まず、葵の上がすでに正妻として結
婚していたということ。
この前永久をおすすめできると思っていたけど、実際にはもう結婚しているけど、通
いがなさすぎてあまり知られていないというのが現状だ。
となると御息所は自分が正妻になると思って返歌を書いている可能性が極めて高い。
そして自分が最終的に捨てられるということを知ったらきっととてつもなく憤るだろ
う。それこそ誰かを殺してしまうほどに。
今から考えて夕顔死亡は残り3年ほど。この三年の間に光源氏と御息所を遠ざけるか
逆に
私は深い溜め息をつくと廊下に出る。
この屋敷はとてつもなく広い。そして丁寧に手入れされた庭は御息所がいかに気位の
高い女性であるかが読み取れる。
「毒の君?」
「あっ、お呼びでしょうか?」
急に女房長に呼ばれてビクッとする。
「他の仕事も頼みたいのですが…いま暇ですか?」
「はい。お役に立てることならどんなことでもさせていただきます。」
仕事を頼まれるということは使えないとは思われなかったようだ。一旦その事に
すると私は女房長の後ろについていく。
人影が少なくなった奥の部屋につくと女房長は一つの壺を私に見せた。
「これは…。」
「開けてみなさい。」
言われたとおりに開けると私は壺を落としそうになった。そういうものが実際に使わ
れていたと知っていてもいざ見てみると不快極まりない。
そこには亡き東宮に対する
「どうしてこれを私に?」
「毒の君ならこの呪詛の主がわかるのではないかと思ったのですが…。」
最初から絶大な信頼…というわけではないのだろう。
この高貴な身分の多く集まる六条邸で最も身分が低いのが私だから、いざとなったら
トカゲの尻尾として切るに決まっている。
なら全力でこの犯人を解明しなければいけない。
「わかりました…。ところでこの壺がいつからあるのかご存知ですか?」
「あぁ…生前東宮様が御息所様にお送りになったものです。何でも大陸からのもの何
だそうで…。」
ということは呪詛が入れられたのはここに来てからのこと。つまり犯人は六条邸を出
入りしたものに限られる。
「これをいただいたのはいつ頃の話でしょうか?」
「確かお亡くなりになる少し前、一週間ほど前のことだったと思います。」
ということは期間は一週間。一週間でここを出入りした者を洗い出すのはほぼ不可能
だろう。なら別の方向から攻めるしか無い。
「では、東宮様がお亡くなりになったときに近くにいらっしゃた方は誰でしょう
か?」
「それは…。それは御息所様よ。」
御息所が最後に近くにいた存在、東宮の死ぬ時の様子を知っている存在なのか。
呪詛なんて聞かないことが当たり前だからその呪詛が一週間の間で効力を発揮したと
いうのなら意図的なものと考えたほうが辻褄が合う。
だとしたら東宮の死因に不自然な点があった際の犯人が呪詛の主と関係している可能
性は極めて高い。
「御息所様とお話させてください。」
私は迷わず言っていた。御息所が精神的に病んでいるのはわかっている。私が御息所
と接触するのが危険なことも十分にわかっている。だけどこのままでは死んだ東宮と
御息所が報われなさすぎる。
私の決心が女房長に伝わったのか、私は六条邸の女主人、六条の御息所と一対一で話
す場を設けてもらえることになった。
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おかげさまで十話まで来ました!
引き続きご愛読していただけるよう精進してまいりますので、
フォロー、応援、評価お願いします!
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