第九話 毒の君
「
「しかもこんなときに出仕だなんて…。」
「きっとコネで入った無能よ。」
ヒソヒソと聞こえる悪口をガン無視して六条殿を進む。
こっちは女子校で3年以上暮らしてたんだ。今更女同士のマウント勝負なんてどうっ
てこと無い。
それにいくら悪口を言っていても、裏に左大臣家がいることを知っているならよっぽ
どのことはしてこないだろう。
「今日からお仕えいたします夕顔にございます。」
女房の長っぽい人に挨拶をすると大体のことを説明された。ここでの私の仕事は書物
の整理、返歌の代筆らしい。
どうして私に代筆仕事がと思っていたけれど、永久が絶対に冷める返歌の書き主と太
鼓判を押してくれたらしく、来た歌の中で断るもの専門となった。
そして最後の注意事項が六条殿の中央部、
とのことだ。
早速仕事場に行くとまさかの一人ぼっち。おそらくみんな東宮の死による生活の変
化の方に大忙しなのだろう。
東宮の死の
がどんよりしている。
だけど喪服で良かった。あのとき袖を通したあと私はその重さに耐えきれない自信が
あったからまだ軽い喪服のほうがずっと楽だ。
今のところ返すべき歌は…。
流石に喪に服している東宮の未亡人に歌なんて殆ど来ていないと思っていたのだけれ
どこれはかなりある。どうせ完全に断るために配置された職業なのだからまともに返
す必要もないだろう。
だけどこの世界にはパソコンがないからコピーペーストは出来ない。
なら…。
私は墨をたっぷりつけて適当な紙三枚くらいを重ねて返歌を書く。
面倒くさ 面倒くさったら 面倒くさ いらない返歌の 写し作業
うん、初めてにしてはなかなかの出来だ。
予想通り裏写りもしていて三枚が一気に完成。この調子なら五枚も余裕かもしれな
い。
そんな要領でやれば十枚ほどあった手紙も数分で片がつく。
「出来ました。」
女房長にチェックを依頼すると驚いた顔をされた。
「もう出来たのですか!?…いや、肝心なのは中身ですよ。」
更に中身を見て
ワラと集まりだす。
「まぁ…。」
「こんなひどい歌は見たこと無いわ。」
「それになんて
「それに見て!こんなにかすれた手紙なかなかありませんわよ。」
一通り言いたいことを言うと彼女たちは私をカメムシを見る目で見てきた。
皆さん、言いたいことはわかるけど年頃の男子ははっきり言わないと勘違いします
よ。どこかのてんとう虫みたいに。
私の頭に服を脱ごうとしているてんとう虫が浮かんでくる。
「いやっ、素晴らしい。これならば御息所様にちょっかいを出す虫もいなくなるで
しょう。」
いや、逆にそんなに褒められるほど出来が良いものでもないのでフォローしなくて
も…。
「なるほど…そう言われると何だか人の心を捉える才を感じますわ。」
「人の心を
女房長からの褒め言葉によって私はカメムシから天才へと昇格したようだ。
「そうだ!悪い虫を撃退する天才だから…毒の君なんてどうです?」
「毒の君…。確かにそれ以外にありえませんわ!ねぇ…毒の君?」
「えっ…はぁ…はいじゃぁ、これからは毒の君とお呼びください…。」
悪意があってしているのか普通に言っているのかわからないけど一応この場である一
定の地位を獲得したわけだ。たぶん。
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