第八話 てんとう虫と決意
右近の手紙が功を成したのか、綺麗な衣が届いた。ついでに頼んでもいない天然記念
物も届いている。
「…夕顔。俺なしでは生きれないのか…。」
真っ赤な顔するくらいなら言わなければ良いのに。ハイハイと適当に受け流しながら
服を回収する。
「それで出仕はいつくらいに?」
「明日から行けるだろう。ただ六条の
「それは…私の身分的に?」
「いや、あっちの精神状態の問題だ。今は
い。」
「わかった。あと、ありがとう。こんな立派な衣。」
お世辞なんかじゃなく本当に素晴らしい衣だ。
ものなのだろう。
「礼なら左大臣様に言ってくれ。娘さんのお下がりだそうだ。」
左大臣の娘…
い。
「永久って何歳なの?」
「俺か?俺は十六だ。」
てことは葵の上とは同い年、永久が上手く出世すれば良い相手になるかもしれない。
同じく六条の御息所に殺される予定の葵は私にとって他人ではない。光源氏なんかじ
ゃなくて少しでも良い人をと思っているんだけど、やっぱり永久が良いんじゃないだ
ろうか。純度百パーセントのピュアさを誇るこいつはおすすめできる。
「それで…手紙のことなんだが、あれはお前が書いたのか?」
「そんなわけ無いでしょ。私が書いたのはこっち。」
私は右近に
見るような目で私を見てきた。
「これからも右近に代筆させろよ…。お前が書くと来る気が失せるから。」
「別に必要以上に来ていただく必要もないけど。」
「必要最低限も行きたくなくなる!」
なんてことを言うんだろう。私を抱きまくらに利用するくせにそんなことを言うん
だ。
でも必要最低限も来てもらわないほうが結果オーライな気もするなぁ…。
「おい、今悪巧みしてただろ。」
「何も考えてないよ。ただ抱き枕にするくせになぁって思っただけで。」
「抱き枕って…。まぁ抱き心地は良かったぞ。」
危ない危ない余計なことがバレかけた。
「で、今日はどうする?一緒に寝るか別か。」
十中八九別で寝るんだろうけど一応聞いてみた。すると意外なことに悩んでらっしゃ
る。
「夫婦で寝るのは普通…だけど夕顔と一緒はなぁ…。」
なんかすっごく失礼なこと言われた気がするけど聞こえなかったことにしよう。
「じゃあ私明日早いから先に寝るよ。」
私はさっさと寝床に入って眠気に包まれていった。
二回目だからとやかくは言わないけど、せめてもうちょっと優しく包んでほしい。私
は御息所ではなく永久に絞め殺される運命なのだろうか。
でも多少は良いこともある。まずこの寒い中永久の体温で温まる。ほかは…特に無い
かもしれない。だからあれか、てんとう虫が冬に種類問わずに集まるような…。
私の中で永久が天然記念物からてんとう虫となる。
てんとう虫がやっと離れると私は昨日までのことの振り返りをする。
まず私がここに来てから頭中将を追い払った。その後永久と即結婚…。でもって御息
所の下へ出仕するわけだけど…。多分左大臣家が上手く
とは頭中将にも伝わってるよなぁ…。
だけど今は人妻、
次に御息所の方だけど、正直ほとんど人格を掴めていない。ただここに来てからわか
ったことがもう一つある。
それは物の怪なんていないってことだ。大体の物の怪と騒がれることは
れていることだ。
お陰で我が家も物の怪屋敷とか言われてるみたいだけど…。
とにかく、これで夕顔が物の怪で死んだということがありえないことがわかった。多
分作中の葵の上は出産の際の疲労によるもので、夕顔は…なんとなく、何者かによる
陰謀、いわゆる他殺だと思っている。
今のところ一番有力なのが御息所だけど…。
でも今はそんな事考えている暇はない。それに今隣りにいるのは光源氏ではなくて永
久だ。
永久には、圧倒的な女性関係で問題を起こさない、起こせないという信頼がある。
私は意を決して衣に腕を通した。
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