第4話

綿菓子も綿菓子で相当混んでいた。


「こんなに世界は広いのに、どうして皆がこうも同じ場所に集まるかなー」



冴島が首を傾げて呟く。



「秀くんも、そう思わない?」



俺は何とも言えず曖昧に頷いた。



「秀くん、この前合コン行ったんだってね」



冴島の指摘にギクッとなる。



「なんで、それ……」


「だって女の子側の幹事、私の友達だもん」



そして俺の顔を見てまた笑う。



「誰もピンと来なかった?」


「いや、別に……」



そして恐ろしいことを言う。




「まだ元カノが好きか」




俺の思考が止まってしまった。



「……は?冴島、何言って-」


「彼女が欲しいとか口では言ってみるけど、本当は作る気なんてサラサラない」



綿菓子の列が少しだけ進む。


すると運悪く、斜め前に元カノの姿が。



「……かなえ」



無意識の内に名前を呟いていた。

冴島が俺の見ている方向を見る。



かなえと別れたのは5ヶ月くらい前。

本当に色々あって別れたけれど、俺は冴島の言う通り、かなえのことがまだ好きだった。



何度も忘れようとして、淳士に合コンをセッティングしてもらったり、女子と出かけたりしたけど、いつもかなえと比べて心が苦しくなっていた。



「……なぁ、冴島」



俺に気づくことなく、どこかへ消えるかなえの後ろ姿を見て聞いた。



「一度振ってしまっても、まだ好きな場合って、どうしたら良い?」



冴島に聞くのは筋違いな気はしたけど、学校の奴には恥ずかしくてとても言えない。



「まだ好きだなんて、未練がましくて、こんなのダサいよな」



冴島は綿菓子を買って俺のほうを向いた。


「秀くん。


この世界で人類が一番初めに喋った言葉は何だと思う?」



意味不明な質問に俺は思わず聞き返した。


「は?何だよ、それ。意味分かんねぇんだけど」



「意味なんてないよ」



冴島は袋を開けながら綿菓子をつまむ。



「意味なんて、ない。ただ気になる」



俺は少し考えて、だけどそんなの分かんない。



「思いつかねーよ」



すると冴島が笑って言う。



「私はね。『ちょーだい』だと思う」



冴島の笑顔に少し鳥肌が立った。



「……なんで?」



何だか少し不思議な感覚に陥った。



「だって、その言葉から全ては始まるんだよ」



不思議な感覚だけど心地好い気もした。



「このわたあめも、ちょーだいって言ってここにある訳だし。だからさ、秀くん」



俺に綿菓子をはい、と手渡す。




「欲しいときには言わなきゃいけないの」




差し出された綿菓子を断り、俺は冴島の言葉を考えた。



「だけど、冴島。

欲しくても貰えない時もあるだろ」


すると冴島は言う。


「その為の『ごめんなさい』だよ」



だけど、と冴島は続けた。



「人の願いは案外、叶うものだよ」




そして列からスグに淳士を見つけ「いずみー」と、駆け寄った。



「秀くんに襲われたー」


「はっ?!襲ってねーよ!」


冴島の嘘に言い返す。


「どちらかと言うと冴島がおそう側だろ」


淳士が俺達に甘酒を渡す。


「これ、さっき配られたから。良かったらどうだ?」



三つの紙コップを強引にもつ淳士は本当に良い奴だと思う。



「いえーい!あけおめー!」



冴島が乾杯するみたく甘酒を飲む。

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