第3話

と、これが今朝までの話。



「で?なんで冴島さえじまがいるんだよ?」



俺は神社までの道のりで不機嫌なまま聞いた。



「まさか昨日から、こいつが来ること決まってたんじゃねーだろーな?」



俺の質問に淳士は「それは違う!!」と、首と手を振った。


「いや、俺は今年、お前と初詣に行く奴いねーんじゃねーかなーって昨日電話したんだよ。


ほら、フクも彼女できたし、大澤も彼女いるだろ?


だから、どうかなーって。そしたら今朝こいつが-」


「朝の散歩から帰る途中、たまたま和泉に会ってさ。


秀くんと初詣行くとか超楽しそうなこと言うから無理矢理着いてきた」



笑顔で言う冴島は淳士の幼なじみで不思議な女だ。



フクの所属するバンドのライブに淳士が一度連れて来て、それ以来知り合いだが、初対面で言われたことは。



「秀くんだっけ?彼女と喧嘩でもしてるの?」



当時、本当に彼女とケンカ中だった俺はその言葉に何も返せなかった。


そしたら冴島は笑って俺の肩を叩いた。



「わかりやすっ!」



以来、この女は何かと俺に関わろうとしてくる。


文化祭に来ては俺を笑い、何かあればメールをよこし、体育祭の前の日には俺が好きなグラドルの水着写真を送ってきた。



……そもそもなんで俺があのグラドルを好きって知ってるのかも全く分からない。




しかし、11月の半ばアメリカに留学すると突然言い始めて、今はアメリカに暮らしているはずなのに。



「いつ日本にきた?」


「29日」


神社に入りながら答えてきた。



「やっぱり私、日本人だし?

一応、年末年始はこっちに帰ってくるんだ」



ニコッと笑った冴島を不覚にも可愛く感じた。



「そう、なのか」



いや、別に俺こいつのこと嫌いって訳じゃないけど。むしろ全然アリだけど。



だけど色々バレすぎて少し怖い。


初めて会った時には何も思ってなかったけど、少し親しくなって気付いたのは冴島は人の心を考える天才ってこと。



そのレベルは既に考えるなんてもんじゃない。



本を読むみたいにスラスラと俺の心を言い当てる。



「いずみー。私、わたあめ食べたい」



冴島が淳士の肩をペシペシ叩いた。


「はっ?!そんなの自分で買えよ!」


「散歩ついでに来たからお金そんなにない。

ここで遣ったら帰りの電車賃が消える」


「じゃあ、我慢しろよ!」



冴島はえー、と言いながら財布を覗いて綿菓子に向かった。


「しょうがない、自腹きるかあ」



……カネあんのかよ。



「秀くんも一緒に買わない?」



可愛く首を傾げて誘われ少しうろたえる俺を見て、淳士は参拝の行列を指す。



「俺、お参り並んどくから。冴島に着いてってくれよ」



淳士に背中を押され俺は列から外される。



「そいつ今日テンション上がってて、一人にしたら何するか分かんねぇから」



その淳士の言葉はいつもの淳士よりも、なんだか温かい感じがした。



「ほら、秀くん!早く行かなきゃ!」



冴島に腕を引かれ俺は慌てて後を追った。

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