第4話 幼なじみのお悩み
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんで僕はあんなことをぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
灯里に挑発されて数分が経ち、僕――相澤侑は後悔の念にかられ、机に突っ伏していた。
「あぁ、本当にひどかったよ。呆れて何も言えないね」
「だよな……」
隣の席に座っている友達――斉藤慎二に諭されて、余計に落ち込んでしまう。
「まさか天沢さんの口を塞ぐために割り込んで、ケンカをふっかけるなんて、好きな人にする行動とは思えないね」
「だよな……」
「わかってるなら、なんでこんなことしたの?」
「……」
慎二の的確な指摘に、言葉を失った。
全くもってその通りだ。
僕もどうしてこんなことをしてるのかわからない。
灯里とは幼稚園の時から付き合い、いわゆる幼なじみだ。
小さい頃はよく遊んでいた。家が近所ということもあり、常に一緒にいた。
だけど、中学校への進学する際に疎遠になってしまった。
理由は灯里の両親の借金だ。
親戚に引き取られた灯里は、離れた場所に引っ越してしまった。
それに伴い、一緒にいる機会がどんどん減っていき、気がつけば、話す機会すらほとんどなくなっていた。
だけど、一つだけ覚えていることがあった。
両親に捨てられても元気に振る舞っていた灯里が、人目のないところではいつも泣いていたことだ。
その姿を見て、ものすごく後悔した。
なんで僕は彼女を助けられなかったのか?
僕がしっかりしていれば、僕がもっと勉強していれば、灯里を助けられたかもしれない。
その時、灯里への恋心を自覚し、今度こそ彼女の力になると決めた。
塾にも通って、勉強も頑張って、将来は弁護士になって灯里を助ける。
そんな決意を滲ませていた。
なのに……なのに……
「あんた、もう少しマシにならないの?」
頭の中で過去を回想していると、先ほど灯里と話していたはずの天沢がそこにいた。
どうしてここにいるのかわからなかったが、灯里の方を見てみると席には誰もいなかった。
「どうして天沢さんがここに来るんだい? 侑は今、僕と話しているんだ。邪魔しないでくれるかな?」
「だったら斉藤くんがもう少しマシなアドバイスをしたらどう?」
「言うね……」
僕の目の前で天沢さんと慎二が見えない火花を散らしていた。
天沢さんはなぜか灯里に話しかけた後、決まって僕のところに来るのだ。
「どうして二人は仲が悪いんだ?」
これは常々思っていたが、こうやってケンカをするくらいなら来なければいいのでは?
「あんたのせいよ」
「え? 僕のせい?」
「あんたが不甲斐なさすぎて、いろいろ言いたくなるのよ。どうやったらあんなことができるのか、本当に知りたくてね」
「うっ……」
相澤は五のダメージを受けた。
「だからって、天沢さんが出る幕じゃないよ。侑だって色々悩んでいるんだ」
「慎二……」
「ま、そういうところが見てて飽きないんだけどね」
「……」
相澤は五のダメージを受けた。
「こっちは困るのよ。相澤がケンカをふっかけるたびに変な空気になるんだから、ちょっとは考えてくれない?」
「変な空気にしてるのは新垣さんでしょ? この前だって、腕相撲で勝負するとか、腕立て伏せで力つけるとか言い出してたよね?」
「そのせいで男子から変な目で見られるの! あいつ自覚はないけど胸が大きいの! だから腕立て伏せするたびに床に当たって見てるこっちまで恥ずかしくなるの!」
「それは新垣さんが勝手にやったことで、侑には関係ないでしょ?」
「関係ないですって? あの時も相澤がケンカをふっかけたからでしょうが! どこが関係ないわけ?」
二人の攻防はだんだんと激しさを増し、それに比例して僕へとダメージも増えていく。
「それもこれも、灯里に変な勝負ばかりふっかける相澤が悪いの! あんた、灯里のことが好きなんでしょ?」
「な、なぜそれを⁉」
「むしろなんでバレてないと思ったわけ? クラスのみんなが知ってるわよ」
「な! そうなのか!」
慎二の方を向くと、無言で頷いた。
まさか、そんな噂が広まっているとは……
「もしかして、灯里にバレてる? みたいな顔をしてるけど、そこは安心して。周りの人たちも本人には言ってないし、当の本人は気づいていないから」
「それって喜んでいいの?」
とりあえずの懸念は晴れたが……
「でも、だからって安心されると困るわけ。このままもたもたしてると誰かに取られちゃうわよ?」
「そ、それは……」
「こればっかりは天沢さんが正しいよ。侑にはその自覚がある?」
「うっ……」
そんなことはとっくの昔にわかっている。
最初はただの幼なじみとしか思っていなかった。
だけど、一人の女の子として認識したときから、灯里のかわいさに気づいてしまった。
それと同時に、割と人気が高いのにも気づいてしまった。
自分とは釣り合わない、自分とは遠い存在だなんて、そんなことは言われなくてもわかっている。
だけど、自分でもびっくりするほど、あと一歩が踏み出せない。それどころか、いざ本人を目の前にすると、謎の勝負をふっかけてしまって、告白どころの話ではなくなってしまう。
しかも、その勝負はなぜか引き受けられ、挙げ句の果てに、返り討ちにされる始末。
今のところ、かっこ悪い姿しか見せていなかった。
「ま、あんたがこのままでいいならいいけど」
「……一つ聞いていいか?」
「なに?」
「どうしてそこまで気にかけてくれるんだ?」
彼女にとって、僕を気にかけるメリットはないはずだ。
「……私はただ、灯里には幸せになってほしいだけよ」
「……そっか」
「ちなみに俺は、侑の幸せを願ってるよ」
「……さっきおもしろがってるって言ったのはどこのどいつだ?」
「てへぺろ」
「てへぺろじゃねぇよ!」
どこまでもふざけた友達たちだ。
でも、
「まぁでも、ありがとう。もう少し頑張ってみる」
「あぁ」
「えぇ」
なんだか気が楽になった。多少だけど、頑張る気持ちになったよ。
「あ。相談に乗ったからマックのポテト奢って。侑のお金で」
「右に同じ」
「……」
前言撤回だ。こいつら最悪の友達だ。
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