第45話 告白
俺は流れるように話し始めた。
「実は、この異世界に転移した時、女神様に会ったんだ……」
“…………?? 藪から棒に何を話してる?”
“キターーーーーー! これは、異世界転移・転生のテンプレじゃないか”
“本当に、女神さまに出会うものなんだ”
“愛の告白は……?”
「転移してきたときのお話?」
「今まで隠していたが、転移してきたときに、こんなことがあったんだ。
俺は気が付いたら、病院の診察室みたいなところで、女医のような女神様に会った」
「ジョイ?」
「そう、女医。自分は異世界召喚を司る女神だ、と言っていた」
「あなたの話は、これっぽっちも理解できません。少なくとも愛の告白というのは、リスナーさんの盛大な勘違いだったようね。
異世界召喚を司る女神? 何だかわかりませんけど、会えてよかったですわね。
その女神様は結局のところ、どうしてあなたを転移させたのかしらね?」
「そう! そこなんだよ、マリアン。それがな? その女神様が言うには、俺がこの異世界に転移したのは、女神の間違いだったって言うんだ」
「女神様の間違い……? あなたが私のいる世界に来たのは、神様の間違いだったというの?」
“なんだか、最悪なシナリオが思い浮かぶのだが”
“マリアンは、真実を受け止められないんじゃないか?”
「そ、そうでしたの……ね」
「違う人間を召喚するつもりが、座標の位置を間違えたとかで、俺になったんだと」
“やめろ、それ以上は聞きたくない”
「俺は、元居た世界に帰してくれと頼んだ。帰還する方法を説明してくれたんだけど……」
「何でそんなに楽しそうに話すの……?」
“なんで帰りたいんだよ。バカじゃね?”
“マリアンを目の前にしてよく言えるな”
“残酷……”
「それは、女神さまにも聞かれた。異世界に行けるのに、どうして帰りたいのかって。だって、俺の大好きなアニメの最終回が近かったし、推しのコンサートが当選してたから行きたかったし、その月のバイト代をまだもらっていなかったし」
“ヤバッ、モブの気持ちがわからんでもない。最終回は大事よ”
“ちなみに、推しって、何?”
「ヤキンノオワリだ」
“え? 当たったの? それ、なかなか当たらないよ”
“気持ちわかるわ。マリアンには悪いが”
“バカ! そうじゃないだろ。そんなことで帰るのかよ、だろ”
「なぜ、今になってその話をするんですの?」
「早く言いたかったんだけど、君は配信を楽しんでいるみたいだったからさ。渋ると思って、言い出せなかった。まさか、同じ考えをしていてくれたなんて思わなかった。」
俺は真っ赤な嘘をついた。
ここで俺が悪者になって、配信が終わる理由を全て俺に擦り付けてくれれば、リスナーさんはみんな、マリアンにつくだろう。
全身全霊で、マリアンを応援してくれる形で配信を終われる。
「えぇ……まぁ、そうね。わたくしへの話って、元の世界に戻るっていう話だったのね……」
“マリアン、かわいそう”
“モブ、最低”
「それを聞いて安心したよ。女神様によると、紙に描いてある通りに魔法陣を描いて、クリスタルを持って真ん中に立ち、呪文をとなえればいい、という話だ」
「ごめんなさい。元の世界に帰れる方法とか、どうでもいいわ。そもそも、自分でミスったくせに偉そうな女神様ですこと。まぁ神様だから偉いんですけど……」
「ところが、だ。あのドジな女神様が、またやらかしてさぁ」
俺は、わざと大げさに呆れたように言った。
「ふぅん、そう」
“マリアン、完全に興味なしだな”
“そりゃ、そうだ”
「女神様が、俺にクリスタルを手渡そうとした時……」
俺は頭を搔きながら、苦虫を嚙み潰したような顔を演じた。
「クリスタルが、女神様の手から滑って、雲の間から落ちてしまったんだぁーーー」
「へぇ、クリスタルが無ければ、元の世界に帰れないわよね。それは、よかった……じゃなくて残念でした」
「クリスタルは雲の上から、地上の高山へと落ちていった。そこにたまたまドラゴンがいて、大きくあくびをしているところだった」
“ベタな展開が思い浮かぶなぁ”
“これじゃ、帰れないってことか?”
「まさか、そのドラゴンの口の中に、クリスタルが落ちましたとか言うんじゃないわよね?」
「その、まさかだったんだ」
“これって、アニメか漫画の話か?”
“ベタすぎないか?”
“マリアン、話についていけてる?”
「……さすがに話についていけませんわ。彼はきっとギルドからの帰りに、疲労で倒れて頭を打ち、打ちどころが悪かったのかもしれないわ」
「魔法陣を描いた羊皮紙はここにある。あとは、ドラゴンを倒して、クリスタルを手に入れればいいんだ。女神様は言ったんだよ。自力で取りに行けと。
そして、俺にスキルを授けるところを、間違ってスマホに授けてしまった
と、いうわけなんだ」
俺は悔しそうに拳を握りしめて、演技を続けた。
「羊皮紙を出されたら、信じるしかありませんわね。それにしても、女神様はクリスタルを落としても知らん顔って、ひどくありません? 女神様のミスでクリスタルを落としたのに、責任は取ってくださらないの?」
“それくらい神の力でビューン、ヒョイ! って、何とかならなかったのか?”
“待て、スキルを間違ってスマホに授けたって言ってたぞ”
「話を最後まで聞いてくれ。女神様はもちろん謝ってくれた、……ような気がする。
だから、スマホに授けた【追尾】機能を使って、ドラゴンが住んでいる場所を見つけ出し、クリスタルを取りに行きなさいと」
「分かりました。あなたが最初から、ギルドへ行って冒険者登録したがったのも、体を鍛えて剣術を身に着けたのも、全ては、元居た世界に戻るためでしたのね。
わたくしのことはどうでもよろしいのね。あなたにとってのわたくしは、その程度でしたの?」
“そんなことはないと言え、モブ!”
“マリアン、モブがこっちに帰って来て、俺がそっちに行くから”
“入れ替わりを女神に頼まないとなw”
「……ところで、ドラゴンって強いのですか?」
“初めて、モンスターを討伐したばかりだもんな”
“マリアンが、他のモンスターの強さなんてわからないのは当然だよ”
「ああ、今まで俺が討伐した奴らよりも、何十倍もレベルは上だ。それこそゴブリンなんて比較にならない。かなりの強さになる」
「もし、ドラゴンにやられたら、死んでしまう……なんてことはありますか?」
「可能性は十分ある」
「そう……、それなら、その様子をスマホで配信させてください」
なんでそうなる!
俺の渾身のヘイト稼ぎを、マリアンは一瞬にしてぶち壊した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。
配信マネージャーのモブからお知らせがございます。
カクヨムでは、12月26日から1月20日まで『積読消化キャンペーン』をやってます。」
「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」
「知って腰を抜かすなよ、マリアン。
フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。
ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」
「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」
「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」
「あらん」
詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign
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