第44話 緊急配信

 使用人部屋で荷物をまとめると言ったって、俺にはもともと荷物がない。


タキシードを脱いでファミレスの制服に戻るだけだ。

ああ、こんなことになるんだったら、

ファミレスの制服じゃなくて、せめて学校の制服、いや普段着のパーカーでもいい、

もうちょっとまともな服で転移できなかったのか。

あの、女神ジョイめ。


とにかく、女神ジョイがやらかした失敗から、元の世界へ帰る方向で本腰を入れよう。

そのためには、マリアンやリスナーには真実を話したほうがいいだろう。




「おい、フットマン。セバスワルドさんが入り口に立っているんだけど、君に用事があるんじゃないか?」


ボーイのファーストとセカンドが、部屋の入口を指さした。


「なんだかよー、真剣な顔してタキシードを畳んでいるけど、まさか、仕事を辞めるんじゃないだろな」


「へへへ、ま、そんなところだ」


「マジかよ。そりゃ大変だ。早くセバスワルドさんの所へ行って、話を伺って来いよ」


 俺が使用人部屋を出ると、セバスワルドは無言でついて来なさいとでも言う風に歩き出した。

廊下から玄関ホールを回って、階段の下あたりに隠れるようにして立ち止まった。

さすが、この家での使用人歴が長いセバスワルド。

いろんな隠れ場所を知っている。


「旦那様からの伝言です。

『ジレーナの気持ちを汲んで、フットマンにもひと月の猶予を与える。その間に、住むところや仕事を探しなさい』

とのことです」


「今すぐ出て行かなくても、しばらくは置いていただけるんですか?」


「マリアンお嬢様も同じく、ひと月の準備期間があります。どこか住み込みで働ける宿屋など、わたくしも心当たりがある所はあたってみます。ですから、今は早まらないでください」


「ありがとうございます」


「それともうひとつ、マリアンお嬢様からの伝言です。

『モブさんがいなくなったら、もう配信が出来なくなるから、今すぐ配信したい』

ですが、わたくしから忠告します。お嬢様のお部屋に、モブさんが入ることはお控えください。せっかくの旦那様の配慮に対し、それは無礼に当たるかと思います」


俺は、考えた。

ちょうど俺もリスナーさんには伝えたいことがあったのだ。

しかし、マリアンの部屋で配信するのは、さすがにマズいだろう。


「そこで提案なのですが、よろしかったら、わたくしの部屋で配信してはいかがでしょう」


「セバスワルドの部屋?」


「かなり狭くて、地味な部屋ですが、外よりはマシかと」


「逆に、いいんですか? お邪魔して」


「一時間くらいでしたら」


「あ、あ、あ、ありがとうございます! 俺も、マリアンやリスナーさんに伝えたい事があるので、ぜひ、配信に使わせてください」


「では、ご案内いたします。マリアンお嬢様には、アルケナから連絡がいっているはずです」





 セバスワルドはかなり狭いと言っていたが、日本人の一人暮らしならこれくらいの広さなら普通という部屋だった。

比べる部屋が広いから、狭いと思うのだろう。

ボーイたち下僕からしたら、羨ましい限りだ。


マリアンはアルケナにメイクを直してもらっている。

その間に俺は、メッセージを入力。




“【緊急配信】マリアンと配信マネージャーから、重要なお知らせがあります”



「マリアン、いつも通りの明るい声で挨拶な。俺からもみんなに話があるから、声だけ参加させてくれ」


「モブさん、大丈夫ですわ。わたくしリスナーさんの前だと、元気百倍になりますの」


楽しそうに笑うマリアン。

無理していなければいいが。

俺は、配信スタートボタンをタップして、マリアンにキューサインを出した。



 「皆さま、ごきげんよう! ようこそ【マリアンの部屋】へ!」


配信開始と同時に、あっという間に同時接続者数がぐんと伸びていく。

あの初配信からすれば、考えられないほどにこのチャンネルは成長した。

マリアンはもう立派な人気配信者になっている。



“こんばんは! 一番乗りw”

“来たよー、マリアン”

“今日のモンスター討伐企画は、最高だった”

“あれ? いつもと背景が違うね”

“マリアンの部屋じゃないね。なんか質素な部屋”



「そう、そうなんですの。今日はわたくしの部屋じゃありませんの。え? 誰の部屋ですって? 言ってもよろしいのかしら……」


セバスワルドがうなずく。


「今日はちょっと事情がありまして、副執事の部屋からお送りしていまーす」


“【副執事の部屋】へようこそか……”

“……?? なんか、マリアン浮かない顔だな”

“緊急配信って、何かあったの?”

“マネージャーからのメッセージに、重要なお知らせとかかいてあったけ”

“まさか、もう配信できなくなったとかw”



「皆さん、鋭いですわねー」



“えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?”

“訳アリ発言じゃん!?”

“一体何があったの? 教えてよ”



マリアンは何をどう伝えたらいいのか迷っている様子で、無口になってしまった。

俺は、意を決して声に出した。


「マリアン、俺と会話形式でやらないか?」


「え?」


「つまり、普通に俺と会話しているのをそのまま配信しよう。それなら、マリアンだって話しやすいだろう」


「え、ええ」


「マリアンも、ここに居るスタッフも、そして、ご覧いただいている皆さんにも、俺から大事な話があるんだ」



“大事な話? ……もしかして告白!?”

“えーー! プロポーズなら聞きたくない!”

“マリアン、心の準備はいいか”



「なんですの? 急に改まって……変な人」


いざとなると、本当の事ってなかなかいい出せないものなんだな。

俺は、口をモゴモゴさせていた。


「もう!じれったいですわね!! あなたの考えてることくらいお見通しですのよ?バレてるのですから観念して話しなさいよ。もしかしたら、わたくしと同じ考えかもしれませんわよ?」


え?


「わたくしは、あなたの口から聞きたいんですの。そもそも女から言わせるなんてナンセンスですわ!」



“え? マジで告るの?”



俺と考えていることが同じだと?

なら、話は早い。


「本当か!? それはよかった!」


俺は流れるように話し始めた。


「実は、この異世界に転移した時、女神様に会ったんだ……」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。

配信マネージャーのモブからお知らせがございます。

カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」


「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」


「知って腰を抜かすなよ、マリアン。

フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。

ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」


「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」


「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」


「あらん」


詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign




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