第43話 ジレーナの爆弾発言
屋敷の中に入るとセバスワルドが早口で言ってきた。
「モブさん、執事のスチュワートに、ギルド帰りを見られていたかもしれません。今日の給仕はしないで、使用人部屋で休んでいてください」
「ギルドから帰ってきたところを見られたって? スチュワートさんにですか?
でも、副業していたのは事実だから、ここで隠してもしょうがないです。心配してくれて、どうもありがとうございます」
「モブさんの為に言っているのではありません。マリアンお嬢様の為に言っているのです」
「でも、お嬢様のたっての希望で行っただけなのに」
「それでも、貴族社会は、いろいろと面倒な事がたくさんあるのです」
俺と、セバスワルドが話していると、噂の執事のスチュワートがやってきた。
冷たい視線を俺に送りながら、
「マリアンお嬢様とフットマンの仲は、使用人たちの噂から知っておりましたが。
お屋敷から外出して、どちらに行っていたのですか? 副執事のセバスワルドが付いていれば問題はないと、思っていたのですが」
「申し訳ございません」
「異国の風習だか何だか知りませんが、お嬢様にこれ以上近づくのは、おやめください」
そこへ、ジレーナが現れた。
なんで、この最悪のタイミングを嗅ぎつけて登場するんだ、ジレーナは。
「お嬢様って? どっちのお嬢様かしら? わたくしでしたら、もっと近づいてきていいのよ、フットマン」
「ジレーナお嬢様!」
止めても、ジレーナお嬢様は続けた。
「スチュワート、いつも通りにフットマンに仕事をさせるように。ここから彼を外したら、わたくしが黙っていませんわよ」
「もちろんでございます。仕事を外すなんてことはいたしません」
ジレーナのお陰でこの場はなんとか助かった。
*
夕食の時間。
今日も親子三人で食卓を囲んでいた。
俺を見る執事と旦那様の目が、気のせいだろうかとても怖い。
「鶏肉のアーモンドミルク煮でございます」
俺は重苦しい空気の中、料理を運ぶ。
すると、オラエノ伯爵がついに口を開いた。
「食事の場で言うことではないと思うが、娘たちが揃っているからちょうどいい。
フットマン、君は度々屋敷を出ているようだが、別の仕事でもしているのかね」
来た。
副業がバレてる。
ここは潔く事実を認めよう。
裏でコソコソしていたのは事実だから。
すると、先にジレーナが口を開いた。
「お父様、フットマンは有能な方ですのよ。他からヘッドハンティングされても、必ずオラエノ家に戻ってきますの」
「ジレーナ、お前はフットマンが度々外出しているのを知っていたのか」
「フットマンは、外で剣術を教えたりしているようですわ。わたくしも剣術を教わりました。わたくしだけではありませんわ。ねえ、お姉さま」
ジレーナはマリアンに話を振った。
「え、ええ、わたくしも、フットマンから剣術を習っております」
「伯爵の令嬢が、剣術を? そのようなことは男がするものだ」
「嫌ですわ、お父様。剣術を習ったおかげで、お姉さまもわたくしも心と体が健康になりましたのに。ここでこうやって、家族そろって食卓を囲む日が再び訪れたのは、
剣術のお陰ですのよ」
「そうなのか。だが、娘たちに剣術を教えるだけなら、屋敷の中だけでできるだろう。何故、外出しなければならないのか、その答えを、わたしはまだ聞いていないぞ」
俺は観念して本当の事を言おうと口を開いた。
「それは……、ギルドへ」
ジレーナが、そこで口をはさんできた。
「あまりフットマンを責めないでくださる? お父様。お姉さまと一緒に馬車でお出かけしていて、きっと二人ともお疲れなのでしょう」
好意で言っているのか、悪意なのか。
判断できないんだよな、ジレーナの場合は。
ジレーナがすました顔で報告すると、マリアンは驚いてワインをこぼした。
「きゃ」
俺は、急いでナプキンでマリアンのドレスにこぼれたワインを拭き取り、
それからテーブルの汚れを拭き取った。
「仲がよろしゅうございますの、お姉さまとフットマンは。先ほどまで、どこまで行かれたんですか? わたくしもフットマンとご一緒したいわ」
「なんと、それは本当かマリアン!」
オラエノ伯爵は激高された。
ジレーナの意図がわからない。
味方なのか、敵なのか。
マリアンは悪びれることなく、伯爵に向かって言った。
「……本当です。何処かの誰かさんに見られたようですわね。この家には、コソコソと隠れてのぞき見するノラ猫でもいるのかしら」
「あら、反撃してくるなんて。だって、お姉さまったら堂々と中庭でフットマンと話しながら、歩いていたじゃありませんか。お姉さまから、フットマンを奪うくらいわたくしには簡単なのよ。あまり反撃して、あとで泣かないでね」
「ジレーナ、お前まで……開き直りか? マリアン、前に言ったはずだ。お前にだってまた縁談はくると。身分も違う、しかも異国の者との逢引きなど絶対に許さん!!
女は屋敷でおとなしくしていなさい」
「お父様にとって、良い縁談とは何ですか? オラエノ家の名誉を守るためだけの縁談でしたら、わたくし遠慮しますわ。自分の嫁ぎ先は自分で決めたいと思います」
「お姉さまってバカなの? ここは、素直に謝っておけば丸く収まるのよ。怒っているお父様に反抗するなんて、火に油を注ぐようなものじゃない。
お父様、おわかりになったでしょう。お姉さまの考えがそうであれば、フットマンはわたくしの世話係に……」
俺の取り合いか?
ジレーナの本心は、そこか。
「そうか、わかった」
「旦那様!」
「お父様!」
「そんなにこの家にいるのが嫌なら、出ていけばいい。お前をそんなふしだらな娘に育てたつもりはない。もうオラエノ家の娘とは思わん! 今すぐに荷物をまとめて、出ていきなさい。
それから、フットマン、君はクビだ」
今度はジレーナが慌てた。
「お父様、そうじゃなくて! フットマンをわたくしの世話係にしてください。
それから、お姉さまを追い出すまでしなくても、よろしいのでは……」
「ジレーナ、何をいっているんだ。この男が来てからだぞ。お前もマリアンもおかしくなっておる!」
「でも、いくらなんでも、今すぐ出て行けだなんて無理ですわ。お姉さまはトロいんですもの。ここはひと月くらい時間を差し上げませんと。」
「ジレーナ、お前は何て優しい子なんだ。こんなマリアンに情けをかけるとは……」
「ええ、ですからフットマンはこのまま家に置いても……」
「それは、ならぬ!」
「ジレーナ、お情けどうもありがとう。ちょうどよかったですわ。今までは、この家の評判を落とさないように、わたくしから出ていくことはしませんでしたが、お父様からそう言ってくださるなんて、感謝してもしきれません。これで安心して出ていけますわ」
おい、おい、出て行くのは俺だ。
マリアンが家を出る必要は無い。
「マリアン! いいかげんにしないか!」
「お姉さまもお父様も、わけがわからないわ。わたくしのせっかくの気遣いを無駄にして。誰がお父様をなだめると思ってるのかしら。お父様って面倒なんですのよ?」
ジレーナ、その発想が間違っているんだ。
もうこれ以上、引っ搔き回すな。
俺は、いい。どうせ居候なんだし。
マリアン、ここはなんとか穏便に解決できるように持って行ってくれ。
「では、家を出る段取りがありますので、わたくしはこの辺で失礼いたします」
おい、本気で家を出る気か。
「あ、そうそう。ジレーナ、言い忘れていたわ。フットマンはわたくしのものよ。あんたなんかに渡さないわ」
マリアンは、そう言い放ち食堂から出ていった。
俺はモノじゃねぇ。
しかし、こうなったら、俺も出て行くしかないな。
「旦那様、今まで大変お世話になりました。では、これで失礼いたします」
「ちょ、ちょっと、フットマン、違うでしょ。お父様、フットマンを止めて」
オラエノ伯爵は、やり切れない表情で執事に命じた。
「……、あとで、セバスワルドに話がある」
俺は使用人部屋へと戻った。
クビになってしまったものはしょうがない。
さてと、ここからどうするかだ。
俺は覚悟を決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。
配信マネージャーのモブからお知らせがございます。
カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」
「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」
「知って腰を抜かすなよ、マリアン。
フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。
ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」
「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」
「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」
「あらん」
詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign
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