第43話 ジレーナの爆弾発言

 屋敷の中に入るとセバスワルドが早口で言ってきた。


「モブさん、執事のスチュワートに、ギルド帰りを見られていたかもしれません。今日の給仕はしないで、使用人部屋で休んでいてください」


「ギルドから帰ってきたところを見られたって? スチュワートさんにですか?

でも、副業していたのは事実だから、ここで隠してもしょうがないです。心配してくれて、どうもありがとうございます」


「モブさんの為に言っているのではありません。マリアンお嬢様の為に言っているのです」


「でも、お嬢様のたっての希望で行っただけなのに」


「それでも、貴族社会は、いろいろと面倒な事がたくさんあるのです」


俺と、セバスワルドが話していると、噂の執事のスチュワートがやってきた。

冷たい視線を俺に送りながら、


「マリアンお嬢様とフットマンの仲は、使用人たちの噂から知っておりましたが。

お屋敷から外出して、どちらに行っていたのですか? 副執事のセバスワルドが付いていれば問題はないと、思っていたのですが」


「申し訳ございません」


「異国の風習だか何だか知りませんが、お嬢様にこれ以上近づくのは、おやめください」


そこへ、ジレーナが現れた。

なんで、この最悪のタイミングを嗅ぎつけて登場するんだ、ジレーナは。


「お嬢様って? どっちのお嬢様かしら? わたくしでしたら、もっと近づいてきていいのよ、フットマン」


「ジレーナお嬢様!」


止めても、ジレーナお嬢様は続けた。


「スチュワート、いつも通りにフットマンに仕事をさせるように。ここから彼を外したら、わたくしが黙っていませんわよ」


「もちろんでございます。仕事を外すなんてことはいたしません」


ジレーナのお陰でこの場はなんとか助かった。





 夕食の時間。

今日も親子三人で食卓を囲んでいた。

俺を見る執事と旦那様の目が、気のせいだろうかとても怖い。


「鶏肉のアーモンドミルク煮でございます」


俺は重苦しい空気の中、料理を運ぶ。

すると、オラエノ伯爵がついに口を開いた。


「食事の場で言うことではないと思うが、娘たちが揃っているからちょうどいい。

フットマン、君は度々屋敷を出ているようだが、別の仕事でもしているのかね」


来た。

副業がバレてる。

ここは潔く事実を認めよう。

裏でコソコソしていたのは事実だから。


すると、先にジレーナが口を開いた。


「お父様、フットマンは有能な方ですのよ。他からヘッドハンティングされても、必ずオラエノ家に戻ってきますの」


「ジレーナ、お前はフットマンが度々外出しているのを知っていたのか」


「フットマンは、外で剣術を教えたりしているようですわ。わたくしも剣術を教わりました。わたくしだけではありませんわ。ねえ、お姉さま」


ジレーナはマリアンに話を振った。


「え、ええ、わたくしも、フットマンから剣術を習っております」


「伯爵の令嬢が、剣術を? そのようなことは男がするものだ」


「嫌ですわ、お父様。剣術を習ったおかげで、お姉さまもわたくしも心と体が健康になりましたのに。ここでこうやって、家族そろって食卓を囲む日が再び訪れたのは、

剣術のお陰ですのよ」


「そうなのか。だが、娘たちに剣術を教えるだけなら、屋敷の中だけでできるだろう。何故、外出しなければならないのか、その答えを、わたしはまだ聞いていないぞ」


俺は観念して本当の事を言おうと口を開いた。


「それは……、ギルドへ」


ジレーナが、そこで口をはさんできた。


「あまりフットマンを責めないでくださる? お父様。お姉さまと一緒に馬車でお出かけしていて、きっと二人ともお疲れなのでしょう」


好意で言っているのか、悪意なのか。

判断できないんだよな、ジレーナの場合は。


ジレーナがすました顔で報告すると、マリアンは驚いてワインをこぼした。


「きゃ」


俺は、急いでナプキンでマリアンのドレスにこぼれたワインを拭き取り、

それからテーブルの汚れを拭き取った。


「仲がよろしゅうございますの、お姉さまとフットマンは。先ほどまで、どこまで行かれたんですか? わたくしもフットマンとご一緒したいわ」


「なんと、それは本当かマリアン!」


オラエノ伯爵は激高された。

ジレーナの意図がわからない。

味方なのか、敵なのか。


マリアンは悪びれることなく、伯爵に向かって言った。


「……本当です。何処かの誰かさんに見られたようですわね。この家には、コソコソと隠れてのぞき見するノラ猫でもいるのかしら」


「あら、反撃してくるなんて。だって、お姉さまったら堂々と中庭でフットマンと話しながら、歩いていたじゃありませんか。お姉さまから、フットマンを奪うくらいわたくしには簡単なのよ。あまり反撃して、あとで泣かないでね」


「ジレーナ、お前まで……開き直りか? マリアン、前に言ったはずだ。お前にだってまた縁談はくると。身分も違う、しかも異国の者との逢引きなど絶対に許さん!!

女は屋敷でおとなしくしていなさい」


「お父様にとって、良い縁談とは何ですか? オラエノ家の名誉を守るためだけの縁談でしたら、わたくし遠慮しますわ。自分の嫁ぎ先は自分で決めたいと思います」


「お姉さまってバカなの? ここは、素直に謝っておけば丸く収まるのよ。怒っているお父様に反抗するなんて、火に油を注ぐようなものじゃない。

お父様、おわかりになったでしょう。お姉さまの考えがそうであれば、フットマンはわたくしの世話係に……」


俺の取り合いか?

ジレーナの本心は、そこか。


「そうか、わかった」


「旦那様!」


「お父様!」


「そんなにこの家にいるのが嫌なら、出ていけばいい。お前をそんなふしだらな娘に育てたつもりはない。もうオラエノ家の娘とは思わん! 今すぐに荷物をまとめて、出ていきなさい。

それから、フットマン、君はクビだ」


今度はジレーナが慌てた。


「お父様、そうじゃなくて! フットマンをわたくしの世話係にしてください。

それから、お姉さまを追い出すまでしなくても、よろしいのでは……」


「ジレーナ、何をいっているんだ。この男が来てからだぞ。お前もマリアンもおかしくなっておる!」


「でも、いくらなんでも、今すぐ出て行けだなんて無理ですわ。お姉さまはトロいんですもの。ここはひと月くらい時間を差し上げませんと。」


「ジレーナ、お前は何て優しい子なんだ。こんなマリアンに情けをかけるとは……」


「ええ、ですからフットマンはこのまま家に置いても……」


「それは、ならぬ!」


「ジレーナ、お情けどうもありがとう。ちょうどよかったですわ。今までは、この家の評判を落とさないように、わたくしから出ていくことはしませんでしたが、お父様からそう言ってくださるなんて、感謝してもしきれません。これで安心して出ていけますわ」


おい、おい、出て行くのは俺だ。

マリアンが家を出る必要は無い。


「マリアン! いいかげんにしないか!」


「お姉さまもお父様も、わけがわからないわ。わたくしのせっかくの気遣いを無駄にして。誰がお父様をなだめると思ってるのかしら。お父様って面倒なんですのよ?」


ジレーナ、その発想が間違っているんだ。

もうこれ以上、引っ搔き回すな。

俺は、いい。どうせ居候なんだし。


マリアン、ここはなんとか穏便に解決できるように持って行ってくれ。


「では、家を出る段取りがありますので、わたくしはこの辺で失礼いたします」


おい、本気で家を出る気か。


「あ、そうそう。ジレーナ、言い忘れていたわ。フットマンはわたくしのものよ。あんたなんかに渡さないわ」


マリアンは、そう言い放ち食堂から出ていった。

俺はモノじゃねぇ。

しかし、こうなったら、俺も出て行くしかないな。


「旦那様、今まで大変お世話になりました。では、これで失礼いたします」


「ちょ、ちょっと、フットマン、違うでしょ。お父様、フットマンを止めて」


オラエノ伯爵は、やり切れない表情で執事に命じた。


「……、あとで、セバスワルドに話がある」





俺は使用人部屋へと戻った。


クビになってしまったものはしょうがない。

さてと、ここからどうするかだ。

俺は覚悟を決めた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。

配信マネージャーのモブからお知らせがございます。

カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」


「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」


「知って腰を抜かすなよ、マリアン。

フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。

ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」


「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」


「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」


「あらん」


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