第46話 小さな力こぶ
マリアンの言葉で俺の渾身のヘイト稼ぎは、一瞬にして打ち砕かれた。
そこで俺はつい声を荒げてしまった。
「マリアン、気は確かか? 自分が何を言っているのかわかっているのか!」
“まさか、マリアンはそれを最後の配信にするつもりじゃ……”
“俺たちと一緒にいられる最後にするというのかよ”
“違う。モブとの最後の時間にするつもりなんだよ”
「あなたとの思い出を、リスナーさんたちの心に焼き付けておいてほしいの。
ここにわたくしたちがいたという証明を、残したいの」
「スマホを持ってドラゴンの住処へ行くようにと、女神様からは言われているけど、
君を連れていくつもりはないからな。そんな危険なところへ連れていけるわけないだろ。俺一人で行くし、配信もしない!!」
「その言葉は……少しは大切に思われているようで、嬉しいです。ですが……あなたがいなくなるかもしれない最後の戦いに、わたくしが何も出来ないのは嫌!」
“マリアン、健気。可愛い”
“配信できるようになったのも、女神様のおかげだったのか”
“それならなおさら、最後の時まで俺は、マリアンやリスナーの仲間と一緒に居たい”
“わたしも”
“同感です”
「危険だからこそ、わたくしはあなたについて行きます。一人で行かせるわけにはいきません。ドラゴンとの戦いを配信して、リスナーの皆さまと一緒に戦いますわ。リスナーの皆さんは、きっと協力してくれると思いますの」
“そうだ、そうだ! 俺は協力を惜しまない”
“わたしたちだって”
ちょっと待った。
俺の思惑とは違う方向にリスナーが動き出しているんだが……
マリアン、お前のせいだぞ。
「協力してくれるのはありがたいが……、もし俺が凄惨な姿になっても、君は耐えられるのか?」
そう問われて、マリアンは一瞬戸惑った。
だが、俺の瞳をみつめ返してきて言った。
「最後の瞬間まで、あなたと一緒にいられるのなら」
マリアン、かっこよすぎる!
いつのまにそんなに強く成長したんだ。
ヤバい、俺のほうが涙腺崩壊しそうだっての。
「ということで、重大発表ですわ!! 話を聞いていただいた通り! 今度ドラゴンとの戦いを配信いたします!!!!!」
マリアン、切り替えが早っ!
さすが、俺が育てた人気配信者だ。
“うっわ!まじかw”
“面白そう! 絶対見に来る!”
“面白がっていていいのか? かなり危険じゃね?”
“ドラゴンとの戦いが重大発表じゃなくて、モブが元の世界に戻る方が重大発表じゃん”
“モブはいなくなってもいいが、マリアンの配信見れなくなるのは嫌だ”
“もしかしたらドラゴンにやられるかもなんでしょ? それも嫌なんだが……”
リスナーさんたちが寂しい、心配といった、たくさんの言葉を送ってくれる。
本当に暖かい人たちだ。
俺がいなくなってもいいという意見もあったが。
“っていうかさぁ、マリアンもモブも、本当にそれでいいの?”
迷っている俺の心を見透かしたかのような、あるコメントが深く突き刺さった。
「わたくしは……わたくしは正直に言うと、自分でもよくわかりませんの。確かにマネージャーが元の世界に帰るというのは、わたくしにとってつらいですわ。彼が帰ってしまったら、スマホも配信も全てなくなってしまうということでしょ。こんなに優しいリスナーの皆さまとも、お別れしなくてはいけないなんて」
それは俺だって同じだ。
と言いたかったが、それは胸の奥にしまっておく。
「皆さま、今日までわたくしの配信【マリアンの部屋】をご覧になってくださり、本当にありがとう。皆さまに出会えたおかげで、伯爵令嬢としてのわたくしに見切りをつけることができましてよ。」
“ん? どういうことだ?”
「ドラゴンの配信が、最後の配信になるってことでしょ? 最後の瞬間に言えなかったら困りますもの。今のうちに皆さまにお伝えしようかと思いましたの。本当に、わたくしは、幸せでしたぁ!!」
「うっ」
真っ先に泣きだしたのは、セバスワルドとアルケナだった。
「どれが一番良い選択なのか、わかりません。それでも、ここまでそばにいてくれた皆さまには、感謝を伝えておきたいのです」
“ビビアン? モブに『行かないで!』って、はっきり言えばいいよ”
“俺が絶対にビビアンを守ってみせる!!”
“勝ってほしいけど、勝ったら配信はもうないんだよね……”
“でも負けたら生きてないんじゃ……?”
“くっそー、究極の選択じゃねーか!!!!”
“違うよ。どっちにしても最後になるんじゃね?”
“ヤバい、今夜は眠れそうにない”
「さぁ、ドラゴンと戦うために鍛えなくては! やりますわよー!! 皆さま、応援よろしくお願いしまーす!」
“おおおおお!”
“オー!!!!”
何なんだ、この明るい配信は。
俺はすごく重大な発表したんだぞ。
こんなノリでいいのか?
マリアンは、ぐちゃぐちゃになっている気持ちを、きっと押し殺している。
配信の最後にマリアンは、カメラに向かって
袖をまくって小さな力こぶを作ってみせた。
ヤバい、めちゃ可愛い。
くーーーーっ! やっぱ、俺のマリアン最高じゃん。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。
配信マネージャーのモブからお知らせがございます。
カクヨムでは、12月26日から1月20日まで『積読消化キャンペーン』をやってます。」
「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」
「知って腰を抜かすなよ、マリアン。
フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。
ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」
「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」
「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」
「あらん」
詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign
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