第38話 マリアン健康の秘訣

 オラエノ邸に帰ってくると、別の馬車がエントランスに止まっていた。

セバスワルドは、その馬車を見て何か気が付いたのだろう。

一瞬だけ動揺を見せたが、すぐにいつもの冷静沈着な口調で言った。


「ジレーナお嬢様がお戻りのようでございます。おそらく、旦那様も一緒でしょう。マリアンお嬢様は、すぐにお部屋に行って身なりをお整えください。モブさんは、タキシードに着替えて、急いでフットマンに戻ってください」


「まぁ、ジレーナが?」


俺は、すぐに馬車から降りてお屋敷の勝手口に向かった。

急いで使用人部屋で着替えをしていると、ボーイのファーストがやってきた。


「フットマン、旦那様とジレーナお嬢様のお戻りだ。急に忙しくなったから、僕たちもあたふたしてるんだ。フットマン、これ、靴を磨いておいたから」


「おお、サンキュー」


「たぶん、テーブルセッティングは大変だぞ。コックも今、大慌てで下準備している」


「だろうな。なんで急に」


「夕食だけは、お屋敷でとりたいとジレーナお嬢様がおっしゃったんだと」


「ふうん、ジレーナお嬢様だけじゃないだろうな。きっと旦那様のほうから、そうお願いしたのかもしれない」


「え? どういう意味?」


「いや、何でもない。俺の勝手な憶測だ」


タキシードに着替えて、俺は食堂に向かった。





夕刻。

旦那さまとジレーナがいつものように先に食堂にいらした。


「わが家でジレーナと食事ができることに、わたしは喜びでいっぱいだよ。ジレーナ、ゆっくりと食事を楽しみなさい」


「ええ、お父様、そうさせていただきますわ」


俺は、ご主人とジレーナにスープを給仕する。

しばらく別荘で静養していたせいか、ジレーナは少しお痩せになったように見える。


そこへ、驚いたことにマリアンが食堂に現れた。


「マリアン、お前は大丈夫なのか」


「お父様、わたくし、今日はとても気分がいいの。ご一緒してもよろしいでしょうか」


「何を言う、家族ではないか。遠慮せずにテーブルにつきなさい」


ジレーナは、マリアンと目を会わせようとはしない。

俺はマリアンが椅子に座るのをエスコートしながら、小声で言った。


「本当に大丈夫かよ」


マリアンは俺を見ないようにしながら、コクリと頷いた。


「ジレーナ、体調はよろしくて?」


「ええ、お陰様でなんとか生きていますわ」


「そう、それならよかった」


「本心でよかったと思っていらして?」


「本心で言っておりますわ。お互い、お父様が心配なさるような言い方はやめましょう」




しばらくして、俺はメイン料理を運んできた。


「こちら鴨肉のスパイシー焼きでございます」


「ほらほら、二人ともたくさん食べなさい。美味しそうじゃないか」


旦那様は美味しそうと言ったが、現代日本からきた俺からするとそうではない。

ファミレスでは焼きたてのお肉を運んでいた。

ところが、異世界の貴族社会、特にオラエノ家の料理はそうではない。

暖かい料理のはずが、すでに切り分けられ、目の前に運ばれて来る頃には冷めてしまう。

まるで、オラエノ伯爵の家族関係のように……。


「鴨は久しぶりだな。ジレーナとこうして一緒に食事できるのも今のうちか。別荘に戻るとまた出来なくなってしまう」


姉妹がどう思っているのかわからないが、少なくとも旦那様は、ジレーナがまた帰ってしまうのを寂しがっているご様子だ。


「あら、お父様、そんな寂しいことおっしゃって、いやですわ。わたくしいつでもこの家に帰ってきますわよ。ただ別荘で静養しているだけですもの」


「ああ、そうだな。最近はなんだか感傷的になってしまって」


そういえば、旦那様もひと回り小さくなったような気がする。

この家で一番元気なのは、実はマリアンだということを、この家族は知らない。

ジレーナと旦那様が会話しているあいだ、マリアンはというと……


黙々とお肉を食べ続けていた。


「あら、お姉さまったら、お話もせずにそんなにお肉を召し上がって、よほどお腹が空いているのかしら。」


こんな姉の姿を見たこともないと言いたそうに、ジレーナは驚いてマリアンを見ていた。

マリアンの手が止まった。


「やだわ、わたくしったら、ジレーナが何の話をしていたかなんて、全く気が付かなかったわ」


「まったく聞いてなかったってことですの? それって嫌味かしら」


「いいえ、嫌味じゃないわ。本当にお腹が空いてしまって、食べることしか頭になかったの。ごめんなさいね」


「お姉さま、お腹が空くような出来事でもございまして?」


「ええ、そうですの。力仕事をしたのでお腹が空いておりましたわ。もっと体力をつけなきゃ。」


予想外の答えに、旦那様もジレーナお嬢様もポカンと口を開けた。

その理由は、俺とセバスワルドだけが知っている。


「「力仕事?」」


旦那さまとジレーナお嬢様は、マリアンの口から力仕事という言葉が出たのを、聞き返した。


「マリアン、大丈夫か? 失恋のせいで様子がおかしくなったのか?」


「いいえ、最近はダイエットと健康のために運動しておりますのよ」


「お姉さまが運動?」


「ええ、動いたあとは気分もスッキリしますし、食欲も出ます。これで食べ過ぎたら、ダイエットにはなりませんわね。アハハハハハ」


さすがに旦那様は不思議に思ったのだろう。

核心をついてきた。


「運動って、どんな運動だ。屋敷の中でできる運動などあるのか?」


マリアンが答えに詰まった。

まさかここで、ギルドとかクエストとか言いだせば、旦那様は卒倒するだろう。


「け、剣術ですわ。剣術をモブ……フットマンから教わって、けいこをつけてもらっております」


「剣術? 女がそのような……」


ジレーナが旦那様を制した。


「お父様、黙って。わたしがお姉さまに聞きます。お姉さま、剣術をフットマンから教わるって、もしかしたら、それは配信のリスナー先生の指示ですの?」


「なんだね、ジレーナ。その配信のリスナー先生とは。わたしも挨拶しておいたほうがいいかな」


えーーー、オラエノ伯爵が配信のリスナーに挨拶だと。

だめだろう、それは。

ここは、俺がなんとか止めなければ。


「お食事中、すみません。マリアンお嬢様の剣術は、わたくしが勝手にやっていることです」


「リスナー先生とは関係ないのか」


「ございません」


「そうか、そのせいかな。マリアンは顔色もよくなったし、元気そうだ」


「恐れ入ります」


ジレーナお嬢様が、俺をじっと見て言った。


「フットマン、わたしにも剣術を教えて! ねぇ、よろしいでしょう?」


ジレーナ!?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。

配信マネージャーのモブからお知らせがございます。

カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」


「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」


「知って腰を抜かすなよ、マリアン。

フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。

ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」


「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」


「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」


「あらん」


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