第37話 お嬢様の実習型訓練
出来れば、お屋敷から瞬間移動でギルドに行きたかった。
だが、今回はマリアンと一緒だ。
セバスワルドは、お嬢様のために馬車を出すと言っている。
「大丈夫ですよ、セバスワルドさん。御者と馬車だけで」
「そうは行きません。フットマンとマリアンお嬢様が二人で外出したとなっては、使用人たちが噂しはじめます。ただでさえガゼボの件で、皆は誤解しているのに」
「セバスワルドが一緒なら、誤解されないと?」
「少なくとも、二人きりでいい関係になったなんて想像を、防ぐことはできます」
瞬間移動が使えないのは不便だが、セバスワルドがいれば多少の遅刻も許されるだろう。
「わかりました。それで、マリアンは?」
「もう馬車の中で、お待ちでございます」
「スゲー! モチベーション高っ!」
*
ギルドでは、ワッパガーさんがすでに受付で待っていた。
「おう、来たかモブとお嬢さん。今日は初心者コースだ。いつも時間が無いというモブのために、さっそく出かけるぞ」
「すみません。気にかけていただいて」
「おっと、師匠はギルドで待ってな」
ワッパガーが師匠と呼んだのは、セバスワルドのことだ。
「しかし、それでは……」
「すまんが、足手まといは減らしたい。時間内にクリアしたいからな」
「セバスワルド、そういうことだ。ここに残ってくれ」
マリアンはセバスワルドに目で合図した。
「承知いたしました。では、お気を付けて」
*
初心者コースの森は湿地帯だった。
「俺があまり手を貸すと、訓練にならないからな。おまえたち二人でやってみな。いざとなったら、俺が助けてやるから」
ワッパガーさんの言葉に、マリアンは不安そうな顔をした。
「ワッパガーさんを、頼ってはいけないのでしょうか?」
マリアン、話し方が丁寧すぎるぞ。
「マリアン、いいんだよ。俺たちでやらなきゃ訓練にならないだろ」
ワッパガーは、マリアンの声にピンときたらしい。
「ふーーん、これはただの可愛い冒険者じゃないな。どこかのお嬢様と、俺は読んだ。たぶん、オラエノ伯爵の? お前ら、何か訳アリなのか……、わかった、黙っておいてやるさ。
よし、応援するから、がんばってやってみろ。ほら、見ろ。さっそく沼地にいたぞ、モンスターが」
「モンスターですって!」
あんまり驚くなよ、マリアン。
そのためのクエストじゃないか。
「何ですの? このぷよぷよしたモンスターは」
「スライムだよ。こんなの初歩も初歩だ」
「モンスターに見えませんわ。か、可愛い! 抱っこしてもいいかしら」
「おい、ペットじゃないんだから、スライムは。それに、これだけ大きいスライムは危険だ。攻撃される……」
「キャー―!」
大型スライムはマリアンに向かって突進してきた。
そのままマリアンに体当たり。
「いやーん。何よ、水浸しになったぁー」
ワッパガーがアドバイスした。
「お嬢さん、スライムの水に触れると、一時的に体が痺れて動かなくなるからな」
「うっ……、早く教えてください。もうわたくし動けませんわ」
「大丈夫、数分で元に戻るから。その間にモブが、スライムをやっつけてくれるだろ」
マリアンが動けないとなっては、俺がやるしかないか。
全然、マリアンの訓練にならないのだが。
俺は、盾で防御しながら剣で攻撃した。
ところが、接近するとスライムは突撃してくる。
本来なら、距離をとって攻撃したいところだ。
「モブ、弓は持ってないのか? 弓で攻撃すればいいぞ」
「弓は無いなぁ。あったとしても使ったことないし」
俺は、スマホを取り出した。
「あ、ここで配信はしないで。わたくし動けないからカッコ悪いもの」
「配信はしねえよ。するわけないだろ。Siriに聞くだけだ」
「尻に聞くですって? いやらしい!」
マリアンは顔を赤らめて恥ずかしがった。
それなのに、痺れが消えてきたせいだろうか。
マリアンは、俺に向けてそっと腰をひねりながらお尻を向けてきた。
「……どうぞ」
「……? なにか勘違いしてないか。あんたの尻になんか聞くわけないじゃん」
「へ? ……ですわよね。わかっておりましたわ。わざとです」
いや、今のはわざとじゃなかった。
ワッパガーさんが、俺たちのやり取りを見ながら大笑いしている。
さっきのポーズ、リスナーたちが見たら発狂するぞ。
「ヘイ、Siri」
マリアンが、また反射的にお尻を突き出した。
だから違うってば……
俺は、マリアンのポーズは無視してSiriへの質問を続けた。
「水分を吸収する物、何か出してほしい」
「水分を吸収するものですね。凝固剤の検索結果はこちらです」
「凝固剤か……これって、非常用トイレに使う奴じゃん。まあ、いいか。それをたくさん欲しい」
すると、凝固剤が入った袋が大量にドーンと現れた。
「スライムさんよ、大変お待たせしました。今からこれをばらまきまーす!」
「わたくしも、やりたいですわ」
「おう、頼むわ」
俺とマリアンは、出現した凝固剤をスライムにふりかけて回った。
みるみると、スライムは凝固剤に水分を吸い込まれ、固まって行く。
ワッパガーさんは驚いて
「へぇ! こんなスライム討伐初めて見た。だが、固まらせて、そこから先はどうするんだ」
そう、そこだ。俺はその先を考えていなかった。
「どうしようか。この固まってしまったスライム」
すると、マリアンは勢いよく手を挙げて、元気な声で答えた。
「はい、火をつけて燃やしましょう!」
「そんな……」
「残酷でしたかしら?」
「配信していたら、リスナーさんにドン引きされるほど、残酷だ」
「あらまあ」
「とりあえず、粉々に砕いちゃうか!」
俺は、固まったスライムを鉄拳でぶっ壊し、欠片を次々に踏みつぶして粉々にした。
「粉々になったものは、まとめて燃やしましょう!」
「いや、いいって。粉々になれば消えるから」
「なんだ、つまんない」
そんなことを言っていると、一角うさぎが草むらからひょっこり現れた。
「やだ、可愛いぃ、何これ!」
「ああ、アルミラージというモンスターだ」
「こういうモフモフって大好きですわぁ」
マリアンはアルミラージを抱っこして、顔をスリスリしている。
「おう、気を付けろ。普通のうさぎじゃない、一応モンスターだぞ……」
そう言い終わるか終わらないうちに、草むらからアルミラージの群れが飛び出してきて、マリアンの周りを取り囲んだ。
「うわー! 嬉しいですわ。こんなにモフモフに囲まれるなんて、し・あ・わ・……」
マリアンはアルミラージの攻撃にやられて眠ってしまった。
おいおい、ここで眠ったら訓練にならないだろが!
しょうがない、また俺が攻撃するか。
こんな弱っちいモンスターなんて、俺の剣を一振りすればおしまいだ。
ところが、剣を振っても、アルミラージは後ろへ横へとジャンプして避けてしまう。
眠っているマリアンが障壁になって、思いっきり剣を振ることができない。
見かねたワッパガーが、
「モブよぉ、俺がお嬢さんを助け出すぜ。そしたら、おもいっきり動けるだろ」
「ああ、すまない。だが、お嬢様に手は出すなよ」
「はいはい、出しませんよ。」
ワッパガーはマリアンを担ぎ出すと、大きな樹の下まで運んだ。
よし、あとは思いっきり叩きのめすだけだ。
「てやあぁーーーー!」
アルミラージは、一瞬で倒れて消えた。
消えた跡には、角が転がっていた。
「もうこんなもんだろう。ワッパガーさん、角を回収していいですよ」
「そうか。悪いな」
今頃になって、マリアンはやっと目を覚ました。
「あれ? うさちゃんたちは?」
「あんたが寝ているあいだに、俺が全部やっつけた」
「なんでーーー? なんでやっつけちゃうわけー? わたくしのペットにしたかったのにぃ。」
わぁーわぁーと、わめくマリアンを引っ張りながら、おれはワッパガーに謝った。
「すみません。お嬢様を撤収します。おい、来い。帰るぞ」
「なんで、何もやらせてくれないんですのー!」
「凝固剤撒いたろ。あんたにはそれで十分だ。もう時間だから戻るぞ」
こうしてマリアンの初の実習型訓練は終わった。
マリアンはほとんど何もしていないのだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。
配信マネージャーのモブからお知らせがございます。
カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」
「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」
「知って腰を抜かすなよ、マリアン。
フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。
ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」
「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」
「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」
「あらん」
詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます