第35話 クエストを受けるか止めるか

 オラエノ伯爵邸の食堂で、俺はフットマンとしてお屋敷の銀食器を磨いていた。


こんな高価な食器で、どんなに美味しい料理を提供しても、オラエノ伯爵の表情は暗かった。

年ごろの娘たちが、次々に婚約破棄されるという悲劇があったのだ。

娘たちは食堂に降りて来て食事することはない。

おまけに一番可愛い末娘は、別荘で静養しに行ってしまったのだから、何を召し上がっても美味しくないのだろう。


「考え事していますか?」


声をかけられて振り向くと、セバスワルドが立っていた。


「ええ、最近の旦那様は元気がないなぁと」


「そうですね。これ以上、旦那様が悲しむようなことにならないようにしてください」


「それって、俺に頼んでます?」


「ええ。もしも、マリアンお嬢様がクエストで、大けがなどされたら大変ですよ」


「じゃあ、クエストに行かないように止めましょうよ」


「お嬢様がご自分で第一歩を歩み始めたのです。止めることはかえって逆効果かと」


「じゃ、どうしろと」


「配信のリスナーさんがおっしゃった通りです。モブさんがお守りするしかありません」


「そう、簡単に言われても……」


「よろしくお願いしましたよ」


そう言って、セバスワルドは去ろうとした。

が、何か言い忘れたのかもう一度俺の方に向き直った。


「あ、そうそう。夜はガゼボでお待ちしているそうです」


「またですか? 誰かに見られてたら誤解されるじゃないですか」


「使用人は、もうだいたい知っておりますよ」


「な、なんだって? もう誤解されてるんですか」


「わたくしは、マリアンお嬢様の立場で申しますが、誤解ではないのではないかと……」


「歯切れ悪っ!」




 ——夜。


いつものように中庭のガゼボに行くと、マリアンは先に着いて俺を待っていた。


「何か用事か?」


「待っている間、ずっとあなたのことを考えていました。たまには、わたくしは待つ側ではなく、待たせる側になりたいものですわ。

わたくしが、急ぎ足でここに来ると、既にあなたは来ていて、『ごめんなさぁい。お待ちになられました?』 すると、『今来たとこだよ(イケボ)』なんて、素敵なシーンを妄想しておりました。

なのに、面倒くさそうな表情で、『何か用事か?』ですって。妄想の彼……カムバァァァァァァック!!」


「また、勝手な妄想を……、それがいろんな問題を起こさせているんだぞ」


スン……、関係ないわと言わんばかりに、マリアンは知らんふりした。


「装備を貸してくださってありがとうございました。助かりましたわ。洗ってアイロンかけてもらいましたから」


「おう、こっちこそ臭くて悪かったな」


「あの、ごめんなさい。勝手にクエストを受けてきてしまって。ゴブリンって、初心者には無理だって、そうは思わなかったものですから。モブさん、あなたにとってクエストは楽しいですか?」


「ま、最初は地道に薬草採集から始めて、クエストに慣れたらスライムとかで修行して、徐々に慣れてきたってかんじかな」


「あの……」


「俺だって最初の頃は苦労したもんだ」


「リスナーの皆さまが、クエストも初めてで戦闘経験もないのにゴブリンはキツイって。ここは彼に手伝ってもらえとおっしゃっていて……無理でしょうか?」


「手伝えっていうより、俺が率先してマリアンを守れという意味だろ」


「やっぱり、無理?」


「意味わかんねー。登録の仕方は教えるが、クエストは手伝わないって言ったはずじゃん」


「そうですわね。モブさんでも、ゴブリン退治なんて難しいですわよね。」


「誰がそんなことを言った?」


俺はムッとした。


「わたくしです」


「その『わたくし』は、俺無しでゴブリン退治できると思ってたのか?」


「そう思いましたけど、リスナーの皆さまが、わたくしがゴブリンにやられて傷付く姿は見たくないと。

もしかしたら、傷だらけになって、そこで配信も命も終わってしまうかもしれない、それは嫌だと言ってくださって……」


「リスナーのせいにするなよ。元は、あんたが勝手に掲示板から依頼書を見つけて、勝手に決めたんじゃないか」


「本当に、ごめんなさい」


ちょっと、きつく言い過ぎたかな。

セバスワルドから言われた言葉を思い出した。

『よろしくお願いしましたよ』


俺は、上を見上げた。

きれいな星空だった。


「それは……」


マリアンは、不安そうに俺を見つめている。


「条件付きで参加してやってもいい。顔出しNG、俺は常に配信の画面外で戦う。

いいな?」


「う、嬉しいですわ! さすがわたくしが見込んだ男! まさに勇者ですわ! 拾われた陰キャのくせに勇者! 陰キャ勇者が、私の中で大出世ですわ!」


「その褒め方、あまり嬉しくない。陰キャ勇者が成り上がったところでどうなんだ。

お世辞にもかっこいいとは言えないだろ」


「だって、嬉しいんですもの」


「きちんと、基礎的戦い方は学ぶこと。数日間は、俺の先輩と同行すること」


「はい、わたくし、頑張っちゃいますわ」


「それから、スマホを使って、リスナーさんから送られるアイテムなんだけど、実験をしておいた方がいい。スマホを使って配信しながら戦えば、リスナーさんから、アイテムで助けてもらえるだろ」


「アイテムの実験ですわね」


「あと、武器にショートソード、防具にドレスアーマー、採取用の短剣、回復薬などを入れるアイテムポーチなど。セバスワルドさんにお願いして、揃えてもらえよ」


「はい、わかりましたわ。モブさん、大好きになって差し上げてもいいですわ」


だから、なんでいつも上から目線なんだよ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。

配信マネージャーのモブからお知らせがございます。

カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」


「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」


「知って腰を抜かすなよ、マリアン。

フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。

ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」


「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」


「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」


「あらん」


詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign



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