第35話 クエストを受けるか止めるか
オラエノ伯爵邸の食堂で、俺はフットマンとしてお屋敷の銀食器を磨いていた。
こんな高価な食器で、どんなに美味しい料理を提供しても、オラエノ伯爵の表情は暗かった。
年ごろの娘たちが、次々に婚約破棄されるという悲劇があったのだ。
娘たちは食堂に降りて来て食事することはない。
おまけに一番可愛い末娘は、別荘で静養しに行ってしまったのだから、何を召し上がっても美味しくないのだろう。
「考え事していますか?」
声をかけられて振り向くと、セバスワルドが立っていた。
「ええ、最近の旦那様は元気がないなぁと」
「そうですね。これ以上、旦那様が悲しむようなことにならないようにしてください」
「それって、俺に頼んでます?」
「ええ。もしも、マリアンお嬢様がクエストで、大けがなどされたら大変ですよ」
「じゃあ、クエストに行かないように止めましょうよ」
「お嬢様がご自分で第一歩を歩み始めたのです。止めることはかえって逆効果かと」
「じゃ、どうしろと」
「配信のリスナーさんがおっしゃった通りです。モブさんがお守りするしかありません」
「そう、簡単に言われても……」
「よろしくお願いしましたよ」
そう言って、セバスワルドは去ろうとした。
が、何か言い忘れたのかもう一度俺の方に向き直った。
「あ、そうそう。夜はガゼボでお待ちしているそうです」
「またですか? 誰かに見られてたら誤解されるじゃないですか」
「使用人は、もうだいたい知っておりますよ」
「な、なんだって? もう誤解されてるんですか」
「わたくしは、マリアンお嬢様の立場で申しますが、誤解ではないのではないかと……」
「歯切れ悪っ!」
*
——夜。
いつものように中庭のガゼボに行くと、マリアンは先に着いて俺を待っていた。
「何か用事か?」
「待っている間、ずっとあなたのことを考えていました。たまには、わたくしは待つ側ではなく、待たせる側になりたいものですわ。
わたくしが、急ぎ足でここに来ると、既にあなたは来ていて、『ごめんなさぁい。お待ちになられました?』 すると、『今来たとこだよ(イケボ)』なんて、素敵なシーンを妄想しておりました。
なのに、面倒くさそうな表情で、『何か用事か?』ですって。妄想の彼……カムバァァァァァァック!!」
「また、勝手な妄想を……、それがいろんな問題を起こさせているんだぞ」
スン……、関係ないわと言わんばかりに、マリアンは知らんふりした。
「装備を貸してくださってありがとうございました。助かりましたわ。洗ってアイロンかけてもらいましたから」
「おう、こっちこそ臭くて悪かったな」
「あの、ごめんなさい。勝手にクエストを受けてきてしまって。ゴブリンって、初心者には無理だって、そうは思わなかったものですから。モブさん、あなたにとってクエストは楽しいですか?」
「ま、最初は地道に薬草採集から始めて、クエストに慣れたらスライムとかで修行して、徐々に慣れてきたってかんじかな」
「あの……」
「俺だって最初の頃は苦労したもんだ」
「リスナーの皆さまが、クエストも初めてで戦闘経験もないのにゴブリンはキツイって。ここは彼に手伝ってもらえとおっしゃっていて……無理でしょうか?」
「手伝えっていうより、俺が率先してマリアンを守れという意味だろ」
「やっぱり、無理?」
「意味わかんねー。登録の仕方は教えるが、クエストは手伝わないって言ったはずじゃん」
「そうですわね。モブさんでも、ゴブリン退治なんて難しいですわよね。」
「誰がそんなことを言った?」
俺はムッとした。
「わたくしです」
「その『わたくし』は、俺無しでゴブリン退治できると思ってたのか?」
「そう思いましたけど、リスナーの皆さまが、わたくしがゴブリンにやられて傷付く姿は見たくないと。
もしかしたら、傷だらけになって、そこで配信も命も終わってしまうかもしれない、それは嫌だと言ってくださって……」
「リスナーのせいにするなよ。元は、あんたが勝手に掲示板から依頼書を見つけて、勝手に決めたんじゃないか」
「本当に、ごめんなさい」
ちょっと、きつく言い過ぎたかな。
セバスワルドから言われた言葉を思い出した。
『よろしくお願いしましたよ』
俺は、上を見上げた。
きれいな星空だった。
「それは……」
マリアンは、不安そうに俺を見つめている。
「条件付きで参加してやってもいい。顔出しNG、俺は常に配信の画面外で戦う。
いいな?」
「う、嬉しいですわ! さすがわたくしが見込んだ男! まさに勇者ですわ! 拾われた陰キャのくせに勇者! 陰キャ勇者が、私の中で大出世ですわ!」
「その褒め方、あまり嬉しくない。陰キャ勇者が成り上がったところでどうなんだ。
お世辞にもかっこいいとは言えないだろ」
「だって、嬉しいんですもの」
「きちんと、基礎的戦い方は学ぶこと。数日間は、俺の先輩と同行すること」
「はい、わたくし、頑張っちゃいますわ」
「それから、スマホを使って、リスナーさんから送られるアイテムなんだけど、実験をしておいた方がいい。スマホを使って配信しながら戦えば、リスナーさんから、アイテムで助けてもらえるだろ」
「アイテムの実験ですわね」
「あと、武器にショートソード、防具にドレスアーマー、採取用の短剣、回復薬などを入れるアイテムポーチなど。セバスワルドさんにお願いして、揃えてもらえよ」
「はい、わかりましたわ。モブさん、大好きになって差し上げてもいいですわ」
だから、なんでいつも上から目線なんだよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。
配信マネージャーのモブからお知らせがございます。
カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」
「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」
「知って腰を抜かすなよ、マリアン。
フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。
ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」
「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」
「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」
「あらん」
詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign
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