第34話 初めてのクエストを発表
ギルドから外に出て、御者が待っている馬車まで急いだ。
俺にはマリアンが何を考えているのか、さっぱりわからない。
無知というものは恐ろしいと、心底そう思った。
ギルドを出て急ぎ足で移動しながら、俺はセバスワルドに確認した。
「お嬢様の行動力には、セバスワルドもおどろくが、間違ったと思ったことは一度もないと言いましたよね」
「はい、言いました」
「今もそう思っていますか?」
「……おそらく」
馬車に着くと、マリアンははっきりエスコートを断った。
「自分で馬車に乗ります。手助けは無用です。なぜなら、今日からわたくしは冒険者ですもの」
それはようございましたね。
正直に言うと、俺は頭を抱えて叫びたい気分だった。
馬車はゆっくりと動き出し、ガタガタと揺れ始める。
「モブさん、スマホを準備してくださるかしら。これから馬車の中で配信します」
「嘘だろ。今から?」
「ギルドでのことを、早くリスナーさんに伝えたいですわ。情報を共有したいの」
「まあ、俺がどうのこうのと言うよりも、リスナーさんがどういう反応をするか、実際に聞いてみた方がいいよ」
「ですわよね。さあ、早く配信してくださる?」
俺はスマホをポケットから取り出し、配信アプリを立ち上げる。
マネージャーからのメッセージを素早く入力した。
“緊急配信。
たった今、マリアンがギルドへ行って冒険者登録をしてきました。
皆様にご報告があるそうです。
いち早く皆様と情報を共有したいというので、馬車の中から配信します”
マリアンにキューサインを送った。
「皆さま、ごきげんよう! 【マリアンの部屋】へ、ようこそ!」
マリアンはかぶっていたフードを取り、ハイテンションで話し始めた。
「聞いてくださる? 今日はわたくし、初ギルド体験でしたのー!!」
“マジか! おめでとう!”
“マリアン、いつもと服装が違うーーーー!”
「これですか? 伯爵令嬢が、ドレスで冒険者登録なんてしに行ったら大騒ぎになるからって、彼がお古の装備を貸してくれましたの」
マリアンは髪を解きながら説明した。
“ええええ!! モブが貸してくれたの?”
“優しいじゃん、モブ”
「ぜーんぜん! 優しいとかじゃなくってよ? 気まぐれとかじゃないかしら? 貸してくれたのはいいのですが、彼の匂いに包まれてなんだか…あ…いえ…な、なんだかこの装備……汗臭いですわ!!」
途中でハッと気付き
取り繕うようにクンクンとわざとらしくにおいを嗅ぐマリアン。
やっぱり、臭いと思って我慢していたのかよ。
軽く傷つく俺。
いや、そんなことはどうでもいい。
問題はその先にある。
“なんて幸せ者なんだ。モブって【嫉妬】”
どこがだよ!
“男物を、だぼっと着こなすマリアンもかわいいね”
“解く前の髪型もかわいかった!”
それは、マネージャーである俺のセレクトがいいからだよ。
決まってるじゃん。
「髪型は…彼の好み……いえ……ついんてぇる? というのをせっかく知ったので、し、仕方なくですわ!!」
“何!? なんて奴だ。好みの髪型にしてもらえるなんて……爆ぜてしまえ【泣】”
“ツインテール! いいねぇ♪ 俺ツインテール好き~”
俺の好みとか言う必要ある?
関係なくね?
「それでは本題に移りますが、皆さま! わたくしは本日、無事に冒険者登録できましたーー!」
そこだよ、本題は。
“すごーい、緊張しなかった?”
“配信しているということは、モブと一緒に行って、今も側にいるのか”
“側にいるのに、汗臭いとか言ってたわけ? マリアン”
「緊張? わたくしの辞書に緊張なんて言葉はございませんわ。」
よく言うよ、緊張して震えながら記入していたくせに。
「でも、本当は嘘ですわ。ものすごく緊張しましたの。だって、彼と親しく話す受付嬢がいましたし、周りはムッキムキの男性がほとんどですし。緊張しない方が無理ですわ。でもカッコつけてみたかったんですの!」
正直でよろしい。
“さすがマリアンw”
“これでいつでも、クエスト受けられるね!!”
クエスト。
その言葉に、マリアンはにやりと笑ったのを俺は見逃さなかった。
「実はわたくし、もうクエストも受注してきましたのよ!!」
さあ、聞いてもらいなさい。
マリアンのリスナーさんたちに。
“はっやw”
“行動力の塊かよww”
“何受けてきたの? 初めてだし、薬草採取辺りが無難なとこ??”
リスナーさんが予測を立て始めた。
「では、発表いたします」
マリアンはもったいぶって一呼吸おいた。
「マリアンの部屋、特別企画! 初めてのクエストは、ゴブリン討伐に決定いたしましたぁ!!!」
マリアンはテンション高めに発表した。
しかし……
“え? 電波悪くて変な音声入った? ゴブリンって聞こえたわw”
“まさか、初のクエストで、討伐クエストを受けるわけないよなw”
だよな、だよな。
俺も驚いたんだ。ありえないだろ。
マリアンからすると、リスナーが盛り上がると期待していたのだろう。
予想外の反応の悪さに、拍子抜けしたようだ。
「あら、いけませんの?」
とリスナーさんに尋ねる。
“あのね、マリアン? クエストに慣れてないし、戦闘の経験もない状態で
立ち回りや予想外の事態とか、考えるの大変じゃない?”
“疲れも出るから、体力配分なんかも考えなきゃだし”
“俺たちモンスター退治は見たいけど、マリアンがやられるところは見たくないよ”
“ゴブリンってどんなやつか知ってる?”
そうだ。もっと言ってやってくれ。俺が止めても聞かないんだ。
「立ち回り? 予想外の事態? そんなこともあるんですの?」
そうなんだよ、マリアン。
わかったか。
ん? でもマリアンの頭の上にはたくさんのハテナが浮かんでいるな。
「ゴブリン、知らないですわぁぁー! だけど、下級のモンスターだということだけは、書いてありましたから、わかっております。討伐って、そんなに考えることがありますの?」
あるんだよ。
行って倒して終わりじゃないんだから。
“あー……下級モンスターは正解だけど、ゴブリンは初心者向きじゃないよ”
“ずる賢いし、意外と素早いし、複数体を相手にすることになるはず”
“モブならもう慣れてるかもだけど”
俺だって慣れてはいない。
その調子で、マリアンがこの無謀なクエストを諦めるように説得してくれ。
「小説などで、こっちの世界の事をよくご存じの皆さんからの指摘。きっと的確なのでしょうね。わたくしのことを、本気で心配してくれているのが伝わってきましたわ」
わかってくれたか。
「わたくしでは、無理でしょうか……?」
マリアンは残念そうに肩を落とした。
“んー、ならさ! モブと二人で戦えば? そしたらマリアンは安全確保しやすいし、”
“クエストもきっと達成できるんじゃない?”
“マリアン『は』安全確保しやすいとか、モブが生贄になってて草”
“でも本当に、モブなら前からクエストしてるし、そこら辺も慣れてるでしょ!”
“まぁ何かあったら盾にして、マリアンだけでも逃げてこれるしw”
“体のいい肉壁ww”
ちょ……、待て。
俺が側にいるのを知っていて、わざと書き込みしてる?
「確かに、クエストは手伝わないと言っていた彼も、わたくしが危ないとわかれば、手伝ってくれるかもしれない。なるほど、名案ですわ!」
マリアンは目を輝かせて、指をパチンと鳴らした。
いやいや、名案じゃないだろ。
俺だって盾になるのは嫌に決まっているだろ。
危ないとわかればなんて前提は、ほぼ確定で言ってないか?
“そうそう! いいアイデアだと思う!”
“マネージャーさーん、聞いているよね。ってか、メッセージ読んでいるよね”
聞いているし、読んでるよ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。
配信マネージャーのモブからお知らせがございます。
カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」
「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」
「知って腰を抜かすなよ、マリアン。
フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。
ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」
「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」
「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」
「あらん」
詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます