第33話 新規登録、その名前かすってない?
配信で冒険者登録の話をリスナーから提案された翌日、俺はセバスワルドからメモを手渡された。
メモはマリアンからのもので、こう書かれていた。
―朝食後に、ギルドへ行きます。同行することー
行動、早っ!
俺の驚いた表情を見て、セバスワルドは全てを察したのだろう。
「マリアンお嬢様の行動力に驚くことは、わたくしでもあります。でも、それが間違いだったと後悔したことは、一度もございません。協力いたします。馬車を出しますので、メモ通りにお嬢様の指示に従ってください」
「わかりました」
セバスワルドという強力な助っ人がいるなら安心だ。
俺一人で、この隠密行動は荷が重すぎるところだった。
*
俺たちは、馬車に揺られギルドへ向かっていた。
「お嬢様、身元がバレないようにくれぐれもご注意ください」
セバスワルドに言われて、マリアンはもう一度自分の身なりを確認していた。
マリアンは、俺から借りた装備を身にまとっていた。
髪はいつもの縦ロールではなく、俺の好きな『ツインテール』にしている。
ここ、重要だからね。
そして、マントのフードを深くかぶっていた。
「この変装なら大丈夫じゃない? あとは、言葉使いかしらね」
マリアンは、足元の方へ視線を落とし、マントをひらひらさせながら言う。
「まぁ、そうだな。あまり必要以上に喋らない方がいいぞ」
俺の助言に、マリアンは珍しく素直にコクリと頷いた。
セバスワルドからも助言を受ける。
「くれぐれも身分がわかるようなことのないよう、ご注意ください。それにしても……ちょっと汗の匂いがきついのでは? お戻りになられましたら、すぐに湯浴みの準備をさせます」
セバスワルドは、しかめ面をしながらハンカチで鼻を覆った。
俺が貸した服、そんなに臭い? そういえば、洗濯していなかったかな。
「でも、かえって好都合ですわ。これだけ汗臭いのなら、誰もわたくしを領主の娘マリアン・オラエノだとは思わないでしょう」
俺にとっては不名誉だが、言っていることは当たっていた。
*
そうこうしているうちに、目的地に近付いた。
セバスワルドは御者に言い、ギルドから少し離れたところの馬車置き場に止めさせた。
セバスワルドは、マリアンが馬車を降りるのをエスコートしようと手を差し伸べた。
それを、既に間違っていると感じた俺は、正直に思ったことを口にした。
「エスコートされる冒険者がどこにいる。ここからは、一人で馬車から降りるんだ」
「ええ、そうですわね。セバスワルド、大丈夫ですから、一人で降ります」
「お嬢様、失礼いたしました。では、せめてギルドへ同行させてください」
「それは必要ありません。ここからは、モブさんが付いてくださいますから。彼だって、一人で冒険者登録したのでしょう?」
それは………、その時は………、お金が無くて、セバスワルドに助けてもらったのが事実だ。
「いいえ、お嬢様。最初はわたくしが一緒に行きました」
「え? そうなんですの? 執事の恰好でよく身分が隠せましたね」
「それは……、わたくしはモブさんの師匠ということにしまして……」
「モブさん、本当なの?」
「ああ、お金がなかったから、流れでそういうことになった」
「じゃあ、ギルドの方々はセバスワルドを知っているということ?」
「そういうことになります」
マリアンは、あきれて開いた口がふさがらないようだ。
「だから、エスコートなんかされるなってことだ。俺は、師匠の元で働いていることになっているんだからな。あんたがお嬢様とバレたら俺の仕事もセバスワルドの職業も、全部バレちまう」
「師匠って、セバスワルド?」
セバスワルドが申し訳なさそうに、頭をさげた。
「まあ、セバスワルドが師匠で、その弟子がモブさん? ま、モブさんにとっては確かにそうですわね。いろいろと演技しなくちゃいけないようね。わかりました。ここから、わたしは冒険者になります。新しい第一歩を踏み出します!」
そんなに息巻かなくてもいいんだが。
普通にしてくれれば、それでいい。
ギルドの扉を開けると、午前中であっても様々な人がいた。
筋骨隆々の人、細身だがベテランの佇まいの人、
まだ駆け出しでたどたどしい人、
背格好や立ち振る舞いだけでもそれぞれだ。
そういう人物を見るだけでも、マリアンにとっては初体験だ。
マリアンは緊張と驚きで、歩き方がぎこちない。
挙動不審な奴に見える。
受付に行くと、いつもの可愛い受付嬢が手を振ってきた。
「モブさーん、昨日はどうしちゃったんですかぁ? 待っていても来ないから心配しましたよー」
マリアンが俺をにらんで、小声で問い詰める。
「この方とはどういうご関係ですの?」
「別に、普通に受付と冒険者の関係だ。いちいちにらんでくるな。自然にしてろ」
受付嬢はセバスワルドにも気が付いて
「先日、モブさんの登録手数料を支払いにいらした方! そうですよね。今日はどうされました?」
「新しい者を連れて参りました。こちらで新規登録をお願いします」
「あら、新しいお弟子さんですか?」
「滅相もな……」
セバスワルドが否定しそうになったので、俺は慌てて受付嬢に伝える。
「ま、そういうことだ。師匠が新しい弟子を雇ったので、登録して欲しい」
「そ、そうです。冒険者登録に来ました。師匠に言われて」
マリアン、そうだ。その調子でいつものように演じてくれ。大女優。
「文字は書けますか?」
「失礼ね……」
「あ、こいつ書けます。書けます。全然問題ありません」
「こいつ?」
マリアンがにらみつけてきた。
「ちょっと、世間から離れていたんで、変わったやつなんだ。よろしく」
「わかりました。では、こちらの用紙に名前と必要事項を記入してください」
受付嬢は、別に疑うわけでなく慣れた口調で事務的に答えた。
大丈夫だとは思うが……、
不安と緊張で、申込用紙に書き込む手が震えているぞ、マリアン。
震えながら書いた文字を見ながら受付嬢は言った。
「マリアンナ・オメエノ様? オラエノ伯爵家のマリアンお嬢様?」
ヤバい! バレたか。
「……と、似たお名前なのですね。」
俺も、マリアンも、セバスワルドも、冷や汗をかいた。
その名前、本名に似すぎだろ。
もう少しひねるとか、なかったのか。
「よく言われます」
とマリアンは取り繕った。
セバスワルドが小声で褒めたたえた。
「さすがでございます。『マリアン』も『マリアンナ』も似ていますから、呼ばれて気付かないなんて事故も減ります。なんて天才的な発想でしょう」
「セバスワルド、ここでは褒めるな。調子に乗られては困る」
「だって、わたくし天才ですもの、しょうがないですわ」
俺たちがごちゃごちゃ言い合っていると、受付嬢が聞いて来た。
「あの、進めても大丈夫でしょうか」
「「「よろしくお願いします!」」」
三人一緒に頭を下げた。
「では、登録手数料、銀貨5枚です」
セバスワルドが手数料を支払った。
そして、俺たちはしばらく掲示板の前で手続きが完了するまで待っていた。
「いろんなクエストがあるのね」
「ああ、初心者用に目を通しておいたほうがいいぞ」
そのとき、先輩冒険者のワッパガーが俺を見つけて近づいてきた。
「おう、モブ! 昨日は休みだったのか。あれ? 新しい冒険者か?」
「ワッパガーさん、こんにちは。昨日は休んじゃってごめんなさい」
「いいさ、休むことも必要だからな。ってか、この子、可愛いな。女冒険者か?
ひょっとして、お前の彼女?」
あ~あ、ワッパガーさん、それ、たぶん地雷踏んでいます。
「そそそ、そんなことあるわけないでしょう!」
思わず大声で完全否定したマリアン。
ギルド内に響き渡ったその声は、その場にいた冒険者たちを振り向かせるには十分だった。
周囲の注目を浴びてしまったことに気づいたマリアンは、急に自分を恥じてうつむいてしまった。
「何だよ? そんなに怒られるようなこと言ったかな、俺」
女の子を怒らせてドギマギしているワッパガー。
「ハハハ……いろいろ事情があって、人前に出たことないやつなんで、許してやってください」
「わたしの弟子が、失礼いたしました」
セバスワルドまで謝罪した。
「お、おう。いいけどよ。こいつも新人講習受けるのか?」
「ああああ、こいつは俺が鍛えますんで、大丈夫です」
「そ、そうか。残念だな。可愛い女冒険者に講習できると思ったんだがな。ハハハハハ」
「そうですね。ハハハ」
引きつった笑いをしながら、俺はなんとかその場を丸く収めた。
「じゃ、必要なときはまた呼んでくれ。いつでもモブの力になってやるぞ。というか、最近はもう立場が逆だがな。モブが俺の力になっている」
「またまたぁ、そんなことないですよー」
そんなことを話ししていると、受付から声がかかった。
「マリアンナ・オメエノ様、お待たせいたしましたぁ。こちらがあなたのギルドカードです。初心者からのスタートですので、まだランクは記入されておりません。クエストは、あちらの掲示板から……」
「これに行きます!お願いします!!!」
マリアンはいつの間に、掲示板からはぎ取ってきたのか、
見つけた依頼書を、受付嬢の前に叩きつけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。
配信マネージャーのモブからお知らせがございます。
カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」
「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」
「知って腰を抜かすなよ、マリアン。
フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、最大一万円分のアマギフが当たるという、カクヨム太っ腹キャンペーンだ。
ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」
「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」
「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」
「あらん」
詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign
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