第3章 人気配信クエスト企画

第30話 休日出勤

 オラエノ伯爵邸で働かせてもらって、初めて休暇をいただいた。

というのも、ジレーナが婚約破棄の痛手を癒すために、別荘でしばらく暮らすことになり、初日だけオラエノ伯爵が、別荘にお泊りになる事になったからだ。


執事は主人の留守を預からなければならない。

しかし、セバスワルドは、「フットマンはいろいろと緊張と疲れがあっただろう」と配慮してくれたのだ。

その言葉に、俺は甘えることにした。


今日はタキシードを洗濯に出して、転移してきたとき着て来たファミレスの制服のまま、ベッドでゴロゴロしていた。


せっかくの休みだ。

これから受けるであろうクエストに備えて、久しぶりにスマホゲームでもしようかな。

ゲームの経験と知識はマジで役に立つ。


ゲームアプリを立ち上げ、スマホを見ながら寝返りを打つと、使用人部屋の入り口にセバスワルドが立っていた。


「フットマン、じゃなく今日はモブさんですね」


「はい、何かありました? どうしたんです?」


「一応、お伝えしたほうがよろしいかと」


「気になる言い方ですね」


「今、アルケナが来て、『お嬢様が今朝はモブさんがギルドに出かけないようですが、体の具合でも悪いのですか』と」


「なんだ、まだ朝のお出かけチェックされていたのか」


「それで、今日はお休みにさせましたと答えましたが、『でしたら、配信に来て』とのことです」


「休みなのにー」


「わたくしではありませんよ。お嬢様がおっしゃったのですよ。伝言ですが」


「わーった。行くよ」


本当に人使いの荒いお嬢様だ。

大きくため息をして起き上がり、使用人部屋を出ていく俺に、セバスワルドは一言付け加えた。



「業務ではありませんから、わたくしは同席しません。アルケナだけ同席させます」


「ってことは、休日出勤手当は出ないということですね」


「そうご理解していただいて、問題ないかと」


ブラックだ。

呼び出されていくのに、業務ではないときた。




マリアンの部屋をノックした。


「モブでーす」


「どうぞ」


部屋に入ると、マリアンはもうばっちり配信に備え、身だしなみを整えて待っていた。


「俺、今日休みなんだけど」


「でも、来てくださったのね。フフフ、久しぶりに見たわ」


「何を」


「タキシードじゃない、モブさんを」


「しょうがねえだろ、洗濯に出してしまったんだから」


「その服、初めて出会ったときに着ていた服ですわね」


「そんな話はどうでもいい。配信するんだろ。さっさと始めるぞ」


「たまには、配信以外の話をしたってよろしいんじゃありません?もっと、いろんなお話がしたいですわ」


「急に、しかも午前中に配信したところで、アクセス数は伸びないと思うが、とりあえずやるぞ」


俺は、冒頭のマネージャーからのメッセージを入力した。




“突然配信です。緊急ではありません。ツンデレ令嬢の思い付きで配信します。

注:マネージャーはオフ日につき、ダラダラ配信とさせていただきます”



俺は、マリアンにキューサインを送った。


「皆さま、ごきげんよう!【ビビアンの部屋】へようこそ!」



“おはよう!”

“え、今日は早いじゃん”

“早いとか言いつつ、みんな爆速で来てて草”

“今、電車の中で見てます! 通学途中です”

“俺は電車乗り遅れた。遅刻確定”

“マリアンの配信…もう仕事終わった気分だし帰るか…w”

“働け、社畜www”




予想外に早い反応。

みんな、そんなに暇なのか? でもないか。

通勤、通学途中に来てくれているんだ。

ありがたい話だ。


「あら、ごめんあそばせ。皆さまお仕事したり、学校に通ったりしているのですのね」



“俺は通勤の途中。勤務先は……ブラック企業だけど”

“みんなが、学校や仕事に行っているとは限らないよ”

“私は主婦だから、家で家事してるよ!”

“ボクは学校の記念日で休みだから、引きこもってますけど、何か問題でも?”



「そういえば、わたくしはリスナーさんたちのことを何も知らないですわ。

リスナーさんがいる世界は、彼がいた世界ですもの。どんな世界か興味があります」


その、彼って俺の事かな?


「わたくし、小さなころから家庭教師がついていたから、学校に通ったことがありませんの。ここでは学校といえば、女性は修道院、男性は騎士学校などありますけど、皆さまの学校ってどんなことをするんですの?」



“どんなって、私は普通に国語、数学、理科、社会とか勉強してるけど”

“俺もそうだな。どこも対して代わり映えはしないと思うよ?”

“マリアンの世界には騎士学校があるのか! かっけぇ!”



「国語? 理科? よくわかりませんが、こちらの世界と違って、どうやら男女共に同じような学校に通っているようですわね。男性も女性も、同じ学問ができるなんて、素晴らしい世界ですわ!」


そんなもんかね。

俺にとって日常だった世界が、マリアンにはそう見えるのか。


「この世界では、男性なら立派な騎士になれるように剣術を、女性ならば素敵な淑女になれるように、礼儀作法や品格を、学校や家庭で学ぶのが一般的ですの。

彼は、向こうの世界の学校で何を学んでいたのかしら」


俺の話はいい。俺の話は。


「ん? そういえば……。ところで、皆さまの世界では、剣や弓の扱い方の教育は受けませんの?」



“ないよーそんなの”

“だいたい、こっちには騎士なんていないからな”

“剣なんて持ってたら、銃刀法違反で捕まっちゃうしなぁ”

“まぁ近いので言うと、剣道とか弓道だろうけど…みんな習うわけじゃないよ”



まあ、マリアンにとってはカルチャー・ショックだろうな。

違う世界の話だし。


「ギルドへ連れて行けと騒いでいた彼は、剣術の経験がない……ということですの?

ずいぶんと楽しそうにしていたから、てっきり腕に自信があるのかと思っていましたわ」


え、自信があるなんて、俺は一言も言ってないぞ。

勝手に妄想を膨らますな。



“小説で読んだことあるけど、

ギルドでは、初心者向けに剣術を教えるとこもあるみたいだよ”

“そこで鍛えてもらってクエストに行くのか”

“なんで、うちらの方が詳しいわけ?w”

“お嬢様が、ギルドのことなんか知るわけがないんだよなぁww”

“普通は、貴族が依頼出す側なんだろうしw”



「なるほど、初心者向けの訓練みたいなものがあるのね。全くの初心者のくせに、冒険に行くとか息巻いていたとは……、なんというおバカさんなのかしら」


おい、一応、目の前に本人がいて聞いているんだけど。

おバカさんはないだろ。


「だから、あんなに朝早くギルドに行っていたのね。剣術を習ってから、クエストに向かっていた。そういうことなら納得ですわ。誰にも知られないように、努力していたなんて……、私ったら何も知らなかったわ。意外と努力家なのね」


お、おうよ。

そういうことだ。

今さらわかったか。



“マリアンの世界では、モンスターとか出るの?”

“モンスターを見たことは?”



「モンスターは、特定の森や遺跡、洞窟なんかに行けばいるらしいですわ。人里にはめったに出ないですけど、たまに出てくると討伐依頼をしますの。わたくしは残念ながら見たことがございませんわ」


貴族社会は、モンスター討伐を依頼する側だからな。

マリアンは知らない世界だよ。


「彼が戦っている相手。そう思うと、少しだけ興味が湧いてきますわね」



“モンスターってなんか熊みたいだな”

“熊なんかと一緒にすんなw”

“そういえばさ、マリアンは冒険者登録とかしてないの?”



「わたくしが、ですか? 貴族の令嬢が登録しているなんて、聞いたことがありませんわ」


それはそうだ。

噂話や足の引っ張り合いが好きな貴族界隈で、令嬢がモンスター討伐なんて野蛮なことをしていれば、すぐ全貴族に知れ渡るはずだ。

だが、そんな話を聞いたことがない。

つまり本当にそんな人はいないということだ。



“そうなの? 読んでる小説に、ストレス発散のために登録してクエストに行く、とかあったからさ”

“あくまでも小説じゃねぇかw 本物は違うに決まってるだろ?w”



そうだ、本物は違う。

お前ら、ファンタジー小説の読みすぎだ。



“家のストレスもあるしさ、

マリアンもこっそり、モブと一緒にクエスト行ってそうじゃん!w”



「彼と…一緒……?」


おい、待て。

マリアン、リスナーに洗脳されるんじゃないぞ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「いつもツンデレ令嬢を応援していただきありがとうございます。

配信マネージャー、モブからお知らせがございます。

カクヨムでは、12月26日から『積読消化キャンペーン』をやってます。」


「モブさん、『積読消化キャンペーン』って何ですの?」


「知って腰を抜かすなよ、マリアン。フォローしている作品を、10エピソード以上読んだ方には、なんとアマギフが当たるというカクヨム太っ腹キャンペーンだ。

ぜひこの機会に【ツンデレ令嬢を人気配信者にしたモブだけど、リスナーが協力的で助かってる】のフォローをしてください!」


「あら、マリアンの部屋はフォローしなくてもよろしくって?」


「作品のフォローとマリアンのフォローは同じだから安心しろ」


詳細はこちらです👉 https://kakuyomu.jp/info/entry/tsundokucampaign




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る