第27話 スカッと花火炸裂
スマホはジレーナを【追尾】しながら、配信し続けていた。
ジレーナは、リスナー先生と思い込んでいる機械が、ずっと自分を追いかけて来ることに気がついた。
「ちょっと、何あれ。あの機械、わたくしの部屋まで追ってくるってこと? キモっですわ!」
俺もスマホを追いかけた。
ジレーナは自分の部屋にリスナー先生を入れたくなかったのか、部屋へは向かわずに
階段をかけ降りて行った。
“お、これってお屋敷の中?”
“スゲー、マジで伯爵のお屋敷じゃん。格調高っけー!”
“面白い、異世界のお屋敷の中が見られる”
“貴重な映像、貴族の屋敷の中ばっちりです!”
ジレーナは、階段からエントランスへ向かって走って行く。
マズい。このままだと、ジレーナは外に出てしまうぞ。
外は、もう夜だ。
暗闇でお嬢様に何かあっては困る。
「誰かぁ、ジレーナお嬢様を止めてくれー!」
俺の叫び声に、セバスワルド、マリアン、アルケナ、ネッケナが走ってジレーナを追いかけ始めた。
この騒ぎに執事やほかの使用人も気が付かないはずがない。
執事に命じられて、ボーイたちまでジレーナを追いかけ始めた。
お嬢様のことだし、そんなに早くは走れないだろう、すぐ追いつくと高をくくっていた。
だが、それは誤算だった。
この、ジレーナお嬢様、意外に足が早い。
ドレスの裾を持ち上げながらも、必死にスマホから逃れようと走り続けている。
“外に出たのかな。暗くてよく見えない”
“このスマホ、マネージャーは持ってないよね”
“自動的に追っているのか、ヒュウ♪”
“ドローン撮影みたい”
暗くてよく見えないのなら、幸いだ。
ん? おっと、ジレーナは明るい方へ逃げていくぞ。
あっちは町じゃないか。
やばい、やばい、やばい、やばい。
夜の町へ向かったら、悪い奴に遭遇する確率が激増するじゃないか。
あの辺は、確か酒場と売春宿。お嬢様が行くような場所じゃない。
とにかく、早く追いついて止めなければ……
“まだ、アイテム使えそうだが、どうする”
“暗いから、明るくなるものがいいな”
“あ、花火があるけど”
“いいね。それなら、普通に花火の絵を押せばいいんじゃね?”
あと少しでジレーナに追いつく。
とにかく、ジレーナを止めよう。
その瞬間、
ヒュー―――
何? ミサイル?
突然、空に大輪の花火が開花した。
ドーーーン
パラパラパラパラ……
ジレーナは驚いて立ち止まった。
今だ、俺はやっとジレーナに追いついて、彼女の腕を捕まえた。
当たり周辺が花火の灯りで照らされ、景色が浮かび上がる。
驚きの表情のジレーナも、スマホで配信された。
“やったー! 見えた”
“妹ジレーナの顔を確認”
“いいぞ! どんどん上げろ”
「ジレーナ、家に帰ろう。こんなところにいちゃいけない」
俺はジレーナの手を引いた。
もちろん、この様子が配信されているのはわかっている。
だが、今優先するべきは、俺の事よりジレーナの身の安全だ。
ところが、ジレーナは茫然と前を見て動かなかった。
「ホジネオノ様?」
「バカか、こんなところに、あいつが居るわけがないだろ。しっかりしろ」
だが、ジレーナの目線の先には、確かに花火に照らし出されたホジネオノの姿があった。
しかも、彼の横には知らない女が寄り添っている。
ジレーナは、黙っていられない性格なのか、ホジネオノに向かって声をかけた。
「ホジネオノ様?! ……ですわよね」
ホジネオノはまずい現場を見られたとでも言うように、誤魔化しはじめた。
「いえ、人違いでは……」
かなり動揺している。
一緒にいた女は、何故お嬢様に声をかけられたのか、理由もわからずにホジネオノにべったりだ。
「ホジネオノさま~、きれいな花火ですこと。ご覧になって」
「いや、その、違うんだ」
これは、よく浮気がバレた時に使われる定番のセリフだ。
この男、マリアンからジレーナへ乗り換えただけでは飽き足らず、夜の町で他の女と遊んでいたのか。
最低だな。
“ちょっ、この男って誰だ?”
俺は、空中に現れたスクリーンに速攻でコメントを入力した。
“この男、マリアンの元婚約者で、ジレーナの現婚約者です。
夜の町で他の女と遊んでいるところを、偶然見つけたところ。
俺は、こいつが許せねえんだが……”
“モブか、いいぜ。俺たちも同意見だ”
“同じ花火で祝福してやるのはしゃくだな”
“違うタイプにする?”
そこへ、ようやくセバスワルドとボーイたちが追い付いてきた。
「ジレーナお嬢様、お屋敷に戻りましょう。おや? あのお方は」
「セバスワルド、わたくし悔しい…。ホジネオ様! 隣にいるのはどこの女よ!」
「ジレーナ、待て、落ち着け。この女は何でもないんだ」
すると、ホジネオノにべったりと寄り添っていた女がわめきだした。
「はぁ? 何でもないって、どういうことよ。あんたさぁ、あたしとは遊びじゃないよ本気だよって言ってたじゃない」
「あんたなんか、遊びに決まっているでしょ! この、あばずれ女」
「なんだって? どこのお嬢様か知らないけどさ、ガキはお黙り!」
「ガキですって? よくも……」
すると、
花火が再び上がった。今度は連発だ。
修羅場の様子は、画面に明るく映し出された。
花火のうちの、何個が高音を鳴らしながら、こっちに向かって来た。
ピューーーーーーーーーーー
この音は……、
「レジーナ、危ない! あの木の下へ逃げろ」
俺はジレーナを突き飛ばした。
パーン! パーン! パパーン!
“浮気男に命中! ロケット花火”
“グッジョブ!”
「あっつ! 熱い! 何だ何だ! 髪が、服が……、真っ黒焦げ。何だ、これは、敵国からの攻撃か?」
「キャー―、あんたといたらヤバい奴に狙われるわけ? そんなのまっぴらごめんだわ」
「おい、待て。これは何かの間違いだ」
「ええ確かに。ほんと間違いだったわ。あんたと付き合うなんて……、もう二度とあたしの目の前に現れないで! さよなら!」
「おい、おい!」
花火を見に来た町の人々も、この修羅場の目撃者になった。
「あきれた。サットガ侯爵の三男坊でしょ。あれ」
「言っちゃあ悪いが、頭悪そうだな」
「最近、オラエノ伯爵の姉妹を乗り換えたばかりじゃないの」
「おー、やだやだ、あんなの女の敵だよ」
「このご様子じゃ、オラエノ伯爵の耳にも入るだろうねぇ」
「かわいそうに、姉妹そろって破談だろ、これ」
セバスワルドは木の下に逃げたジレーナを、町の人たちの目から守るように、庇いながら屋敷へと連れ帰った。
何も事情を知らないマリアンは、今ごろになってやっと追いついてきて、キョトンと立ち尽くしていた。
「一体、何がありましたの?」
俺は、錯乱状態になっているホジネオノと、噂好き見物人を見せないように、マリアンの前に立ちふさがった。
「な、何でもない。さあ、帰ろう」
「配信は?」
「あ、いけね。忘れてた」
俺は手を伸ばして、スマホを取った。
「マリアン、今日の所はこれで、配信終了だ」
「あら、まだリスナーさんに、ラストのありがとうを言っていないわ」
「それは、俺からメッセージ送っておくよ。早く帰ろう。ジレーナも相当疲れていると思うよ」
俺は、歩きながらメッセージを入力した。
“『マリアンの部屋』をご覧の皆様、今日も見に来てくださりありがとうございます。
本日のスカッと企画に、ご協力いただきまして、マリアンの配信スタッフ一同とても喜んでおります。
尚、この企画はヒートアップしすぎ、これ以上は危険と判断いたしました。
急ではありますが、ここで配信を終了させていただきます。
またのお越しをお待ちしております。モブ”
「ジレーナは大丈夫かしら」
「明日になれば、いつもの元気なジレーナに戻っていると思うよ」
「だといいんですけれど…」
あんなに仲が悪いくせに、マリアンはやはりお姉さんなんだな。
優しいんだ。
ついでに、俺にも優しくしてくれ。
「マリアン、悪かったな。ちょっとやり過ぎた。まさかこんな結果になるとは思わなかった」
「……何を気にしていますの?」
「一応な」
「あの金タライのことなら、わたくし、スカッとしましたけど」
え? 妹を心配している姉って、あれは演技じゃないよな。
「帰りましょう。モブさん」
マリアンは鼻歌を歌いながら、軽やかにスキップして屋敷へと向かった。
お前な―、お前のために気を使って、ホジネオノの惨状を見せなかったんだぞ。
俺の苦労も知らないで、まったく呑気なもんだ。
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いかがでしたでしょうか。
「面白いぞ、モブ!」
「続きが気になる、この先のマリアンを読みたい!」
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