第26話 スカッとギフトアイテム

“マリアン来たよー!”

“この配信に来るのがもう日課だよw”

“お邪魔しまーす!!”

“コメント欄のトップって、いつもマネージャーさんからのメッセージだよね”

“なんか、姉妹でのコラボって書いてあった”

“スカッとするコメントをどんどん送ってほしいってさ”

“どういう意味だ?”

“こいつ、マリアンの婚約者を奪ったやつじゃね”

“マリアン、妹と一緒にコラボして平気なの?”

“くそマネージャーどういうつもりだ。こんな企画たてやがって”



 妹のジレーナは、スマホの画面を見て驚いていた。


「何、この文字は、誰がこんなことを書いて送っているの?」


「リスナーさんよ」


「え? これがリスナー先生からのお言葉? リスナーさん、わたくしは妹のジレーナでございます。いつも姉がお世話になっております」



“あーお前が、あの悪役令嬢のジレーナ?”

“あなたがマリアンの妹なの? 婚約者を奪ったっていう”

“マリアンの目が赤いぞ。あんたがまたマリアンが泣くようなことしたんだろ”

“私たち…入れ替わってる~とかならまだワンチャンあったかもなw”

“こいつ、配信したいって、マネージャーに無理やり言ったんじゃね?”

“配信の言い方が、疑問符あるように聞こえたぞw 何もわかってなくて草”



「まあ、どうしてわたくしが悪役令嬢ですの? お姉さまは結膜炎で目が赤いのですわ。マネージャーって誰? フットマンのことかしら。ええ、異国の言葉や文化をわたくしも習いたくて、リスナー先生に会いに来ましたのよ」



“リスナー先生ww”

“異国の言葉や文化だってさ”

“こっちの国じゃ、妹さんみたいなのは総スカンだ”



いいぞ、いいぞ。もっと炎上してくれ。

ターゲットはもちろんジレーナだ。


だが、マリアンはジレーナを気遣っていた。


「ジレーナ、気分を害したなら、わたくしから謝ります。大丈夫?」


「大丈夫かですって? どうして、お姉さまから同情されなきゃいけないのよ!」


なかなか、ジレーナはへこたれない。

根性が座っている。


「リスナー先生に、とっておきの情報がありますのよ。マリアンお姉さまは、最近、新しく入って来た使用人に夢中なんですの。二人で仲良くしているみたいよ。あ、これは秘密にしといてと言われたんだったわ。ごめんなさーい。今のは、ここだけの話ね。 リスナー先生、ショックかもしれませんわね」



“新しく入ってきた使用人って、誰だ?”

“たぶん、モブじゃね? またの名をマネージャーという”



お前ら、そうじゃない。俺の事ならマネージャーが先で、モブがまたの名だろが。



“まぁ、そうだろうな”

“別に、ショックじゃないんだけど”



「え? どういうこと? リスナー先生は公認してらっしゃるんですか?」



“その、リスナー先生って、モブが教えたのかな”

“なるほど、そういう企画ね。だからスカッとなんだ”



「お姉さまには、リスナー先生よりも大切な方がいるんですのよ。わたくしも心配しております。自暴自棄になっているのではないかと。婚約破棄されたすぐ後に、もう新しい殿方と、なんて……」


ジレーナは、目に涙をためてからそれを指で拭った。



“さすが、大女優じゃん!”

“はぁ? お前がマリアンの婚約者を奪ったんだろ!”

“こいつ、さっきから、スッゲー言い方がウザいんですけど”

“俺たちのマリアンを蔑む言い方、気に入らないな”

“私たちのマネージャーに取り入って配信させてるの、嫌悪感しかないわ”

“妹のジレーナってさ、話に聞いた通りの悪役令嬢だな”

“いや、話以上かもw”

“異国の文化を学びたいなんて、嘘確定やんww”

“ここの配信も奪おうとしてるとか?”

“なになに? 乗っ取り?”

“ありえねーやつが、【マリアンの部屋】乗っ取ってるぜ”



「なんでこの人たちには、私の演技が効かないんですの……。ものすごい勢いで文章が流れていくわ。これって……全部、わたくしに対する誹謗中傷じゃないの。次々に文章が湧いてきて、読むのも追いつかない。ダメ、リスナー先生たちの気持ちを誘導できないわ。なぜこの私が、こんなことを言われないといけないの?」


「ジレーナ、悪いことを言わないから、もう退室したほうが……」


「お姉さまがいるから、いけないのよ!! お姉さまと並ぶと、いつも比べられて、可愛いって言われるのはお姉さまの方なんですもの。あんたなんかが、姉じゃなかったらよかったのに」


「ジレーナ……」


そろそろ、バズってアイテムが使える頃合いだ。

俺はメッセージを送信した。



“”配信マネージャーのモブです。もしよかったらアイテムを利用してみませんか?



“お、マネージャーからのメッセージだ”

“おぉ、アンチコメントのおかげでバズって、ギフトが贈れるようになったww”

“スッゲー不名誉なバズり方w”

“なんか面白いギフトが出てるなwww”

“よし、さっそくジレーナに投げるアイテムをイメージしようぜ!”

“あのお月見バーガーの要領でいいんだな”

“みんな、イメージは固まったか?”



誹謗中傷がピタリと止まり、しばらく静かになった。


「何か、わたくしに贈ってくださるの? こんなに責めていても、やはりマリアンよりわたくしを選ぶのね。ようやくリスナー先生も、わたくしのモノになりましたわ。お詫びとして贈り物なんて、わかってらっしゃいますわ」


俺はマリアンに指示を出した。


「マリアン、部屋の隅の方に移動して、アイテムが送られてくるぞ」


「そうよ、お姉さま、邪魔ですわ。わたくしに、リスナー先生からプレゼントが届きますの。人気もプレゼントも、全てわたくしのものよ。お姉さまは部屋の隅っこで、指をくわえて見ていればいいわ」


俺はマリアンに向かって頷いて、早くよけろと合図した。

マリアンはよくわかっていない様子だが、とりあえず言う通りに部屋の隅に移動した。


その瞬間。



“せーの!”



そのコメントが流れると、

突然、ジレーナの頭上に何かが落ちてきた。



“ギフトアイテム【天罰】の効果エグいなw”

“マリアンに今必要だったのは、妹ジレーナへの罰だったってわけだww”

“8時じゃないけど全員集合して、意思疎通バッチリだったなww”

“何そのコメ、意味不明”

“ちっ! ジェネレーション・ギャップか”




「ジレーナお嬢様!」


セバスワルドは、一応任務としてジレーナに駆け寄った。

ジレーナのまわりには、コントの定番である日本の金タライがいくつも落ちていた。


マリアンもびっくりして妹のジレーナに駆け寄って、助け起こした。


「ジレーナ! ジレーナ! しっかりして!」


ジレーナは気が付いたとたん、その場にいられなくなったのか、それとも怖かったのか、

「キャー!」と悲鳴を上げて、部屋から逃げ出した。


しまった!

【追尾】機能によって、ジレーナを追ってスマホまで部屋を出てしまった。

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