第24話 悪いのは一体
「女の価値って、何で決まるのかしら。
お父様は領地を守るために、何としてでも、侯爵家と婚姻関係を結びたがったのでしょう。
貴族社会を生き抜くためには、相手は名家であることが必須条件ですものね。この世界で生きていくには、女も同じですわ。どのような殿方に気に入られ、どんな名家に嫁ぐかで、女の価値が決まるんですもの。
その点、ジレーナ。あなたは、貴族社会で生き残る術を身につけているわ。いい意味でも、悪い意味でも」
マリアン、よく言った。
しかし、ジレーナは俺が想像していた以上に負けず嫌いだった。
マリアンを貶めようと、わざと旦那様に聞こえるように猫なで声で言った。
「お姉さま、最近拾ってきたこのフットマンと、仲がよろしいのですね。」
ん? 俺の事か?
流れがこっちに来た。
ジレーナは、俺がマリアンに拾われたことを知っている?
俺は、マリアンの後ろに控えているアルケナをちらっと見た。
アルケナは小さく首を横に振る。
だよな。
マリアンに忠実なアルケナが、話をばらしたとは思えない。
セバスワルドだって、同じだ。
他のボーイやメイドは、事情を知らないはずだ。
ということは、
ジレーナが配信の内容を盗み聞きしたってことか。
「さぁ、何のことかしら?」
「お姉さまの部屋に、このフットマンが出入りしているのを、わたくし見てしまったの。」
「それは異国の言葉や文化を、フットマンから教わっているからですわ」
「でも、とても楽しそうにおしゃべりしていましたわよ。部屋に二人きりで何をしていたのやら」
「フットマンと部屋で二人きりになったことは、一度もございません。わざとフットマンのことを話題に出して、カマをかけたつもりなんでしょうけど、その手には乗りませんわ。
部屋には、セバスワルドもアルケナも同席していましてよ。なぜ、二人きりと断言できるのかしら。おかしいわね。壁に耳を付けて盗み聞きでもしていたのかしら?」
マリアンは、ジレーナからの口撃を上手くかわした。
その発言に顔色が変わったのはジレーナではなく、旦那様のほうだった。
「使用人は、やめて出ていく者や、新しく入る者などの入れ替わりが激しい。だから、全て副執事に任せているのだが、それがまずかったのか。
マリアン、お前は、私の目を盗んで、このフットマンと逢引きしているというのか?
身分が違いすぎる付き合いなど……世間の笑いものになりたいのか? お前にだってまだ縁談は来る! 勝手なことをするんじゃない!」
それは誤解だ。
その誤解は俺が解かなくては。
「ちょっとお待ちください、旦那様。俺のせいで、マリアンお嬢様をお叱りになるのはおやめください」
「モブさん、旦那様に口答えをするのはよしなさい」
セバスワルドが俺を制し、自ら進み出て罪を被った。
「全てわたくしの責任です。処分するならわたくしを」
マリアンはセバスワルドの懺悔を聞いて、全否定してきた。
「何を言っているの、セバスワルド! お父様、セバスワルドを処分したら、わたくしもう生きてはいけませんから!」
待て、待て。マリアンが生きていけないなら、俺だって生きていけない。
「申し訳ございません。全責任はこの俺、フットマンにあります。処分するならわたくしを!」
「何だ何だ、お前たち。我を我をと処分を希望しおって! 一体どういうことなんだ」
この笑劇に、女優ジレーナだって黙っているはずがない。
「責めないであげてお父様、お姉さまの婚約破棄の原因を作ったのはわたくしですから……、お姉さまの心が荒んでしまって、男遊びするようになったのは、わたくしのせいですの。」
なんと、そうきたか。
芸能人のスキャンダルじゃあるまいし。
おまけに、自分のせいだという同情をさそう演技までしやがって。
「おお、ジレーナあまり自分を責めるな。お前のせいではない。お前がそんなに悲しい顔すると、わしもつらい。」
はい、はい、はい、はい、この辺で感動的なBGMでも流しましょうか?
マリアンは父親と妹のデレデレ芝居に呆れて、茫然としている。
そして、ついにマリアンの口から『配信』という言葉が飛び出した。
「お父様とジレーナとで、毎日繰り広げられる家族ごっこは、もうたくさんです。
こんなくだらない貴族社会の、ごっこ遊びに付き合っている暇があったら、配信してリスナーさんと会話している方が百倍楽しいです。くだらない家族ごっこをしながら食べる、味の薄い野ウサギの肉なんかよりも、リスナーさんと食べるお月見バーガーの方が、千倍おいしいですわ!」
マリアンの発言によって、オラエノ家の食卓はシーーーンと静まり返った。
旦那様の頭の上には、はてなマークがたくさん浮かんでいる。
「マリアン? はいしんとは? ……リスナーとは誰だ。意味が不明だが」
ところが、ラスボス的存在のジレーナはさすがに反応が違った。
「わたくしも、フットマンの異国の配信に、参加したいですわ!!」
何、お前もか!
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