第21話 幸せのお月見バーガー

 どこからともなく現れた、お月見バーガーが、一個、二個、……五個。


リスナーが使ったアイテムが、現実の物として異世界に現れたのだ。

ハンバーガーの美味しそうな匂いが、ロココ調の部屋に充満した。


ぐぁぐぐぐぐぅ~


盛大に鳴ったのは、俺の腹だ。

しまった! スマホよ、この音は拾わないでくれ。


マリアンは不思議そうな顔をして、お月見バーガーをひとつ手に取った。


「これはお肉を焼いた匂いだわ。わたくしが望んだハンバーガーという物がこれなのかしら?」



“あっ! お月見バーガーじゃん”

“なんで!?”

“そういうシステムなの??”



リスナーさんが今起きた現象について議論している中、

マリアンは、美味しそうな匂いに食欲を刺激されて、我慢しきれずそのままかぶりついた。



“マリアン!? 紙は取る! 紙は取る!! 包んでいるのはただの紙だから!!!”



「え?……あ、あらぁ、知ってましたわ。ほほほほ! わざとですわ、余興ですのよ!」


とかなんとか言いながら、失敗を取り繕ったマリアンは、包装紙をむいて月見バーガーを一口食べてみた。


「これは美味しい! 皆さまの世界では、こんな美味しい物を召し上がっているの? 信じられなーい」


そうだよ、マリアン。それは最高に美味しい物なんだ。

おおお、ギブミー・お月見バーガー!

マリアンは俺の様子に気が付いて、空腹だと気が付いてくれたようだ。


「皆さんこんなにたくさん送ってくださって、ありがとうございます。でも、こんなに一人では食べきれないですわ。ここの配信スタッフと一緒にご馳走になってもよろしいかしら。特にマネージャーが一番腹ペコみたいなんですけど。フフフ」



“俺たちが送ったアイテムをどう使うかは、マリアンしだいだよ”

“その部屋にいる、みなさんで食べたら?”

“一人で食べるよりも、みんなで食べた方がおいしいよ”

“俺たちも、スマホの前で何か食べようぜ”

“いいね。食べながら配信。おもしれー”

“マネージャーさん、それで足ります?”



俺は急いで返信する。



“皆様のご厚意に感謝して、いただきます。ありがとうございます”



「モブさん、はいこれ。セバスワルドもどうぞ。アルケナも召し上がれ」


マリアンは部屋にいた全員に一個づつ手渡した。

わーい、ありがとう!!

リスナーさんのおかげで、俺たちまでハンバーガーを食べることが出来る。

部屋にいるメンバーで、お月見バーガーにかじりついた。


セバスワルドとアルケナは、最初は戸惑っていたが空腹には勝てなかった。

俺はというと、久々に元の世界の食べ物を頬張って涙が出そうになった。

マリアンまで、目をウルウルさせている。

どうした、マリアン、君まで泣く事はないだろう。


「泣くほど美味しいです。もちろん、それもあるけれど、誰かと会話をしながら穏やかに食事するだけで、これほど幸せな気持ちになれるなんて。わたくしが小さかった子供の頃を出したら、泣けてきてしまいました」


マリアン、君は今まで楽しい食事をする機会すらなかったのか。


「わたくしは、リスナーさんとの会話に感謝の気持ちでいっぱいです」


そうか、よかったな。

配信がマリアンの心の癒しになったのなら、俺はそれが一番嬉しい。


「この奇跡のような出来事と、リスナーさんたちの優しさのおかげで、わたくしは素敵なことを思い出すことが出来ました。久しぶりに食事が楽しいし、美味しいと思えた素敵な時間です。もう、周りの顔色をうかがわなくていいのよね。皆さんも、何か召し上がってくださいねー。なんだか、いつもより何倍も幸せな食事でーす」


おいおい、涙声になっているぞ。

ってか、口にケチャップが付いたままでしゃべってる。

泣きながらお月見バーガーを食べる伯爵令嬢の配信。

それが面白可愛いと、またバズってしまうだろ。

あと、ちょっといいですか? ハンバーガーが一個、余ってるけど。

それ、俺のでいい?





 その夜遅く。

今日の配信のアーカイブを作るため、動画編集しようとアプリを開いた。

問題なくスマホで編集できそうだ。

ここにテロップ入れると面白いだろうな。

マリアンのお惚気シーンは、ハートマークをいっぱい付けちゃえ。

マリアンが羞恥心の限界突破シーンも、エフェクト使おうかな。

一通り編集作業が終わったところで気が付いた。

ああ、このアーカイブの面白い部分だけ切り取って、ショート動画として投稿したらどうだろう。

ショートならいつも配信を見ない人も、興味を持って見てもらえそうだ。

それから、お月見バーガー出現シーンのテロップはこれだね、

MA・JI・KA・YO!!


みんなが寝静まってから俺は一人で、使用人部屋で動画編集に夢中になっていると、


「モブさん」


突然、誰かに話しかけられた。


うわっ! びっくりした。

セバスワルドが使用人部屋を覗きに来て、俺は注意された。


「明日は、馬車を出しませんよ。ギルドに行くのなら、走らなければいけないんですからね。寝不足は禁物です。早く寝てください」


「はい、申し訳ございません」


そうだった。明日は、一人でギルドへ行くんだった。

もう寝なくちゃ。

おやすみなさい。


明日、ワッパガーに顔を切られませんように。



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「めっちゃ面白くね?」

「続きが気になるから、はやく更新しろ!」

「今後どうなるんだっ……! もったいぶるな!」

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