第20話 配信アイテム利用可能
「マリアン、落ち着け。君が動くと俺が映り込むから……」
「あ、ごめんなさい。つい、感情が高ぶってしまいましたわ」
セバスワルドが、「早く二人が離れるように」という意味で咳払いをした。
コホン、コホン
“誰か、他にいるのか? 咳払いしなかったか?”
“キャー、一瞬だけマネージャーさん映った。タキシード姿だった!”
“嘘、見逃した!”
“大丈夫、今日の配信はアーカイブに残すって言ってたよ”
“でも、編集の段階でカットされるかもよ”
“誰か、録画してた人、スクショ求む!!!”
“マネージャーさん、顔に絆創膏貼ってた”
“一瞬だったのに、よく見てたな”
“あの咳払い、おっさん臭かったよね。誰かに監視されているの?”
“監視って何? 怖ーい”
一瞬の配信事故が、リスナーたちを盛り上げてしまった。
「皆さま、ごめんなさい。取乱してしまいましたわ。……、ふん、ふん、そうね、咳払いしたのは、副執事です。監視じゃなくて、同席しているだけですわ。それから、コメントは、……、凄い、皆さまの観察力!! 彼はタキシード姿、正解! それと、顔に絆創膏。これも、大正解でーす。皆さま、よく見ていますわねー」
おい、クイズ番組みたいになってるじゃないか。
俺で遊ぶな、俺で。
“マネージャーさんの顔の傷、どうしたんですか?”
“マリアン、喧嘩してひっかいたとかww”
「わたくし? ひっかきませんわ。逆ですわ、傷の手当をいたしました。メイドに命じてだけど」
“執事もメイドもいるんだ。スゲー”
“だから、マネージャーもタキシードなんだ。髭剃りの失敗か? あの傷は”
「彼は、ギルドで初心者講習を受けていて、切られたらしいですわ」
マリアン、余計なことを。
考えもなしに、思い付きでポンポンしゃべり過ぎだ。
まあ、何も考えていない天然なところが、魅力なんだが。
“スゲー、マジでギルドとかあるんだ”
“異世界転移して、毎日クエストに行ったらご飯食えるのなんて、最高じゃん”
いつの間にか初見さんが増え、コメント欄は大盛り上がりしていた。
やはり、異世界の話題は反応がいい。
「あら、ギルドでクエスト受けて、ご飯食べているわけじゃなくってよ。ちゃんと朝は屋敷内の掃除をしていますわ。朝の掃除が終わったら、一目散にギルドに行く姿をこの窓から見ていますもの」
何、マリアンは俺がギルドに行く姿を窓から見ていたのか。
“ちゃんと仕事してから行くのを、マリアンは窓からチェックしているということね♪”
“行動チェックする気持ちわかるー――!!”
“毎朝お見送りとか素敵!”
“ああマネージャーさんが出かける様子を配信してほしい”
“ここは『マリアンの部屋』だからな、『マネージャーの部屋』と勘違いしている奴がいる”
ハッと惚気から我に返ったマリアンは、急に恥ずかしくなったのか、みるみる顔が赤くなっていった。
マリアンのお惚気にコメント欄は一気に盛り上がった。
“転移してきた彼のことが好きなんだねww かっこいいの?”
初見さんの会心の一撃!
あ~ぁ!! 地雷を踏んだな。
その一言でマリアンの羞恥心は限界を突破した。
「だだだだ、誰が誰を好き!? 知りませんわ!!!! それに彼のことは、私だけが知ってればいいんですの!! 顔出しNGって言っていたから!!!!!」
だが、ミスって俺を写り込ませたのはマリアンじゃないか。
と、言い返したい気持ちを俺はぐっと抑えた。
昨日のような失態を繰り返すほど、俺はバカじゃない。
“ひぇ……”
“こっわ……”
“あっ…限界突破した……”
「た、た、たいしていい男でもないのよ? どこにでもいる顔だし、話もつまらないし!!!!!」
完全に冷静さを見失っているな。
“そ、そんなモブなんかのこと、どうでもいいよ!”
“そうそう! モブキャラなんて気にしたら負けだよ!!!”
“大丈夫、モブはわたしが引き受けるから。要らなかったらわたしに!”
「そうですの!!!! モブですの!!!!!」
俺の事を、モブキャラとか、好き放題言ってくれちゃって。
まあ、これで盛り上がってくれれば、俺はそれでいいんだが。
“あー………マリアン? とりあえず落ち着こうか”
“夕方だから西日で顔が赤くなってるように見えるだけだよね!!”
“そうそう!! 俺の家も今めっちゃ暑くてさ! マリアンの部屋ももしかして暑いんじゃない?”
「そうですの!! 今日は部屋が暑いんですの!! 西日のせいで赤く見えるんですの!!!」
必死に否定すればするほど、マリアンの顔は耳たぶまで赤くなっていた。
と同時に、いいねが連打されて急激に数が伸びていく。
リスナーさん、わざと楽しんでないか?
“やっぱり、初回のタイトル通り、ツン……”
“おい貴様…事実だが今は余計なことを言うな”
“マリアン今日も可愛いよ!”
“こんな彼女欲しいわw”
とコメントが続く。
“あっ、いつの間にか、アイテムのボタンが点滅してる”
“やった! 今まで使えなかったのにアイテムが使えるようになってるぞ!”
“ようやくか! ずっと投げたかったんだよねw”
“空気変えよか!! ビビアン何か投げて欲しいものある?”
マジか。
ついにアイテムが投げられるまでPV数が伸びたんだな。
よっしゃ!
「投げる? アイテム? 何のことかしら?」
リスナーさんからの問いかけに、マリアンはやっと落ち着きをとりもどしたようだ。
そして、リスナーさんたちは、マリアンにアイテム欄に表示されている物を教えてくれた。
カレーライスやカップラーメン、ドーナツなど、マリアンにとっては、聞いたことのない言葉が並ぶ。
これ、全部食べ物じゃないか。
旦那様やお嬢様たちの夕食は終わったが、俺たち使用人はまだ夕食にありつけていない。
俺にとって、胃袋を刺激される言葉のオンパレードだ。
「みなさまの世界で、美味しい食べ物はなんですか?」
マリアンは、素直な気持ちで聞いただけだ。
だが、その問いに対する答えを、俺は冷静に読む自信がない。
こっちは、空腹に耐えながら配信しているんだ。
“俺たち大したもの食べてないよ。ビビアンのほうがきっと美味しいもの食べてるよw”
“ビビアン、夕食は何食べたの?”
マリアンは今日一人で部屋食だったはずだ。
「子羊とりんごのポアレでした。もう食べ飽きましたの、こういうものは。みなさまは何を召し上がったの?」
確かに、俺が旦那様にサーブした料理はそれだった。
食べ飽きているだと?
この罰当たりめ!
“僕はハンバーガーだった。あとは、ポテトとコーラ”
“あ、お月見バーガーがセットでお得なんだよね、今”
“お月見バーガーとか本当に美味しくて毎日食べたいくらいww”
“……太るぞ(ボソッ)”
“あ゛?”
“いえ…なんでも”
ああ、いいなぁ。お月見バーガーかぁ。俺も日本では大好きだった。
食べたいなぁ。
「何ですのそれ!? なんか素敵ですわ! それ、それがよろしくってよ。わたくしに、ハンバーガーを投げていただけますか!?」
“かしこま!”
“ポチッ!!”
それを聞いて数人のリスナーさんが、アイテムボタンを押したようだ
すると目の前に、黄色い包み紙の美味しそうな匂いがするハンバーガーが数個現れた。
うっそーー! 現物支給かよ!
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