第14話 ゆかいな使用人たち
「あれ、バレました?」
「それが何なのか、わたくしには分かりかねますが、配信でたぶん謝罪文を出したのでは」
「よくわかりましたね。当たりです」
「お見事でした。お客様の心理というものをよく理解しているのですね」
「あー、バイトでしょっちゅう怒られていましたから、店長にも、お客様からも」
「なるほど。そのような経験を……。君は執事への道を昇りたいと思いませんか?」
「いいえ、別に。俺はここで、もっと強い勇者にならないといけないんで」
「勇者ですか? 君はそのままの君がいいと、お嬢様ならきっと、そうおっしゃいますよ」
「え? それじゃダメなんです」
「何故、そんなに勇者にこだわるのですか?」
「それは……もう少し待ってください。ちゃんと説明する時がきたら、言いますから」
「わかりました」
食堂の前に着くと、セバスワルドは、これから夕食の給仕の仕方を教えると言ってきた。
ここで一流の給仕を教わるのは、とても興味があった。
なにせ、俺はファミレスでバイトしていたから。
もしも、元の世界に戻れたら、一流ホテルでバイトしてもいいかな。
*
今日初めてきたばかりの新人なのに、オラエノ邸の使用人たちは皆、俺に優しかった。
セバスワルドが師匠についているのも、影響しているのだろう。
俺よりも年下の少年、たぶん中学生くらいの少年たちには特に好かれた。
彼らは、ボーイをしていて、
「俺たちは雑用係だ」と言って笑っていた。
でも、この中から、フットマン、執事へと昇進していくのだろう。
「聞いてるか? ボーイやフットマンって見た目が良くなきゃ採用されないんだってさ」
それは、信じられない。この俺がフットマンになれるんだから、その噂は嘘だね。
「噂でも、嘘でもないよ。俺たちは客人の前に出たときに、恥ずかしくないよう、
すらりとした美しい見た目が大事なんだよ」
でもさ、12歳くらいだと、まだ身長が伸びていく途中だから、この時点で背が高いか低いかは判断できないじゃないか。
「だから、食うんだよ。少しでも大きくならないとな」
「いや、お前は横に大きくなりつつあるから、気を付けな」
彼らは名前を呼んでいない。
何故だ。
「俺たちは、ファーストとか、セカンドとかと呼んでいる。ボーイは、しょっちゅう人が変わるからさ。みんな辞めて行くんだよ」
野球の守備じゃあるまいし、ファースト、セカンドって……、
そんなにつらい仕事なのか。
「上流貴族によってはキツイな。ここでは、要注意人物は一人だけだね」
そいつは、誰だい?
「言わないよ。俺がこの人の悪口言っていたってチクられたら困る」
そんなことするものか。
「でも、教えない。そのうちわかるよ。フットマンだって呼ばれるから」
気になる言い方だなぁ。
休憩時間になると、スマホをポケットから出して眺めていた。
ただ配信しているだけじゃ、なかなかトップにはなれないだろうな。
異世界から配信という他にはない特色。
これが多くの人の目に触れる機会を増やすにはどうすればいいか。
これが課題だな。
「フットマン? 賄いの時間だよ。一緒に食べようよ」
賄い食の時間になったのか、ボーイたちが俺を呼びに来た。
俺は慌ててスマホをポケットにしまい込んだ。
「お、おう、今行く」
ボーイたちは不思議そうに、俺の皿を見ていた。
俺の皿にだけ、シチューが大盛、黒パンが一つ多いし、
デザートが二つも付いているのだ。
それは不思議というより、羨ましくてしょうがないのだろう。
これは、マリアンと約束した結果なのだが、ボーイたちから見ると、俺だけ優遇されているように映っているかもしれない。
申し訳なくて、俺はボーイたちに言った。
「分けてやりたいが、これは俺の頭脳戦で勝った戦利品なんだ。悔しかったら、君たちも頭脳戦で勝つんだな。なーんてね、嘘だよーん。分けてやるから待ってろ」
「うわーい、さすがフットマン、太っ腹」
「寒いダジャレやめろー」
ボーイたちとわいわい食事をしているところを、俺はセバスワルドに呼ばれた。
「モブさん、マリアンお嬢様がお呼びです」
「え? 今? なんで今なんだよ」
俺は振り返ってボーイたちに言った。
「いいか。俺が戻るまで、俺の食事に手を付けるなよ!」
「はーい、フットマン。かしこまりー」
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