第14話 ゆかいな使用人たち


「あれ、バレました?」


「それが何なのか、わたくしには分かりかねますが、配信でたぶん謝罪文を出したのでは」


「よくわかりましたね。当たりです」


「お見事でした。お客様の心理というものをよく理解しているのですね」


「あー、バイトでしょっちゅう怒られていましたから、店長にも、お客様からも」


「なるほど。そのような経験を……。君は執事への道を昇りたいと思いませんか?」


「いいえ、別に。俺はここで、もっと強い勇者にならないといけないんで」


「勇者ですか? 君はそのままの君がいいと、お嬢様ならきっと、そうおっしゃいますよ」


「え? それじゃダメなんです」


「何故、そんなに勇者にこだわるのですか?」


「それは……もう少し待ってください。ちゃんと説明する時がきたら、言いますから」


「わかりました」


食堂の前に着くと、セバスワルドは、これから夕食の給仕の仕方を教えると言ってきた。


ここで一流の給仕を教わるのは、とても興味があった。

なにせ、俺はファミレスでバイトしていたから。

もしも、元の世界に戻れたら、一流ホテルでバイトしてもいいかな。




 今日初めてきたばかりの新人なのに、オラエノ邸の使用人たちは皆、俺に優しかった。

セバスワルドが師匠についているのも、影響しているのだろう。

俺よりも年下の少年、たぶん中学生くらいの少年たちには特に好かれた。


彼らは、ボーイをしていて、

「俺たちは雑用係だ」と言って笑っていた。

でも、この中から、フットマン、執事へと昇進していくのだろう。


「聞いてるか? ボーイやフットマンって見た目が良くなきゃ採用されないんだってさ」


それは、信じられない。この俺がフットマンになれるんだから、その噂は嘘だね。


「噂でも、嘘でもないよ。俺たちは客人の前に出たときに、恥ずかしくないよう、

すらりとした美しい見た目が大事なんだよ」


でもさ、12歳くらいだと、まだ身長が伸びていく途中だから、この時点で背が高いか低いかは判断できないじゃないか。


「だから、食うんだよ。少しでも大きくならないとな」


「いや、お前は横に大きくなりつつあるから、気を付けな」


少年ボーイたちと俺は笑いあった。

少年ボーイたちの会話を聞きながら、気が付いた。

彼らは名前を呼んでいない。

何故だ。


「俺たちは、ファーストとか、セカンドとかと呼んでいる。ボーイは、しょっちゅう人が変わるからさ。みんな辞めて行くんだよ」


野球の守備じゃあるまいし、ファースト、セカンドって……、

そんなにつらい仕事なのか。


「上流貴族によってはキツイな。ここでは、要注意人物は一人だけだね」


そいつは、誰だい?


「言わないよ。俺がこの人の悪口言っていたってチクられたら困る」


そんなことするものか。


「でも、教えない。そのうちわかるよ。フットマンだって呼ばれるから」


気になる言い方だなぁ。



 休憩時間になると、スマホをポケットから出して眺めていた。

ただ配信しているだけじゃ、なかなかトップにはなれないだろうな。

異世界から配信という他にはない特色。

これが多くの人の目に触れる機会を増やすにはどうすればいいか。

これが課題だな。


「フットマン? 賄いの時間だよ。一緒に食べようよ」


賄い食の時間になったのか、ボーイたちが俺を呼びに来た。

俺は慌ててスマホをポケットにしまい込んだ。


「お、おう、今行く」




 ボーイたちは不思議そうに、俺の皿を見ていた。

俺の皿にだけ、シチューが大盛、黒パンが一つ多いし、

デザートが二つも付いているのだ。

それは不思議というより、羨ましくてしょうがないのだろう。

これは、マリアンと約束した結果なのだが、ボーイたちから見ると、俺だけ優遇されているように映っているかもしれない。

申し訳なくて、俺はボーイたちに言った。


「分けてやりたいが、これは俺の頭脳戦で勝った戦利品なんだ。悔しかったら、君たちも頭脳戦で勝つんだな。なーんてね、嘘だよーん。分けてやるから待ってろ」


「うわーい、さすがフットマン、太っ腹」


「寒いダジャレやめろー」


ボーイたちとわいわい食事をしているところを、俺はセバスワルドに呼ばれた。


「モブさん、マリアンお嬢様がお呼びです」


「え? 今? なんで今なんだよ」


俺は振り返ってボーイたちに言った。


「いいか。俺が戻るまで、俺の食事に手を付けるなよ!」


「はーい、フットマン。かしこまりー」




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