第13話 声だけ晒される
俺の事を聞かれたマリアンの顔は、みるみる赤く染まっていく。
なんでだよ。
“何? 何? 恋バナ? 一目惚れ?w”
“聞かせてよー! 彼のこと”
「一目惚れだなんてそんな……たまたま道で拾って、使用人にしただけですの」
“道で拾った!?”
“何それw 犬猫みたいなw”
“ふーん、その道で拾った犬猫から配信を教わったと。なるほど、そういうことか”
「犬猫? そういえば、犬に似ているかもしれないわね」
マリアンは俺の方を見てクスっと笑った。
犬に似ているってなんだよ。
やっぱり、捨て犬だと思われていたのか、俺は。
そんなことを考えていると、新しいコメントが届いた。
“マリアン、プロフィールに何も書いてないですけど、書いた方がいいよー”
“アイコンも、ちゃんとしたの作った方がいいと思う!”
“せっかく可愛いのに、もったいないからね”
ああ、あれは馬車の中で適当に作ったアカウントだった。
プロフィールもアイコンも設定していない。
「プロフィールというのは自己紹介ですわよね? それを書く場所がありますのね?
あと、アイコンって何ですの? 彼は教えてくれませんでしたわ」
教えてくれませんでしたわ、だと?
俺が説明するより早く、君が配信スタートを押したんだろが!
「配信の仕方の他に、そんなものまであったとは知りませんでしたわ」
それはそうだろう。ろくに説明を聞かないで、君はいきなり配信始めたんだからな。
“大丈夫! それくらいなら俺たちが教えてあげる!”
“んー……俺たちじゃなく道で拾った犬に教えてもらえばいいんでね?”
“そうだよ。優しい彼に教えてもらえばいいじゃない?”
まあな、それが俺の仕事だしな。
リスナーに聞くなら、俺に聞けだ。
「優し……くはないわよ。上から目線で怒るし、乱暴な言葉使いですし」
どっひゃーーー!
ここで、なんてことを暴露するんだ。
そういうことは、配信を切ってから俺に直接言え。
「なんだか、優しい彼とか、自分で言うのはいいけれど、人から言われると照れ臭くて否定したくなりますわね」
“でもマリアンはそんな彼に一目惚れしたんでしょ?”
“名前は? 彼の名前はなんて言うの?”
“マリアンが好きになった人の名前は気になるなぁ!”
“ほら、ほら、教えてみ? 愛しの彼のお名前!”
リスナーは完全に煽りにかかった。
煽られて、マリアンの羞恥心は限界を突破した。
その結果、
「そんなわけありません! あるはずないでしょう。ただの道で拾った犬ですのよ!? そう! 言ってしまえば駄犬ですわ! リスナーさんたちが何を考えているのかわかりませんが、全っっっっっっっっっっっっ然、お門違いですわ!! 名前だって、なんだか変てこりんで……、駄犬に名前なんてあるわけないでしょう!!」
おっとー。駄犬ときたか。
俺は、取り乱したマリアンの発言に挑発され、気が付いた時には声に出して反論していた。
「言ってくれるじゃないか。駄犬で悪かったな」
「あら、ごめんなさい。感情が先走ってわたくしったらとんでもない事を……」
リスナーたちは、マリアンの突然の暴走に驚いていた。
“ほら、やっぱり男の人の声”
“何? 彼が配信を手伝っているの?”
“異世界転移者、って、この声の人が?”
「わたくしの配信に、一緒に入ってくださるのかしら」
「あああ、声だけ入ってしまったぁ。俺の仕事はあくまでも配信を手伝うことだけだ。俺は顔出しNGだと言っただろ」
「わかっておりますわ! ですから、その役目に徹してくだされば結構です。余計な口出ししてきたのは、あなたでしょう」
「この……、」
言い返そうとしたが、俺から見える位置にセバスワルドが移動してきて、必死に首を横に振っている。
師匠がそんなに止めるなら、ここは堪えどころだ。
俺は、ぐっと我慢した。
「申し訳ございません。出過ぎたことをしました。俺の仕事はあくまでも配信マネージャーです」
「そ、わかってくだされば、もう結構です」
“こっわ……”
“もう彼の話はやめようか”
“配信中にガチで喧嘩始まると思わなかった”
“彼から謝ったぞwwww”
“え? できるマネージャーなんじゃね? ちゃんと引くべきところ引いたし”
“さっきから思ってたんだけど、喧嘩しながら撮影ポイントはブレてないよね”
“このマネージャー、なかなかやるね”
“提案なんだけどさ…彼のことをマリアンの前で呼ぶ時は『モブ』って呼ぶことにしない?”
“『モブ』…いいな。その他大勢みたいな意味だし。そもそもスタッフだからな”
また、ここでもモブか。
俺はモブと呼ばれる星の元に転移したとでもいうのか。
マリアンの配信に、俺は自分のアカウントで入ってコメントした。
操作画面が空中スクリーンに現れて、そこで入力。
“ご視聴いただきありがとうございます。マネージャーのモブです。
さきほど、お聞き苦しい放送事故が起きましたことをお詫び申し上げます。
これからも、マリアンを人気配信者にすべく精進してまいります。
皆様、応援のほどよろしくお願いたします”
“お、さっそく謝罪文だ。仕事早くね?”
“このモブって言う人のアイコン、Mだけど”
“やっぱりモブで合ってたんじゃん。なんだか面白くなってきたな、マリアンとモブ”
“うん、面白そう。応援したい”
“がんばれ! 異世界のマリアン。最高かよ”
マリアンは流れるコメントについていけないでいた。
「なぜ? お見苦しいところを見せてしまったのに。どうして、皆こんなに優しいんですの?」
マリアンは、目をウルウルとさせていた。
「さあ、なんでだろね」
俺は自分の謝罪文の事は黙っていることにした。
これは、マリアンが自分の力で得た人気なのだ。
俺は、少し後押ししたに過ぎない。
「嬉しいですわ。みなさま、とても優しくて。わたくしは今、とても幸せです。
ありがとうございます。いやだわ、メイドのアルケナまで泣いちゃって、わたくしまで泣いちゃいそう」
メイドのアルケナは、エプロンの裾で涙を押さえていた。
マリアンが、リスナーに受け入れられ、また、マリアン自身も幸せを感じた瞬間だった。
“お、他にも誰かいるの? メイドさん?”
“メイドさんがいる生活、憧れるー-”
“メイド! メイド! 見てみたい!!”
“可愛いメイドさん!?”
メイドと聞いて、リスナーが盛り上がりをみせた。
ここで、アルケナまで引っ張り出されては大変だ。
せっかく、アクセス数が伸びてきたところで切るのはもったいないが、
引き際に、チラ見せして終わるのも手法だ。
俺は、マリアンに「そろそろ終了」と小声で伝える。
マリアンは、おれの声に頷いた。
「皆さま、申し訳ございません。ここで一旦終わりますわ。また遊びに来てくださるかしら?次回までに、アイコンとプロフィールは……彼に作ってもらいますわ。では、皆さまごきげんよう」
マリアンは先ほどまでのリスナーとのやり取りが楽しかったのだろう、とてもいい顔をしていた。
婚約破棄された時とは打って変わった明るい笑顔で、画面に向かって手を振っていた。
“メイドさんにもよろしくー!”
“モブさんにもよろしくー!”
“また来るよ!”
“じゃあまたね~ ノシ”
俺はスマホの配信ボタンを押して、終了させた。
俺が元いた世界からのコメントを、異世界から読むという不思議な体験だった。
それにしても、マジでスマホにスキルが付与されているのな。
「何なんですかぁー、お嬢様―。お嬢様のあんなに幸せそうな顔を、初めて拝見しました。わたし、嬉しくて涙が。この不思議なやりとりって、魔術か何かですか?」
配信を終了したとたん、メイドのアルケナがマリアンに駆け寄ってきた。
「魔術じゃないのよ。これは、この彼が持っていたスマホというもので、向こうの世界の人と通信ができるの。配信っていうのよ」
「このフットマンはどこの国から?」
「アルケナ、それは内緒にしてくださる? スマホがある向こうの世界から来たのを、たまたま……ひろっ……出会ったの」
今、拾ってと言おうとしたな。
「そうでしたか。それでセバス様もご一緒で……」
「配信……こんなに楽しいものなのね。何かしら、この充実感は。肩書や家柄なんて関係ない、ありのままの自分で話せる友達ができた気分だわ。配信……なんて素敵なのかしら。今後もわたくしの配信を手伝っていただけます? モブさん」
「はい、もちろん。俺がマリアンさんを人気配信者にしてみせます」
「頼もしい事をおっしゃるのね」
セバスワルドはマリアンの様子を見て、嬉しかったのだろうか。
相変わらず、クールなポーカーフェイスだが、
一瞬だけ後ろを向いてハンカチを出していたのを、俺は見逃していなかった。
「さ、お嬢様はお疲れです。夕食までの時間、ゆっくりとなさってください。わたくし共はここで……、モブさん、行きますよ」
「はい、セバスワルドさん」
俺は、セバスワルドに促され、一緒にマリアンの部屋を出た。
使用人部屋へと向かう廊下を歩きながら、セバスワルドに話しかけられた。
「君は、配信で見ているお客様が、気分を害さないように、何かしていましたね」
あれ、見てたのねー。
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